第47話 ようこそ。我がシェイク号へ
「なんでメイド服なんだよ」
「これしかなかったんだ」
中からヘックスに呼ばれて貨物室に入ると、目を覚ました少女がメイド服を着ていた。
まあ、ヘックスの言っている事もわかる。
隠し倉庫から回収したコンテナの中にあったのは、いかがわしい系の衣装だ。
ナース服や軍服といった元がまっとうな制服に、未成年者用のサイズは普通はない。
…じゃあ、なんでメイド服はサイズがあったのか追求しても、誰も幸せにはならないのでスルーしよう。
「はじめまして。ルーインと申します」
そういって、ルーインはメイド服で頭を下げる。
ああ、似合っているよ。
百歩譲ってメイド服を着ているのはいいが、カチューシャまでつける理由は分からない。深く聞くつもりもないからいいけど。
茶色の髪の毛にぱっちりした目。肌の色もヘックスとは違い褐色ではない。
パっと見てもヘックスとは似ても似つかない。共通点は顔の刺青くらいしかない。
「知り合いか?」
「面識はない。だが、同族だ」
「同族ね」
ヘックスの言葉を軽くスルーする。
そして、ルーインに笑顔で声をかけた。
「オレはヘックスの知り合のムサシだ。コイツの乗る船の船長をしている」
「はい。よろしくお願いします」
…そっか、よろしくお願いされるのか。
なんとなく事情は分かった。
「で、状況は」
「あと二人。捕まっている」
「コンテナの持ち主については、コイツが追跡している」
ヘックスの問いに答えながら、親指でハーンを指す。商人らしくコネを使って、目的の船の情報を集めているらしい。
オレは言葉を続ける。
「…で?」
「…」
目的がある。情報もある。あとは手段だけだ。
その二人を助け出すには、追う為の船が必要だ。
シェイク号は、不法製造船ではあるが、その分類は戦闘艦艇である。商業用の輸送船や汎用船に比べれても足が速い。多少時間はかかるが追いつく事が可能だろう。
だが、その船の所有者はオレだ。
「条件は?何が欲しい」
ヘックスの言葉に頬が持ち上がる。
ヘックスのバトルスーツのショルダーガードに肘を乗せて体重をかけると、バイザーの前に指を3本立てて見せる。
「条件は3つだ」
「なんだ」
「一つは、追いかけるのはいいが、そこまでだ。その後の面倒事については、ナディアの仕事が終わってからだ」
「…」
助けに行くのはいい。どうせ1日2日の話だ。だが、そのあと助けた子供を親元に返すなり、元の場所に送り返すには時間がかかる。その間にナディアからの仕事をこなせないのはまずい。
別に、無法者が律儀に海賊の仕事をしなきゃならない理由はない。
その辺はオレの事情だ。仕事を受けると決めて、前金ももらっている。前金は使っているから返すこともできない。
まあ、要するに義理を果たさないと心情的にオレが嫌だという話だ。
大事な事だからもう一回いうけど、この船はオレのものだ。オレの事情で動く。これが大前提で超重要。
「二つ目は?」
ヘックスの言葉に指を一つ折る。
「これで船が傷ついたら修理費はお前持ちだ」
オレの船である以上、この船の修理はオレの役目だ。実際、オレの取り分で修理している。だが、今回はヘックスの事情で動かすのだ。経費は当然そっち持ちにしてもらう。
「最後の条件は?」
ヘックスの問いに、一本折って最後に残ったひとさし指をヘックスのバトルスーツの胸に突きつける。
ニヤリ。
笑って口を開く。
「貸し一つ」
その言葉に、ヘックスはバイザー越しにオレを見る。
ドン!
「ゲフッ」
そのまま、ヘックスは右手で強くオレの胸を叩く。衝撃で体制を崩し、寄りかかるように肩に乗っていた肘が外れる。
そのまま、ヘックスは返事もせずにシェイク号とのエアロックへ。
「ルーイン行くぞ」
そして、メイド服姿の少女を呼ぶ。
ルーインはルーインで自分を呼ぶヘックスと、たたらを踏んでいるオレを交互に見る。
お嬢ちゃんには、ちょっと分からなかったかな?
そんなわけで、オレはノーマルスーツのポケットから前に買った飴ちゃんを取り出してルーインに差し出した。
「ようこそ。我がシェイク号へ」
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