第102話 故郷を追われた無法者でしかない

訓練室にいる二人は、対照的でもあった。

パワースーツに追加パーツで巨体になり、2m近い鉄の塊になったヘックス。

かたや、普通のノーマルスーツにわずかなパーツをつけただけの様な、肉体にフィットしたスーツを着るスラン。

しかし、双方の目にはお互いへの敵意があった。


「覚えているか。この部屋を」


高性能多目的ライフルを持ったスランが皮肉気に笑いながら、ライフルを肩に担ぐ。まるで、すぐには攻撃しないと言わんばかりだ。

対するヘックスは、油断なくライフルを構えているが、引き金は引いていない。


「ガーデン・オブ・フロンティアを決める最終試験。どうだ、あの時と同じようにやってみないか?」


そういうと、持っていたライフルを横に放る。

そして蔑むように笑いながら言葉を続ける。


「それとも無理か。そのアーマーを着ていても」


ヘックスはその問いには直接答えず。

ゆっくりと手に持ったライフルから手を離すと、太もも部分に内蔵されたソケットが開き、一本の武骨なナイフが飛び出る。

強化されたハンドパーツでも持てるよう大型のナックルガードが付いており、逆手に握ると、わずかな稼働音と共に武骨な大ぶりの刀身が赤く灼熱する。


そんなヘックスの行動を余裕の笑みでながめると、スラン軽く両手を振る。

すると、両腕の表層が剥がれるように解かれる。トンボのはねのように腕から直角に広がる。薄くしなやかなその黒い刃は静かな音を立てると超振動で震える。


お互いは使う武器を見せるようにゆっくりと前に出る。

そして、まるで示し合わせた様に、一定の距離まで近づくと、お互いで円を描くようにゆっくりと歩き出した。


それは、開拓者がまだ荒々しい時代のなごり。一族にしか分からない古い決闘の作法だ。

二人が円を描くまでの間の、わずかな会合。


「どうだヘックス。このステーションはもう終わりだ。何の価値もなくなり、廃棄される」

「故郷を失う事がそんなにうれしいか?」

「故郷だと!違うね。ここは裏切り者の巣窟だ。醜い残滓にすぎない!」


怒りの表情でスランは叫ぶ。


「開拓民は掟に従う。そんなものはおためごかしだと、お前たちが証明した!それは貴様が誰よりも分かっているはずだ」


そして、ヘックスを指さす。


「そのスーツはオレの物だった。ガーディアン・オブ・フロンティア。開拓者の守護者。開拓の一族を守る戦士の鎧。開拓者の一族の誇り。誰もがそれに憧れた。オレも!お前も!」


興奮しすぎたことを自覚したのか、スランは一度大きく息を吐く。


「その試練を、オレは成し遂げた…だが、オヤジはお前を選んだ。試練で敗れたお前を。オレが失敗した開拓団の孤児で、お前がオヤジの息子だからだ」

「違う」


それを聞いてヘックスは首を振った。

そして続けた。


「お前も失敗した」

「おためごかしを!オヤジは掟に逆らい情に溺れた。息子のお前にスーツを与え、オレには開拓団を率いるように命じた。そこにいたお前が、知らないとは言わせない!」

「オレはこのスーツを与えられていない。お前だって見ていたはずだ」


ヘックスの言葉に、馬鹿にされたと思ったスランは表情をゆがめる。

それを無視して、ヘックスは空いている手で腰のホルスターから銃を抜く。


「オレに、与えられたのは“コレ”だ」


ヘックスが愛用している銃。万能銃。


「お前は試された。最後まで掟に従うかどうか。そして、失敗した」

「…嘘だ」

「あれだけ掟に厳格だったオヤジが、唐突に掟に逆らうという不自然な行動。あの場でオレに与えられたのが万能銃である事。気が付ける要素は他にもあった」

「嘘だ!」

「この銃の意味を知らないとは言わせない。開拓者の為の武器。開拓する者の最後の拠り所。それは、オレが開拓団を率いるという意味だ」

「ならばなぜ、お前がそのスーツを着ている!」


スランの指摘に、ヘックスは自嘲するように目を細めて答える。


「盗んだのさ」

「なに?」

「このスーツを盗んだんだ。だからオヤジはオレに賞金を懸けた。オレはこのスーツを着ているがガーディアン・オブ・フロンティアではない。開拓民の一族でもない。薄汚い盗人の賞金首。故郷を追われた無法者でしかない」


その内容に唖然とするスラン。しかし、ヘックスは言葉を続ける。


「なぜそんな事をと思ったか?この古臭いスーツの金銭的価値なんてたいしてない。それ以上の賞金がかかっていれば、どこかでオレがくたばってもスーツを返して賞金にしようとするだろう。スーツは賞金を懸けたオヤジの元に戻る可能性が高い」


万能銃をホルスターに戻しながら、ゆっくりと歩く。


「そして、これが開拓者の戦士の鎧である事を知るのは開拓の一族だけだ。お前を含めてな。この鎧を着てれば、お前は必ずオレの前に現れる」

「…はっ。オレがわざわざお前の前に姿を現したと?お前の事なんて眼中にもなかったよ」

「どうでもいい事だ。こうしてお前はここにいる」


二人のゆっくりした歩みが円を描き終わる。

最後の一歩を踏み出した瞬間。お互いが大きく距離を取った。

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