第94話 どう見ても計画的な犯行である

アレレ~~おかしいよ~。

正義感で子供を救出したら、現体制政府の裏の顔を潰した可能性が出て来たよ~。


落ち着いて考えよう。もし本当に共和国の上前をかっさらったとして、なぜオレ達はまだ無事なのだろうか。

共和国的に今回の事件は大した問題ではなく、オレ達の行動程度は「小癪な奴め」程度で笑って許してもらえたという可能性は…ほとんどない。


わざわざ合法的な方法にロンダリングしてまで入手する手間までかけているのだ。そのリスクに見合うだけの実行理由が存在するはずだ。


少なくとも、社会的に価値のない無法者を見逃す理由はない。


では、オレ達が現在も無事なのはなぜか。

それは、オレ達の乗っていた船による可能性が高い。つまり前の船シェイク号だ。


宇宙において個人を追うのは至難の業だ。調査範囲も精査する情報量も膨大な宇宙で、さらに個人の外見なんて簡単に取り繕う事が可能だ。体格や体型すらサイバーパーツで変化させられる。

だからこそ、対象の乗る宇宙船から足取りを追うのが定石となっている。


つまり、最初のルーインの盗…救出から始まり、残りの二人を回収した際、容疑者として共和国軍に目をつけられたのはシェイク号だ。


とはいえ、このシェイク号。OSSで非合法に製造された不法船である。

製作者不詳でメーカーなんて存在しないし、安全基準無視で公的機関に見つかれば捕まる違法な宇宙船だ。

当然、正規の宇宙船舶登録などされておらず、その所有者や管理についての情報など存在しない。


ついでに言えば、所有者であるオレ自身も不法密入国者で、共和国内に存在する情報は皆無。これまでの行動も社会的な記録も一切されていない。

住所不定無職どこか、身元不詳で社会保障すらない。

意図したわけではないのに「ジョン・ドゥ」になっている状況だ


つまり、オレ個人とシェイク号を紐付ける事はほぼ不可能だ。


かといって、ローラー作戦でしらみつぶしに痕跡を見つけようとしても無理な話だ。

なにせ、三人を救出したすぐ後に、海賊ナディアからもらった報酬として船を交換している。対象となるシェイク号はスクラップとしてジャンクの中だ。

当然、関係者である宇宙海賊ナディアや、そのコネで生計を立てるジャンク屋。怪しい商人ハーンからの情報が提供される事はないので、後を追う事はできない。


つまり、痕跡はきれいさっぱり途切れているのだ。


…状況証拠だけ並べると、どう見ても計画的な犯行である。


つまり、現在の状況を被害者視点で分析すると、共和国軍の裏取引の計画をピンポイントで邪魔した上に、巧妙に痕跡を消している正体不明の一団が存在するという事になる。


「おう。ジーザス」


おかしい。オレはただ社会生活を改善しようとしているだけなのに、なんだかとてつもない脅威に見られている気がする。




おちつけ、少し冷静に考えてみよう。

オレは現在捕まっており軟禁状態だ。絶体絶命といってもいい。

ヘックスは賞金稼ぎで稼いでいた経験がある。それは非合法であるが、実績は嘘をつかない。

しかし、だからといってオレを共和国に突き出すとは考えづらい。


理由は二つ。

一つは、そもそもオレが賞金首にはなっていないこと。

さっきも言ったが、賞金がかかっていないのに捕まえたただの誘拐だ。賞金首は犯罪者として公開され、それを政府が賞金首認定して始めて賞金首になる。

犯人(オレ)の特定がされていない以上、オレを共和国に突き出すのは事情を知っての善意の提供でしかない。確実な利益を得るとは言えない。

そして、理由の二つ目だ。

ヘックス自身が共和国の賞金首である以上、オレを突き出したら、一緒に捕まる事になる。カモがネギしょって来るどころか、鍋に乗って火にかけられて流れてきたレベルの自爆である。


そして、オレをあの場所で殺さなかった事で、ヘックスにはオレの口封じの意図はないと判断できる。

実際、口封じをするまでもない、なにせ住所不定無職の無法者だ。秘密を知ったとしても、信用がない以上、何を話そうと与太話でしかない。


このまま、どこか遠くの惑星やステーションに放り出すつもりかと思ったが、それも違うだろう。


なにせ、それならあの惑星で放り出せば事足りるのだ。宇宙船において食事や空気もタダじゃない。こうやって、パックフードを出している段階で、オレが生きている事が必要になるという事だ。


当然だが、オレに後ろ盾や使えるコネなんてない。良くも悪くもただの無法者だ。

となれば…

雑談レベルのヘックスの言葉を思い出す。


「そういえば、一族の顔役がいるとか言っていたな」


子供たちをさらったのが共和国だとすれば、オレを拘束した理由も分かる。

一つは、これ以上自由に行動させない為。

ヘックス達であっても共和国から見れば脅威になりえない。

しかし、チャプター号のオーナーはオレだ。当然、船の進む目的地はオレが決める。

早急に味方勢力に合流する必要性が出た以上、事情を知らせずに合流するには、オレの行動を制限する必要があるわけだ。


そして、もう一つの理由。

相手が共和国だというなら、戦力は必要になるだろう。

ヘックスはオレの技量を一番よく知っている人間だ。


つまり、助力を仰ぐというのなら、現在の状況のつじつまが合うのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る