第33話 撃墜数ゼロです

中枢ルームに立てこもって、迫りくるドローン達を攻撃する。

…まあ、楽勝とは言わないけど、問題はない。


通路は広くなく、さらに長い廊下にいくつかの横道があるだけだ。出てきたところモグラ叩きの要領で、撃ち落とすだけ。


さらに、エネルギー変換率を調整して射程を長くしたヘックスの万能銃によって、奥から現れたドローンは攻撃するより前に、ヘックスが落としていく。

ヘックスの攻撃をかい潜ってくるドローンもいるが、それらはリッカの攻撃で、無難に撃破されていた。


…オレ?

現在、撃墜数ゼロです。

こっちまで来ないんだからしょうがないでしょ。


「カモ撃ちだな」


エネルギーパックを変えながら、ヘックスが感想を漏らす。射程を長くした分エネルギー消費も激しいが、それを考慮して大量のエネルギーパックを用意していたので、まだまだ余裕だ。


楽勝である最大の理由は、戦力の逐次投入だろう。ドローン達は1機づつとか数機づつしか出てこないので、問題なく撃破できている。


「戦略AIを吸い出したからだよ。だから、バラバラに向かってくるだけなの」

「なるほど」


リッカの言葉に、ヘックスは納得したように答えると、リロードした銃で攻撃を再開する。


「指揮がなければ、ドローンはスタンドアロンだからね。同型機ならともかく、OSから通信タイプまで違う他社機体と連携なんて取れないのさ」

「……なるほど」


ベッキーがさらに詳しい説明をする横で、とりあえずやる事のないオレが、理解はともかく納得はした返事をする。

とりあえずバラバラに来るという事らしい。


…だから、これくらいしかする事がないんだって。



とはいえ、このまま出番もなく終わるわけもない。


「スウォームが来た」

「はいよ。デカイのは先に潰しておいてくれよ」


ヘックスに言われて、障害物を利用して通路入口の脇に移動する。

見ればゾロゾロと壁や天井を伝って小型のドローンがこちらに向かってきていた。


ヘックスの言う「スウォーム」はスウォームドローンの事だ。こいつらは、ほかのドローンより小さく、蜘蛛のような6本の脚がついており、天井や壁もお構いなしで移動してくる。


最大の特徴は、数が多いこと。

こんな姿をしているが、厄介な相手である。


なぜなら、その特徴である数を利用して押し寄せてくるからだ。人を殺傷できるほどの武器を持つエネルギーはないのだが、こいつらは相手の手足や体にまとわりついて、相手の動きを拘束するという面倒な機能を持っている。3,4体に体を押さえつけられたら、普通の人間ではもう動けない。


そして、対処する為のブラスター銃のエネルギーは有限だ。

ブラスターのエネルギー変換率は一律だ。通常のドローンを倒すのも、安価で邪魔をしてくるだけのスウォームを倒すのも、同じ一発なのだ。


こいつが押し寄せてくるのにエネルギーを使うと、そのあとの本命ドローンとの戦闘の際に、エネルギーが切れているという状態に陥りかねない。




ガンギンザン!


まあ、オレには関係ないんだけどな。

残弾なんて関係ない剣の物理攻撃で、スウォームドローンの、細い脚を切断していく。


攻撃力なんてほとんどなく、自力歩行と相手を捕まえて拘束する程度のエネルギーしかない。脚の一,二本でその行動力は激減し、三本も斬ればもう移動はできない。

飛び掛かってこようとするドローンもいるが、楽だから脚を斬っているのであって、オレの腕なら本体を斬れないわけじゃない。


さらに天井や壁も、場所が通路なので、剣を振れば届く距離だ。逆に、一本でも足を斬れば、ドローンは自重を支えきれなくて地面に落ちる。

楽な仕事だ


「ひえ。こんなのアリか…」


その様子を後ろで見ていたリッカが声を上げる。


まあ、通路に陣取って縦横無人に剣を振り回すから、ヘックスやリッカからの援護射撃はできないのだが、まあ、一人で対処できるから問題ない。


「準備ができた。いいぞ」

「あいよ」


ある程度スウォームドローンを斬り倒し、障害物にして後続の邪魔をさせながら中枢ルームに戻ると、横に腰だめに万能銃を構えたヘックスが立っている。


タタタタタ!!


軽快な発射音とともに、万能銃から無数の熱線が吐き出される。


エネルギー変換率を変えて、連射性を上げたマシンピストルの様に使用する。

変換率の調整には多少手間がかかるため、瞬時に切替えることはできないが、時間さえあれば、様々な状況に対応できる万能銃の特性を生かしていく。


ヘックスの攻撃で、動けなくなったスウォームドローン達が次々と破壊されていく。

さっきも言ったが、一発は一発だ。


残骸が増えれば増えるほど、こちらに移動しようとするドローンの邪魔になる。ヘックスのリロードの時だけ、再度飛び込んで足止めをすればいい。


そうやって、スウォームドローンをあらかた撃退する。動ける奴も残っているかもしれないが、移動できなければ脅威にはならない。


「これで一段落かな」

「そうだな」


見れば通路はドローンの残骸だらけだ。


秘密基地である以上、防衛能力には限界がある。

補給がないから、応急修理こそできるかもしれないが、新しいドローンを生産する施設は、普通の秘密基地には存在しない。


カシュカシュカシュ


とはいえ、全部ではなかったようだ。

オレとヘックスが通路を警戒していると、曲がり角から新しいドローンが姿を現す。



二足歩行で二本腕の人型。ボディスーツを着たような大柄なシルエット。頭部はフリッツヘルメットを被った骸骨のような風貌だ。両目には赤い光が灯っており、未来から来た殺人ロボットの有名マッチョマン州知事の外側がはげた奴に似ている。

そして、その手には二連装の大型ブラスターライフルが握られている。



「バトルドローン!!」


ヘックスの声を上げて通路わきに飛びのき、同じようにオレは反対側に転がり込んだ。

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