第46話 当然裏があるわけだ

【船を受け取った。場所を知らせろ】

「…」


深夜にPDAからの送られてきたメッセージを受け取る。


修理した船の受け取りは朝の予定です。LSSの修理業者は深夜まで仕事をする職人集団だったのかな。なんて勤勉な人たちなのでしょう。

今後も贔屓にしてあげたいけど、状況を考えると向こうからお断りされそうだ。


とりあえず、コンテナの調査を“お願い”したハーンの状況を確認する。

少しでも有益な情報をそろえておけば、オレの生存率も上がるというものだ。


ハーンの船の貨物室のハッチを開ける。


「むっほほほほ~い」


饅頭体型のハーンがバレエのようにクルクル回って踊っていた。

無言でハッチを閉じる。


オレ、少し休んだ方がいいかな…

ストレスを感じている自覚はあるよ。


再度ハッチを開けるとポーズを決めたハーンがこちらを見ていた。

いっそ、ここで始末したほうがいいかもしれない。


「おお。トモダチ。とてもとてもイイ話があるアルヨ」


上機嫌にスキップしながらハーンがやってくる。


「このコンテナを扱っている船が分かったネ。持ち主もわかったネ。ワタシ全面協力するアルネ」

「何があったんだ」

「商売敵の違法取引ね。アナタは取引の邪魔をする。ワタシの商売敵は損をする。みんなハッピー」


満面の笑顔でダブルピースをするハーン。こんなに汚いダブルピースは初めてだ。

とはいえ、ハーンが全面協力してくれる状況は渡りに船だ。


「とりあえず、オレの船と合流する」


ハイテンションですり寄るハーンを引きはがしつつ、PDAに指定された座標を入力する。




シェイク号と合流し、ヘックスが乗り込んでくる。

エアロックが開くと、バトルスーツで完全武装したヘックスが足早に乗り込んできた。

合流するまでに通信で簡単な経緯を説明しておいたので、特に説明はいらないようだ。


「どこだ?」


簡潔なヘックスからの質問に、貨物室に案内する。

ヘックスはコンテナの中を確かめる。


「起こしていないのか?」

「敵か味方か分からないのにか?」

「…話を聞く。悪いが出て行ってくれ」


ヘックスの言葉に、ハーンと顔を見合わせる。

オレ自身は特にこだわりはない。ハーンも軽く肩をすくめるだけだ。一応、全面協力すると言っているので、こちらの要求に従うつもりなのだろう。


「終わったら呼んでくれ」

「ああ…それと服だ」

「オレが持っていると思うか?」

「…」


少女用の服を常備所持している奴は、広大な宇宙でもなかなかいない。

いたとしても知り合いにはなりたくない。


「そこのコンテナに服ならあるよ。好きに使ってヨロシ」


ハーンが回収したコンテナの一つを指す。そういえば、いろんな服があったな。

それ以上、余計なことは言わずに貨物室から出る。




「で、お前さんはいいのか?」


貨物室のハッチの横で壁に背中を預けながら、隣に立つハーンに聞く。


当たり前だが、ハーンとヘックスは初対面だ。商品満載の貨物室に完全武装した男を一人で放置。

商人としてそれを許す理由が分からない。


「問題ないアルネ。このまま商売敵がいなくなれば、万事解決よ」

「…貨物室にも監視カメラはあるか」


オレの言葉に明るいハーンの笑顔に、片眉を持ち上げてのいやらしさが混じる。

あの少女が厄介ごとであるとわかっていて、ハーンはなにも掣肘しなかった。さらに、よく知らないヘックスを船に招くまでしている。


当然裏があるわけだ。


「あの刺青は、フロンティア・ワンの文様。開拓一族の習慣ヨ」

「開拓一族」

「辺境を開拓する事を使命としている一族ね。ウソかホントか、宇宙開拓時代から続いているって言ってるヨ」

「その情報は重要なのか?」

「それはないネ。彼らのほとんどは辺境で開拓をしているネ。他の開拓団にも個人や集団で参加しているから、探すのは難しい事じゃないアルヨ」

「開拓専門じゃあ、そんなもんか」

「でも、商売敵の情報を一緒にすると、面白いことになるアルネ」


宇宙は広大で、その全容は解明されていない。どんな場所にも辺境はあるし、未開の地を開発する需要が尽きる事はない。


そんな、需要に大小さまざまに参加し続けた一族が、どれほどの力を持っているだろうか。

無論、強大な権力があるとは言わないが、その人脈は、なまじ国家のくくりにとらわれない分、計り知れない。

そんな一族の子供を捕らえ、売買するという明確な敵対行為だ。


商売敵のそんな不法行為よわみをみつけたら、そりゃハーンだってダブルピースしたくなるというものだ。


「おう。ジーザス」


どうやら逃れられない厄介ごとになったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る