第95話 絶対に面倒な厄介事だ
監禁されて数日が過ぎた。
退屈である事は変わらなかったが、考える事が出来たのと、希望的観測を持てたのでとりあえずイチかバチかの決死の大脱出はしない。
とりあえず、数日暇をつぶしながら、ベッドで横になっていると、軽い衝撃と共に船が減速しかすかに揺れる。
宇宙空間で停止してエネルギー回復を図るのではなく、どこかのステーションに入港したようだ。
しばらくドタバタと足音がしたが、それも止み、やがてドアが開いてヘックスが入ってくる。
「出ろ」
「はいはい」
ベッドに横になっていたオレは立ち上がると、ヘックスに連れられて船を降りる。
案の定、見たことのないステーションの船舶発着場だ。結構年代を経ているが、手入れもされている。OSSのステーションのような無秩序ぶりはない。
どこかのまっとうなステーションというわけだ。
「子供たちは?」
「先に下ろした」
「よろしく言っておいてくれ」
「…」
軽く雑談をしてみたが、銃口を突き付ける形で歩く事を強要される。
そうでなくても、両手に電子手錠がかけられている状態で、バトルスーツ相手に対抗できるわけもないので、言われるまま歩く。
と、そこで不自然さに気が付いた。
発着場に人がいない。見える範囲ではオレとヘックスだけだ。船の乗り降りに使う場所なので、平時にそこまで混雑する事はないのだが、それでも船の整備や点検。荷物の搬入に人がいるはずだ。
しかし、それがない。数機のドローンが最低限の対応を取っているだけだ。
無人の発着場から通路に入り、エレベーターで別の階層へ。
誰一人ともすれ違う事がない。
そして、そのまま一つの部屋に通される。
小さな部屋だ。応接室の様にソファと机が用意されている。
ガシャン
部屋のドアが閉まるのを待って、ヘックスが手持ちの端末を操作すると、オレの両手を拘束していた電子手錠が音を立てて外れた。
「事情を説明する。大人しく座っていろ」
「そういうのは、もうちょっと早くやるべきじゃないか。船の持ち主的に」
オレの悪態を華麗にスルーするヘックスの表情はヘルメットで見えない。
とりあえず、不貞腐れたように両手首の手錠の後をさすりながら、椅子に座って待つ。
当然だが、バトルスーツ一式を着込んだヘックスの手にはブラスターピストルがある。両手が自由になったが、徒手空拳のオレでは勝てる道理はない。
しばらくすると、反対のドアが開いて一人の男が入ってくる。がっしりした体格の壮年の男だ。褐色の肌に短い銀髪。偉丈夫といっていい。若い頃はモテただろう。左目の下には開拓者の一族の刺青が入っている。
そして、その顔には面影があった。
つまり、現在バトルスーツのヘルメットで顔を隠している男とよく似た顔をしていたのだ。
「おう。ジーザス」
絶対に面倒な厄介事だ。それだけは即座に理解した。
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