第44話 奴隷売買はハードルが高すぎる

グレーゾーンの取引と言われたけど、奪還したコンテナの中には女性がいた。

人身売買は完璧ブラックゾーンの取引です。


「おい。どういう事だ」

「何の事ネ?」

「これは、人じゃないのかよ?」

「人じゃないアルネ」

「どっちだよ」

「これは、人じゃないネ」


お約束のボケをしてきたので、語彙を強くして確認する。手は腰の剣に伸びている。

だが、ハーンは首を横に振る。


「これはアンドロイドヨ。人造人間アルネ」


そう説明されて、再度コンテナの中を見る。


ピクリとも動かない裸の女性だ。確かに密封されたコンテナの中にいたら普通の人間は酸欠で死ぬだろう。裸なので分かるが、体に生命維持装置の様なものをつけたりはしていない。


「…はぁ~」


とりあえず、人身売買の片棒を担がないで済んで、安堵のため息を吐く。


昔のヤンチャな頃の自分ならともかく、今のオレは転生後のオレだ。多少の違法行為は飲み込めるが、さすがに奴隷売買はハードルが高すぎる。


「なんでアンドロイドの取引で賄賂が必要なんだ?」


アンドロイドは確かに高級品だが、同時に正規品でもある。当然その取引は合法だ。

24時間365日無休で働く人造人間は、様々な分野で活躍していた。


たとえば、中継ステーションの店舗の店員などの受付ロボットも、接客などではアンドロイドが対応している場合もある。


どんな僻地にでも文句なく行くし、年中無休のブラック営業でも誰も困らない。社会において人件費軽減の救世主と言ってもいい。


「…中古のリストア品ネ」

「出所は聞いちゃいけないタイプの中古か」


ハーンの言葉に、口から言葉が漏れる。


高級品であるアンドロイド。それも人と見間違うほど精巧なアンドロイドは目的にもよるが高級品である。

それゆえに、製品には正式登録が必要であり、当然その管理が必要なる。


例えば医療や介護用の看護アンドロイドが、最新医療に対応できずに、医療事故を起こしたり、秘書兼護衛のアンドロイドがハッキングされて主人を襲うようなことになったら、製造した企業にとっても信用問題だ。


そして、最もアンドロイドが出回っているのが風俗産業だ。


どんな要望にも応えられるアンドロイドの需要は高い。同時に、様々な規制がかけられている分野でもある。


そして、管理される以上、管理するための経費が必要となる。それは当然、扱うアンドロイドの数が増えるほど増加していく。


そう言った経費を抑えつつ安価でアンドロイドを購入したいというニーズも当然あるわけだ。風俗営業形態としては様々な規制や管理が必要になるが、個人レベルになると要求ラインはぐっと下がる。


そう言った法の目をくぐるような話は枚挙にいとまがない。


そうか。さっきの下着や制服もその系列か。

おそらく、ハーンは風俗関連のアンドロイドを取引するつもりらしい。


「で、こいつはハイエンドモデルか」


コンテナ内の女性の体は滑らかだ。安物ならビニールのような肌の質感だったり、関節部分などの接合部がむき出しになっていたりする。


一瞬本物の人間と見まごうばかりのアンドロイドは、最先端の最高モデルだ。現在でも、より自然により人体に近くするために各企業が技術を磨いている。


「そうアルネ。一番の目玉商品ヨ。それに目をつけられてネ。何としても回収する必要があったアルヨ」


嬉しそうにうなずきながらコンテナのロックを外していくハーン。

とりあえず、目的のものを見つけたので、ため息をつきつつ。何気に隣のコンテナを見る。


コードNoは違うが同型のコンテナだ。特に理由もなく確認用の窓をのぞく。


「なあ、こいつもアンタのアンドロイドか?」


その中にも、一人の少女がいた。ロリコン用?


多種多様なニーズに答えるべく、アンドロイドはそらの分野に対応した商品を開発していた。当然、商売人はそう言ったニーズに答える商品を準備するのだろう。


だが、オレの言葉に、ハーンがのぞき込み首を横に振る。


「チガウね。アタシの品はコレ一つだけよ。それにコッチは、アンドロイドとチガウ。ちゃんと生命維持装置が付いてるネ。これ人ヨ」


ハーンに指摘されて中を見る。確かにさっきのアンドロイドと違い口に人工呼吸器の様な機器が取り付けられており、そこから伸びたチューブがコンテナ内に設置された装置に接続され、そこには様々な数値が表示されていた。


「…」

「…」

「ここって、役人の賄賂の保管庫だよな」

「そうネ。ダミー会社で隠蔽しているけど倉庫アルヨ」


状況を再認識してオレとハーンは無言で顔を見合わせる。


「おう。ジーザス」


先に口を開いたのはオレだった。

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