第103話 借りを二つにしたお前を笑いに来たのさ

荒い息のままホバー移動を続ける。

巨体で重いこのからでは、ホバーを利用しなければ相手の速度に対応する事すらできない。

いや、ホバーを利用していても相手の方が早いのだ。


移動する先に先回られる。


「くっ」


右手に持ったヒートナイフを振るが、こちらが降った刃が届く前に、相手はもうその場にいない。

可動範囲も段違いだ。ホバーで床を平面移動しかできない自分に比べて、相手は床や天井まで使って三次元でこちらを攻撃してくる。

その上で、こちらの速度に追いつてくるのだ。


「わかっているだろう。性能が違うんだよ!」

「…わかっているさ」


武器のない左腕を振り回す。

強化パーツを付けた鉄の塊だ。当たればただでは済まないだろう。


だが、当たらない。


スランの刃で切りつけながら、ヘックスの攻撃を避けつつ、そのまま攻撃範囲から瞬時に離れる。


超振動ブレードによって、装甲が切り裂かれていく。

だが、その事態をヘックスは想定していた。ヘックスの着るバトルスーツは旧式だ。

その製作コンセプトは古臭く、硬く重く大きく、苛烈な環境に耐えるように作られている。だからこそ、その構造はシンプルで多少の衝撃や損傷で動かなくなるような繊細な構造をしていない。


だからこそ、ヘックスは止まることなくホバー機能で移動し続ける。あくまで戦う場所は自分の移動する先だ。

性能が劣る?

速さが違う?

そういう相手との戦い方は何度も見てきたさ。

相手を追うんじゃない、相手が追うのだ。こちらの移動した先に。


周囲を飛び回るように何度目かの攻撃。

それが装甲を切り裂いた瞬間。食い込んだ腕と体をひねる。


スランの超振動ブレードと自分のナイフの違いが、その薄さにある。素材の差を考慮しても、パワーの差で折れ曲がる。同時に薄いブレードを振動させていた機能に支障が生じる。


「チイッ!」


スランが舌打ちとともに離れようとするが、その動きは遅れる。

食い込んだブレードがくさびとなって装甲に挟まっているのだ。ヘックスはすかさずヒートナイフをスランに突き立てる。


ジュイン!


硬質の音ともにスランのもう片方のブレードで受け止める。

しかし、超振動ブレードはその刃を振動で切る武器だ。ブレードの峰の部分で受け止めたところで、その威力は発揮しない。

高温のヒートナイフが高振動ブレード部分を大きく切り裂く。

とはいえ、ナイフの攻撃ではそこまでだ。ブレードを犠牲にした数舜で、装甲に食い込んだブレードを引き抜くと、大きく距離を取る。



距離を取ったスランは両手のブレードに視線を向ける。

片方は大きくゆがみ。もう片方は半ばで断ち切られている。


「やるじゃないか」


武器を失っても、スランは不敵に笑う。

そして、両手首に指を這わせて操作する。それに合わせて、両手のブレードが外れて床に落ちる。


「すこしは、手こずってもらわなきゃ、オレの気が済まないからな」


そして、腕を軽く振ると、再び腕の装甲が剥がれるように説かれると、新しいブレードとして両腕に展開される。


「簡単にあきらめてくれるなよ」




攻撃を再開するスラン。

とはいえ、性能差からヘックスは防戦一方だ。その上で、守り切れていない。

攻撃を受けるたびに、ヘックスの強化バトルスーツの傷は増えていく。そして、頑強であるといってもスーツには限界がある。

装甲の一部は削り取られ、いくつかのパーツも破損している。右の腰当は欠落し、右肩のシールドジェネレーターは剥がれかけている。

ホバー装甲のエネルギーも尽きて、二足歩行で移動しているだけだ。移動力が大きく減衰している。


そして、避けきれない一撃。

ガードをかい潜った高周波ブレードが胴体を切り裂く。それは強化パーツを切り裂いて、その奥の肉体までも傷つける。


「グッ」


ヘックスの苦悶の声。だが、そこで終わりではなかった。

ヘックスは左手で右肩の取れかかったシールドジェネレーターをつかむと、力任せに引きちぎる。そして、それをスランに投げると、ジェネレーターの制御装置にヒートナイフを突き立てた。


「なに!?」


壊れているとはいえ、中にはシールドを発生させるエネルギーが充電されている。元々壊れていたジェネレーターは最後の安全装置ともいえる制御装置まで破壊され暴走。


ボグン!


そして破壊。

元々兵器でないため、爆発自体はそれほど大きくないが砕け散って吹き飛んだ破損が飛び散る。


「グハッ!」


至近距離での爆発だ。ヘックス自身も無事では済まない。吹き飛ばされて壁にぶつかって止まる。彼の強化パーツはさらに破損し、その隙間からは赤い血が流れ落ちている。


そして、


トンッ


軽い音を立ててスランが着地した。爆発する直前に後ろに飛び、さらに、腕を十字にしてブレードをも使用して破片からの被害を最小限にて離脱していたのだ。


「(早すぎる)」


それを見たヘックスが壁に体を預けながら顔をゆがませる。

完全に不意を打ったはずだ。スーツの性能差があったとしても、動かしているのは人間だ。認識できない攻撃に対しての反応は生身と変わらない。

だから、最新のスーツは様々な検知器や探知機能さらには対処機能などが盛り込まれているのだ。

そんな不意打ちであたはずなのにスランは的確に対応した。


「そろそろタネは尽きたか?」


スランが不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと歩いてヘックスに近づく。

ヘックスは壁に体を預けて立ち上がろうとしながら、ヒートナイフを構える。

しかし、ヒートナイフはさっきの攻撃の最も近くにあった物体だ。その刃は半ばまで砕けている。

それでも、歯を食いしばりながら、立ち上がろうとするヘックス。



キィン!


突然、済んだ音がした。


ズ、ズン…


そして、ゆっくりとヘックスが寄りかかる壁に線が入ると音を立てて倒れる。

体を預けて立ち上がろうとしていたヘックスは壁の残骸と共に仰向けに倒れる。


コツコツコツ


軽い足音がヘックスに近づく。

そして、床に倒れるヘックスの顔に影が差した。


「よう。だいぶ分が悪そうじゃないか。賞金首バウンティ

「…何をしにきた」


機嫌悪い低い声でそう聞くヘックスに、剣を肩に担いだままの中年の男が、不敵に笑って答えた。


「借りを二つにしたお前を笑いに来たのさ」

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