第34話 いい話なんてあったのか
邪魔なドローンを倒したと思ったら、お代わりに軍用の戦闘ドローンが出てきた。
当たり前だが、攻撃力に防御力、その他の戦闘能力において、バトルドローンは他のドローンの追従を許さないほど圧倒的に強い。
まあ、その為に作られたドローンだ。弱かったらたまらない。
まあ、それに攻撃されているおれたちにしてみれば、何の慰めにもならないけどな。
タタタタタ!
見ればヘックスが、中枢ルームに隠れながら通路のバトルドローンに万能銃を撃っている。
中枢ルームからチラッと通路を覗いてみたが、案の定全く効いていない。万能銃の連射性を上げたせいで、集弾率が悪く弾がバラけてしまっている。その上、一発毎の熱線の威力も下がっているので、偶に当たってもバトルドローンの装甲で止められている。
さらに、
ズズドン!!
重そうな音と共に、バトルドローンの持つ二連装ライフルが大口径の熱線を放つ。
間一髪、中枢ルームに身を隠したヘックスのいた場所に命中し破壊する。
明らかに個人が持っていいレベルの武器じゃないぞ。と思ったが、そもそも人じゃなかった。
その上、さらに絶望的なものが見えた。
「おう。ジーザス…」
カショカショカショ
通路にいるバトルドローンの後ろから、さらに5体の同型のバトルドローンが姿を現したのだ。
そのまま、計6体の大口径のライフルを雨あられと中枢ルームに打ち込んでくる。
部屋の中で遮蔽にしていた厚手の机とか台などが、大口径ブラスターに、盛大に破壊されていく。
「ムリムリムリムリ。ベッキー。もう無理だからぁ!」
吹っ飛んだ遮蔽の向こうで床に転がって身を低くしながら、悲鳴のようなリッカの声に、AIをハッキングしていたベッキーが素早く端末を操作する。
すると、中枢ルームの通路の扉が閉まり。さらに緊急用の隔壁がそれを補強する。
「…」
「…」
しばらくの沈黙。
だが、それ以上の破壊音はしない。
「「「「…はぁ~」」」」
皆で一斉にため息をつく。
「さて、悪い話といい話がある」
「この状況で、いい話なんてあったのか」
ベッキーの言葉に、皮肉を返す。
隔壁を下したものの、その向こうには戦闘用ドローンが6体。少なくとも無法者がまともに戦って勝てる相手ではない。
「命令する戦術AIがないから、ドローン達は隔壁を破壊して、ここに入ってくることはない。施設を破壊する命令も権限を持っていない。つまり、ここは安全という事だ」
「「…」」
ベッキーの言葉に、微妙な沈黙が落ちる。
確かに悪い話ではない。でも、ここに閉じ込められたことに変わりはない。安全かもしれないが、その理論なら牢屋だって安全な場所になるだろう。
「ちなみに、悪い話は?ここを出られないとかそういうのを抜きにして」
「管理AIが消え、中枢の隔壁が下りたことで、補助AIが緊急モードに入った。これ以上のハッキングができない。施設の半分くらいは、ハッキングが終わっているんだが、全部ではない」
「おう。ジーザス」
確かに悪い話だったわ。
とはいえ、このままここで絶望して死ぬわけにはいかない。
ここから脱出するための方法を見つけなければならない。
「正面の通路からは出られないが、この部屋には搬入用の裏口がある。そっちからは出られないか?」
「それだ。見てくれ」
そういって、ベッキーが操作すると、中枢ルームのモニターの一つに、秘密基地の地図らしいものが移る。
「この搬入口を出てすぐのところにマシンルームがある。そこに直接このデータ管理AIをつなげることで、施設の装置を動かすことができる」
「それで?」
「それで、ドックまでの隔壁の開閉操作を手動で行う。そして、ドックまでの安全なルートをクリアリングしてほしい」
クリアリングとは、そこまでの通路の安全性を確保するという事だ。
つまり、逃げ道を確保するチームと、それをサポートするチームの二手に分かれるわけか。
「じゃあ、オレとヘックスでクリアリングとやらをすればいいのか」
「いや、おっちゃんと行くのはアタシ」
そんなわけでチーム編成になるのだが、なんかそういう事になるらしい。
「マシンルームはここみたいに侵入経路が限定されないわ。そこらかしこに出入口がある。アタシ一人でベッキーを守るのは正直キツイの。でも、いいこともあるわ。マシンルーム内での戦闘は、ドローン達に自動で制限がかかる。敵から乱射されるような事はないわ。逆に、そっちのその銃なら狙い撃ちできる」
リッカの言葉に、ヘックスと顔を見合わせる。
ヘックスは軽く肩をすくめた。
まあ、そうする理由もわからなくもない。ぶっちゃけると、オレとヘックスだけなら、ドックについた時点で、そのまま逃げてしまう可能性があるのだ。
前にも言ったが、別にオレ達は女海賊ナディアに命や忠誠を捧げるつもりはない。
その程度の関係だ。そして、それを歴戦の女海賊の首領も認識している。
だから、今回の同行する二人は、ナディアからのオレ達のお目付け役でもあるはずだ。
多分、二人のどちらか(あるいは両方)はナディア海賊団の一味だろう。
そうでなければ、無法地帯であるOSSで、若い女が2人で自由でいられるはずもない。
だから前回秘密基地を襲撃した事情を知っていたし、事前に秘密基地のIDを用意していたのだ。多分、ドローンに攻撃される事も、分かっていたと思われる。
だから、わざわざ戦闘要員としてオレ達を雇い同行させたのだ。
「オーケイ。仕事をしろというならするよ」
まあ、そんな事はオレもヘックスも分かっていて、今回の仕事を受けたのだ。
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