第101話 現実にそいつは剣一本で渡り合って見せた
10人ほどのスーツの兵士が通路を歩く。
先頭を歩く大佐は、気密用のヘルメットすらつけずに歩いている。
「大佐大丈夫なのでしょうか?」
「奴等か?気にするな。すでに中央管制までのルート確保はできている」
別に違法ステーションというわけではない。内部構造についての情報も取得している。さらに、電子制御AIによって、中央管制までのルートに、問題も妨害がないことは確認済みだ。
だから、大佐は息苦しいスーツの気密を外して移動しているのだ。
「ですが、彼らは…」
同行する部下が言っているのは、特殊部隊兵の事だろう。彼らはステーションに乗り込むと、別行動をとるべく移動してしまった。
「ふん。問題はない。奴らが何を探しているかなどどうでもいい。中央管制を抑えれば、奴らの行動も追える」
確かに、彼らに独立行動の許可はしていた。それが、協力する条件の一つでもあったからだ。
とはいえ、あまり重視していない。たとえ自分に伝えていない秘密があり、彼らがそれを確保したとしても、中枢機能を掌握できればそれを割り出すことはできる。
そして、奴等の生命線は自分が握っている。裏切るというのならボタン一つで殺すことができるのだ。
駒を失う事になるのは痛いが、駒は所詮駒。補充する事はできる。
グォン
小さな音がステーションに響く。
「なんだ?」
「デブリでも当たったのでしょう。セイレムでもすべてのデブリを破壊できるわけではありませんから」
「まったく。おんぼろステーションはこれだから困る。さっさと中枢を抑えるぞ」
そういうと、大佐たちは中央管制へ向かう足を速めた。
シュイーン。ガガガガ!
ホバー装甲でステーション内を移動しながら、後方にブラスターライフルを撃ち込む。
「チッ」
元々牽制目的での攻撃だが、まぐれ当たりの有効打すらない。高機動で壁や天井を移動しながら、ホバー装甲で移動するヘックスを、特殊部隊は洗練した動きでついてくる。
その上。
チュインチュイン
確実にヘックスにブラスターを当ててきている。強化しているシールドがなければ、被害は増えていただろう。シールド機能にはまだ余裕はあるが、それがいつまでもつか分からない。
数も装備もスーツの機動性も劣っているのだ。
唯一の利点は、生まれ育ったステーションの内部構造を熟知している事だけ。
「性能がすべてではないさ!」
カラ元気のつもりで口に出してみたが、不思議と違和感を覚えなかった。
ブラスター一丁も持たずにバトルドローンとすらやり合った奴がいた。
生身の人間がスーツもなしに機械に対抗しているのだ。普通に考えて自殺行為だ。
だが、現実にそいつは剣一本で渡り合って見せた。
呆れるほどにしたたかに…
移動しながら、再度後方に牽制のブラスターを撃ち込む。
後方から向かってくる5人は、ブラスターの攻撃を壁や床を飛び回るようにして避けながら、こちらに向かってくる。
同時に、敵からの攻撃が再度ヘックスを襲い、シールドを削っていく。
ほんのわずかな足止めにしかなっていない。
だが、そんなことは分かっていた。虎の子のシールドを犠牲にしてまで稼いだわずかな時間だが、それでもヘックスは移動し続け、そしてたどり着いた。
そこは何の変哲もない通路だ。片側には窓が規則的に並び。反対側の壁には扉があるだけ。
だが、ヘックスは知っていた。
ホバーを最高速にしてまっすぐな通路を直進する。
そして、通路の半ばに差し掛かったところで、急遽反転。
体にかかるGに歯を食いしばりつつ。強化腕部に内蔵された追加武装を起動させる。
狙う必要はない。敵の回避予測を立てる必要もない。
内臓武装のグレネードが放たれると同時に、その腕を近くの扉にたたきつけて貫く。残った片手でめくら撃ちのように後方の敵にブラスターを放つ。
お返しの様に、数発のブラスターがヘックスのシールドを削る。
そんな、グレネードが、窓しかない壁に命中するわずかな時間。
ドゴン!
ヘックスの放ったグレネードが、ステーションの壁に当たる。ヘックスがグレネードを撃ったと判断して、敵は後方に大きく移動していた。
…それは致命的なミスだった。
初めてこのステーションにやってきた来訪者たちは知らなかった。
ここで育ちステーションの構造を熟知していたヘックスは知っていた。
壁に並んだ窓が、何の変哲もない外の星々を見るためだけの、簡素な展望窓であることを。
その壁の向こうが、空気のない宇宙である事を。
その壁がグレネードで一気に破壊される。
グレネードの爆風すら空気ごと吸い出す勢いに、特殊部隊の着るスーツの機動制御能力がパニックを起こす。
重力の有無によって補正が必要になる立体機動は、人工重力の急速な変化に対応できないのだ。
そして、壁に腕を突っ込むという暴力的なまでにアナクロな手法で自分の位置を確保したヘックスには、パワーアシストで動かすことのできる、ブラスターライフルを持った手が残っていた。
「ファイアーアームオープン!」
ヘックスの操作によって、腕部強化パーツからサブアームが飛び出す。そこには装弾数こそ少ないが、瞬間火力を上げる小型サブマシンガンが姿を現す。
彼らの本来の機動力ならそれでも避けることはできただろう。数発受けてもシールドで耐えることができただろう。
だが、動けなければ意味はない。
ズダダダダダダダ!
ブラスターライフルと数丁のブラスターマシンガンによる集中攻撃が、動けない特殊部隊の兵士を次々と撃破していく。
さらにダメ押しとばかりに、自分を固定するために壁を突き抜けた腕を引き抜くと。残っていたグレネードを特殊部隊たちに撃ち込む。
別に、とどめを刺す必要もない。
外壁が壊れたことでこの通路の空気も吸い出される。彼らのスーツの気密構造が破壊されれば、彼らに待っているのは死だ。
その為の攻撃でしかない。
空気が吸い出され重力もなくなったため、バトルスーツの推進器で移動し、エアロック状態になった非常口から奥のエリアに移動する。あとは、この開閉コンソールを破壊すれば、彼らがおってくることもないだろう。
それらの行動を淡々とこなし、最後に失ったシールド機能を、ステーションの回復ターミナルで回復させようとして、端末の赤いメッセージが表示される。
それは、メインコンピューターからの操作中止命令だ。
その理由を、ヘックスは正しく理解していた。
つまり、奴らは中央制御室に到着してステーションの機能を掌握しているという事だ。
となると、自分の位置も相手に筒抜けになるだろう。
その判断が正しいと言わんばかりに、ヘックスを誘導するように、一つのドアが自動的に開く。
ヘックスは、ゆっくりと歩いてその扉をくぐると、次のドアが次々と開いていく。それをくぐって進んでいくと、やがて最後の扉が開く。
高い天井。家具や障害物など置かれていないだだっ広い部屋だ。壁や床は補強されており、そこにはいくつものブラスター痕や打撃によるゆがんだ跡がある
まるで訓練用の部屋だ。
そして、そこには一人の男がいた。
ヘルメットを脱ぎ、顔をさらしている。
その顔を見て、ヘックスもバトルスーツのヘルメットを脱いだ。
お互いの目がお互いの顔を視認する。
「久しぶりだなヘックス」
「…スラン」
それは、久しぶりの再会であった。
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特殊部隊とはいえ共和国軍兵士相手に、暴れまわるヘックスですが、これは開拓民の一族による共和国への妨害やテロとはなりません。
なぜって?だってヘックスは共和国賞金首で犯罪者ですから。開拓民の一族ではないのです。
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