第36話 人間は疲れるのである

科学の発達した世界というのは、もっと便利になっているはずだ。

なんで、そんな便利なはずの世界で、原始的に走る事で疲れなければならないのだろうか。


まあ、理由は生命の危機という、過去だろうと未来だろうと変わらぬ行動原理によるものだ。

背後から追ってくるバトルドローン達から逃げるために、おっちゃんの体を酷使しているのである。



運がいいのか悪いのか、途中でほかのドローンとの遭遇とか、追加のバトルドローン登場といった事はない。


ただ、オレ自身も知らない施設の通ったことのない道だ。当然、行き止まりならそれでゲームオーバー。追いつかれてもゲームオーバーだ。

…運はよくないな。絶対に悪いな。


バトルドローンの移動力は、そこまで早くはない。高速機動するようなものではなく、速足程度だ。あくまで、戦闘歩兵だからな。


まあ、そこに「疲れ知らず」という機械の特性がつくので脅威以外のなにものでもない。


さらに手には、強力なブラスターが握られている。

直線距離で捕捉されれば、雨あられと飛んでくる熱線は死を意味するだろう。


頼みの綱である剣での受け流しも、相手が複数だと成功率は極端に下がる。それが二連装で倍だ。




そして、なんども暗喩しているが、人間は疲れるのである。

それも、おっちゃんの体力を甘く見てはいけない。


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ…」


何個目かの曲がり角を曲がって進むが、さすがにキツイ。息が切れる。だが休んでいる余裕はない。相手は疲れ知らずの機械だ。


なんとか、足止めする方法を見つけなければ休めない。


と、通路の壁に窓が見える。

その向こうは休憩室なのか、いくつかのテーブルと椅子が並んでおり、給水装置が置かれている。


振り返ると細いわき道があり、そこから休憩室に入れるようだ。

重い足取りで、その道まで戻る。


カシュカシュカシュ


バトルドローンの足音が聞こえ、顔を向けるとこの通路へ入る曲がり角に、黒いドローンの影が見えた。


向こうが早いわけではない。多分疲れているせいでオレの足が遅いのだ。


細い通路を通って扉もなくダイレクトにつながっている休憩室に入る。

窓からのぞいたようにテーブルとイス。ほかに出口はない。

つまり行き止まりだ。


とりあえず、窓のある壁まで近づき通路の様子を見る。


ベッキーは言っていた。「明確に施設を壊すような行動はとらない」と。

事実、こちらを攻撃した結果、施設にダメージを与えたことはあっても、ドローンから意図的に施設を破壊するような攻撃はされていない。


「ハーッ。ハーッ…」


息を整えつつ通路を窓からのぞくと、3体のバトルドローンが隊列を組んでこちらに移動している。

うわぁ。3体もいるよ…


念願の休憩をとりながら絶望する。

バトルドローンの赤く光る眼がオレを補足するが、ベッキーの説明の通り、手に持つブラスターが火を噴くことはなく、変わらぬ歩調でこちらに向かってくる。


休憩室に入るための脇道は広くない。巨漢のバトルドロイドが通れるのは一体ずつだ。

窓からバトルドローンがオレを追って通路に入るのを確認する。


そして、全員が通路に消えたのを見て、剣を構える。


キキン


そのまま、休憩室の通路側の壁を切り裂く。

前にやった隔壁を斬るので慣れていたので、問題なく通路に新しい道を作る。


カシュカシュカシュ


規則正しい足音が響き休憩室の入り口にバトルドローンが見えると同時に、オレは自分の作った即席の出口から通路に出た。


うまくいった。

あの狭い通路をバトルドローンが戻るまで時間を稼ぎつつ休憩を取ることができた。

少しだけ得た余裕に、頬を歪ませて足を速める。


そして、通路の先の曲がり角を曲がった。

歪んだ頬が元に戻る。


「おう。ジーザス」


壁から天井にかけての全面の強化ガラスの向こうには、漆黒の宇宙。

反対の壁際には休憩用のベンチや、娯楽用の飲料サーバーが置かれ、観賞用の植物が配置されている。


先まで300mはあろうかという開放感のある広く長い通路に出たのだ。

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