第43話 グレーゾー…いや、普通に黒だな

道の駅ステーションといっても、そう特殊な構造をしているわけではない。


骨組みの様な商業エリアに、ブロック形式で店舗が接続している構造だ。開店時に店舗ブロックをドッキングさせて、閉店するときに切り離して別の場所へ移動させる。

ステーション側が用意するのは中枢と店舗をつなぐ通路。あとは客の船を留める宇宙船ドックだ。


もちろん、定住者用の居住スペースなども追加される場合があるが、その辺は各ステーションによる。多分、いろいろ規制とか手続きとかあるのだろう。


まあ、何が言いたいかといえば、普通にステーションの外壁は宇宙空間だ。



そんな所に、スペーススーツで二人。

推進ボードに乗って、ステーションの外壁に沿って移動し、ハーンの案内で、あるブロックの外壁へ移動する。


胡散臭い交易商人ハーンの仕事は、予想していた通りきわめて犯罪行為に近い内容だった。

黒か白かで言えばきわめて黒に近いグレーゾー…いや、普通に黒だな。


要約すると賄賂の奪還である。


もともとハーンは、グレーゾーンの商品の取引の為に来たのだが、治安維持組織の目をかすめるために、ここの役人に賄賂を贈って見逃してもらう予定だった。だが、それが相場以上の額を要求されてしまい、その時は支払ったものの。そのままで泣き寝入りでは利益が出ない。


そこで、支払った賄賂をこっそり無断で回収しようという話なのだ。

犯罪行為による犯罪行為の為の犯罪。これはナニ主権というのだろうな?


まあ、法に訴えられないから黒じゃないという理論が万人受けしないことは認める。


「ここのコードをクラッシュするまで少し待つネ…」

「そんな場当たり的でいいのか?」

「別に問題ないアルヨ。どうせ次にここで商売する時はアタシ別の人ネ」


手に持った端末をつなげて、外壁のハッチを開けるハーンに声をかけると、さもどうでもよい事のように答えが返ってくる。


ぶっちゃければ、賄賂で送った品を強奪されれば、誰がここを襲ったのかわかるだろう。


賄賂である以上、法に訴えることはしないまでも、「犯人が誰か」とか「どんな犯罪行為をしているか」といった情報は漏れることになる。

とはいえ、それが発覚する前に逃げてしまえば、それまでだ。


次に来る時は、船籍コードを別のIDに偽装すればいい。毎日様々な船が行きかう中継ステーションだからこそ、その中の一つ一つを精査するのは難しい。


ハーンも、次の賄賂を贈る相手を別にすればいいだけだ。ここは治安の悪い方のLSSだ。汚職官僚が一人しかいない上品な場所ではない。


軽く肩をすくめてバイザーをスモークモードに切り替える。顔を見えなくする事で、監視カメラ等の映像をごまかすシステムだ。

もちろん、本来の使い方は違う。太陽などの恒星の強い光を抑えるためなのだが、そこは基本機能の有効利用という事にしておこう。


外壁のハッチが開き、エアロックを使ってブロックの中へ入る。

明かりのない倉庫ブロックではあるが、中にはいくつものコンテナが山と積まれていた。


「これを一個一個調べるのは骨だな」

「大丈夫ネ。どのコンテナかは分かるアルネ」


オレの言葉にハーンが端末を操作すると、いくつもの円を重ねた画面が表示され、そこにいくつかの光点が移る。コンテナに発信機か何かをつけていたのだろう。


その発信機を頼りにコンテナを探す。

最初の一個はすぐに見つかった。コンテナの内部ののぞき窓から中をのぞく。


「下着?」


中には様々な女性用下着がつるされていた。大小さまざまと表現したほうがいいかもしれない。かなりエグイ物までチラホラ見える。


「こっちもネ」


ハーンが示すコンテナをみると、そこには様々な女性用衣服がならんでいる。メイド服とかナース服とか…セーラー服?

コイツの言うグレーゾーンって、どこの法律のグレーゾーンだ?


「あとは…この辺アルヨ」


自分の端末見つつハーンが迷うように周囲のコンテナを見回す。


さっきの衣服系のコンテナと違い。こちらは小型のコンテナが並んでいる。一辺1メートル。奥行2mほどの細長いコンテナが積みあがっており、コインロッカーのようにも見える。


「これじゃないか?」


コンテナに記載されたコードを手分けして探す。

しばらくして、端末が示していたコード番号の書かれたコンテナを見つけた。


「…おお、これネ。コレコレ。ありがとうトモダチ」


そう言って、中を見るハーンの背後からオレも中を見る。


「おう。ジーザス」


中には裸の女性が横になっていた。

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