第35話 何と言うかただの意地だ

とりあえず、中枢ルームの機材搬入用の出入り口から、マシンルームへ行き、途中の残っていた防衛装置を破壊。


最初に言われたように、マシンルームは広く。様々な機器が置かれて視界も悪い。さらに三か所の出入り口があり、お世辞にも防衛に適しているとはいいがたい。


もっとも、無数の機器が配置してあるため、障害物としては十分役に立つし、さっきの説明からすれば、それらの機器を破壊しないよう、ドローン達の攻撃命令に制限がかかる。

万能銃を狙撃タイプにしたヘックスなら、地の利があるだろう。


「それじゃ。行きますか」


ブラスター銃のエネルギーパックを交換するリッカに、剣の刀身に指を這わせて刃こぼれがない事を確認してから肩をすくめる。




「ぜぇぜぇ…」

「…おっちゃん」


呆れた顔でこちらを見るリッカ。

仕方ないだろ。この体はおっさんなんだよ。


クリアリングの作業は問題もなく進んでいた。まあ、自由になるドローンのほとんどは、さっきの中枢ルームでの防衛で破壊している。

この基地にドローンの生産施設がないから、ドローンの総数が増える事はない。


さらに、宇宙船ドックまでの道もハッキングに成功してコントロール可能な場所を通るように事前にベッキーがルートを調べて安全を道を通っている。

あとは、通路にドローンが残っていないか確認して、開きっぱなしのドアを閉じてロックするだけだ。


とはいえ、警戒を怠るわけにはいかない。

残っているドローンがいないわけではないし、バトルドローンだって中枢通路に閉じ込めた分で全部である保証はない。


そうやって、進んだ先の十字路だ。オレ達が入ってきた方向から移動するにあたり、十字路まで100mくらいの遮蔽物一切なしの直線の通路となる。


あたりまえだが、ここをチンタラ移動中にドローンが現れたら、遮蔽物のない直線の通路で相手からの狙い撃ちだ。

そうなる可能性を考慮して、横道に隠れられる十字路まで一気にダッシュしたのである。

そりゃ、息だって切れるさ。


オレが息を整える間に、リッカは十字路の進むルートにある隔壁をベッキーに連絡して開けてもらっている。


「ほら、行くよ。おっちゃん」

「…ああ」


そういうとリッカは開いた隔壁の向こうに進む。


なんとか、息を整えて壁に手をついて体を起こす。「よっこいしょ」と言いそうになる口を歯を食いしばって閉じる。

別に理由はない。何と言うかただの意地だ。


…シュ


その時、何か聞こえた。


音の聞こえた方向。リッカが開けて進んだ通路の向かいの道の先。

通路の先の明かりが消えている。暗い通路の先だ。

何かが灯っている。


見覚えがある赤い小さな二つの…光…



バトルドローンのデュアルアイ!?



壁についた手のすぐ上にある隔壁の手動開閉ボタンを押す。

同時に、突き出した顔を引っ込める。

熱量のある何かが前を飛び、瞬時に閉まった隔壁に当たってはじけて熱量の余波をまき散らす。


カシュカシュカシュ


あの足音が聞こえる。

急いで立ち上がって、バトルドロイドのいる通路側の壁に背を付ける。


二連奏の大型ブラスターの直撃を受けた隔壁が赤く灼熱している。のぞき窓から驚いてこちらの状況を確認したリッカと視線が合う。分厚い隔壁だ。当然だが声は届かない。

なので、手で先に行くよう合図を送る。




落ち着け。まずは、状況の確認だ。


まず、リッカのいる隔壁を開けて飛び込むのは無理だ。

あの隔壁の先の通路は遮蔽物のない一本道。扉を開けた瞬間後ろから大口径の熱線が飛んでくるだろう。というか、さっきの攻撃で隔壁が歪んでいたりすれば、そもそも、開かないかもしれない。イチかバチで試すのは分が悪すぎる。


来た道を戻るのも無理だ。長い通路を抜けようとしている間に、バトルドローンが十字路に到達する。そのまま逃げるオレを背中から打つだろう。


向かいの道は…すぐ先が曲がり角だ。問題があるとすれば、そこに行くにはバトルドローンのいる通路を横切る必要があるという事。


つまり、逃げ道はない。



となれば残る手は一つ。


「…ふ~」


深く息をして心を落ち着かせる。


精神を統一させながら、右手で剣を逆手に握る。


普通に切りかかってはだめだ。剣の間合は相手のライフルの有効射程距離だ。致命的な一撃をもらってしまう。不意打ちできるならともかく、「ヨーイドン」で戦闘マシーンと勝負するのは分が悪すぎる。


なら狙いは…



カシュカシュカシュ


大きくなってくる足音に意識を集中させながら、その瞬間を待つ。


バトルドローンと言えども、物理法則を超越できるわけではない。曲がり角の向こう側を攻撃する事はできない。


あとは、やるだけだ。


バトルドローンが十字路に入ろうとした瞬間飛び出す。


二連装ライフルがこちらを向く前に、右腕を伸ばして刀身でライフルの銃身を抑えると、そのまま、バトルドローンの内側に一気に飛び込む。

狙いは超接近戦。


ライフルとの内側に入ってしまえば、銃の構造上撃たれることはない。もちろん、近すぎて剣を振るようなスペースもなくなってしまう。


ただ、普通に剣を振るならばだ。

銃身にあてた剣には、当然勢いなんてないので当てているだけ斬れはしない。


だから、全身の力を使う。


飛び込んだ足を延ばし、上体を持ち上げる力。さらに逆手に握った右腕を振り上げる力を使って、ライフルに押し当てた刃を切り上げる。


この剣は希少鉱物クロム合金製の刃だ。大型とはいえ大量生産の量産武器とは質が違う。

必要なのは、体の勢いを刃に正確に伝える事。刃筋を正しく当てる事。


すべて剣の扱い。つまり、オレのチートの範疇内だ。


チュイッ


逆手に持った右腕を最後まで振り上げると、軽いな音ともに、二連装ライフルが半ばで真っ二つに切り落とされる。


そのまま、振り上げた剣を持つ逆手の握りを、右手の指を支点にくるりと回して正しく持ち直し、左手を添えて両手で握りつつ、体をひねって足を置きつつ姿勢を戻す。バトルドローンの正面に出ることになるが、二連装ライフルはすでに破壊している。


そのまま、バトルドローンの斜め横に体を置いて、上段に構えた剣で首を切り落とす。


まだだ!


振り下ろした剣を、一瞬腰だめに戻して力をためると、そのまま首を失ったバトルドローンの胸板に突き入れる。


ギュイ!


金属をこすり合わせる嫌な音と共に、刀身がバトルドローンの胸を貫いて背中から突き出す。


相手は機械だ。頭を切り離した程度で、動きを止める保証はない。だが、体の中にある集積回路が破損すれば、さすがに動けなくなるだろう。

戦闘用と言えど精密機械で、胴体部分に重要な部分が収まっているために分厚い装甲をもっているのだ。


貫いた剣を引き抜くと、バトルドローンの体が崩れ落ちる。


「…ふぅ、ヒュィ!」


動かなくなるバトルドローンに、安堵の息を吐こうとした肺が、逆に空気を吸い込む。



崩れ落ちるバトルドローン越しに通路の奥が見えたのだ。

このバトルドローンが現れた薄暗い十字路の奥。


バトルドローンのデュアルアイの光で、その存在を気が付く事のできた通路の奥。



…そこにさらに無数の小さな赤い光が見えたのだ。



「おう。ジーザス」


再び十字路の横の通路に飛び込む。


一瞬の間をおいて、高出力の熱線が再び閉じた隔壁にぶつかってはじける。ついでに、通路の真ん中に残っていたバトルドローンの残骸を吹き飛ばす。


壊れた人形のように、バトルドローンの体は吹き飛ぶんで壁にぶつかりさらにバラバラになった。


さっき攻撃されなかったのは、戦っていたバトルドローンがまだ稼働していたからだったようだ。


当たり前だが、ドローンは同士討ちしないようプログラミングされている。接近戦になっていたから、同士討ちにならないよう攻撃を控えていたのだろう


クソッ。さっさと壊れやがって。もうちょっと頑張れよバトルドローン。ちょっと致命傷を二回(首と胴体に)受けただけだろ!


と悪態をついても問題は解決しない。

というか悪化している。


一体ではなく、複数体のバトルドローン。まともに正面からやりあったら、間違いなく消し炭になるだろう。


ここで迎え撃つのは分が悪すぎる。

運よくと言っていいのかわからないが、入ってきた通路の反対側に飛び込めた。この先はすぐに曲がり角だ。


問題は、まだ行った事のないこの道の先がどうなっているのかさっぱりわからないところだ。


「ジーザス」


通路を走り出した。

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