第32話 お仕事をしますか

「だから、ここの管理AIを吸い出して無力化している前に、EC《エマージェンシコール》がかかるの。ドローンはスタンドアロンで稼働できるから、管理AIを無力化しても、ドローン達は与えられたプロセスを遂行してくる。だから、各地区にある補助AIをハックして、施設の隔壁を使ってドローンを隔離するわけ。そうすればドローンを封じ込めることができるわ。補助AIの攻略に関しては、こっちの攻略AIのクロック速度なら、補助AIでは対応できないから、そこは大丈夫。でも、攻略が簡単だからと言って、問題がないわけじゃないの。補助AIの数が多くて、隔離に時間がかかるわ。その間も、隔離できなかったドローンがここに向かってくるから、補助AIを攻略して、隔離する間の時間を稼いでほしいのよ。わかる?」

「……わかるかヘックス?」

「時間を稼げって事だ」

「そうか」

「「…」」


オレとヘックスの態度に、半目になって厳しい目を向ける二人。


おじさんはね。分かることは分かるんだけど、分からないことは分からないの。

分からないことが分からないから、どこが分からないかも分からないんだ。


「ハッキングが終わるまで、ここでドローンから守ってくれればいいよ」

「オッケイ。わかった」


分からないけど、分かる事は分かるからそれで勘弁してね。




とりあえず、中枢ルームを守るために、主戦場となる通路側に、そこら辺の棚や机を移動させて簡易の遮蔽物を作る。

戦闘が起こればもう使い物にならなくなるが、別にここに住むわけじゃないので、壊れても問題はない。


ヘックスも万能銃を抜き、背負っていたショルダーバックを遮蔽物の陰において、開ける。

中に入っているのは、万能銃用のエネルギーパックだ。


「あ、いいのあるね。一個もらっていい?」

「普通のブラスターには使えない」


それを見たリッカに、ヘックスは首を横に振る。


ブラスターのパーツは、ある程度互換性があり、流用することもできるが、万能銃と普通のブラスターピストルは残念ながら、エネルギーパックを使いまわせない。

というか、万能銃のエネルギーパックが特殊すぎて、どこでも使いまわせないのだ。


リッカも手にしたエネルギーパックが大きすぎて、自分のブラスターに使えない事が分かったのか、納得してカバンに戻す。




とりあえず準備を終える。


「始めるよ」


ベッキーの声とともに、正面に開いた通路に意識を向ける。

と同時に、中枢ルームの天井から二機のタレットが現れる。


チュドン!


不意打ち気味であったが、ヘックスのブラスターが一機のタレットが動き出す前に破壊する。

だが、残ったタレットは、容赦なく熱線放った。


タレットの銃口の向きから狙いは…ベッキーか!


チュイン


弾道を読んで剣を振り熱線を切り払う。

そのすぐ後に、リッカの攻撃によって、残りのタレットも破壊される。


「ドローンだけじゃないのかよ」

「…1.8秒は、防衛装置も向こうのAIの管理下だ」

「そう言うことは、先に言ってくれ」


オレが剣で熱線を切り払ったのを目の前で見て驚いているベッキーに聞くが、向こうの認識では想定内だったようだ。

確かに、物陰に隠れられた可能性もあったな。


「ドローンが来たぞ」


ヘックスの声に、通路に視線を向ける。

さあ、お仕事をしますか。

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