第104話 教えてやるよ。無法者の恐ろしさってヤツをな
オレの言葉に諦めたように目をつぶって溜息を吐くヘックス。
すると声をかけられた。
「誰だ?」
見ればやたらハイテクそうなスーツを着た男が一人。
分かり切ったことを聞かれたので答えてやる。
「無人のステーションで火事場泥棒する無法者。他に何がある?」
どうやら、オレの答えはお気に召さなかったらしい。目を細めて顔をしかめる。
「失せろ。カスめ。邪魔をするな」
「それ、カグラだろ」
そんな相手の言葉を無視して指をさす。改良されているが、その外見には面影があった。
憐れむように笑みを作って首を横に振る。
「バカだねぇ。仲間を裏切って尻尾振った先が、脳みそまで改造して玩具のパーツになる事か」
「…」
次世代スーツ『カグラ』。
これは文字道理「次世代」のコンセプトで作られたスーツだ。
科学技術が発達し性能や能力が強化されたバトルスーツやサイバーパーツが開発されても、それを取り扱うのが人間である以上、人間の限界である「マンポイント」を超える事はできないという制限があった。
全身を機械にして、身体機能の伝達を神経から電子機器に置き換えても、情報を集積し分析し、状況を理解して、判断する時間は人間の「考える」範疇を超える事が出来ないのである。
その為に作られたのが、分析と判断力の一部をスーツ稼働に特化した補助AI機器に改造し、反射行動を向上させた文字通り「次世代」のスーツだ。
この新機能により、技術向上でスーツの性能を超えられたとしても、判断機能がマンポイントを超えているカグラは、反射能力に関して相手を上回る事が出来る。その行動に特化すれば、バトルスーツでありながら最新のサイバーパーツにすら対抗できるのだ。
「汚れ仕事の専門家にまでなって、壊れた脳みそ以外の、何を手に入れたんだ?」
「黙れ!」
もちろん、実用化はしなかった。
理由は聞いての通りで、脳みそまで改造してしまったら、もうそれ人間じゃないじゃんという倫理的な話だ。ましてや正規兵に導入して一般的なスーツにしようとか、民主主義の国で許されるわけもない。
まあ、開発当時は脳みその再生機能を利用して復活が可能だったらしいけど、その後、脳機能の正常回復とリハビリに20年かかるとかアホな結果が出たんだよな。
とはいえ、その有用性に目を付けた特殊部隊で運用されているというのは分からなくもない。隠密性、緊急性、即応能力という意味では、この機能は十分なメリットだ。
非正規任務で汚れ仕事確定だけどな。
蔑むように不敵に笑って見せて剣を構える。
「黙らせてみろよ。
さて、地獄の耐久レースを始めるとしよう。
さて、さっきも言ったが次世代スーツ「カグラ」の特徴は処理速度が人間の限界を超えている事だ。つまり、相手よりも速い判断力で行動できる。
これと同じことができる奴がいる。
オレだ。
前にも言ったが、相手の“起こり“を見抜いて行動する先に行動する事が出来るのだ。よく言う「先の先」という奴だ。
つまり、相手がこちらよりも早く行動しようとしても、その行動を読んで行動できるわけだ。
フッ。勝ったな。
そう思った人。甘い。
大事なことだけど、オレのこの能力は、技術であって予知能力でもなければシステムで定められた絶対成功する能力でもないのだ。
「ゲフッ」
ドスン。ズザザザ…
吹っ飛ばされて、床を転がる。
多少優位に取れた程度で、生身のオレと最新バトルスーツの相手では、基本性能が違う。
見えて対処できたって、高速移動するバトルスーツがぶつかれば、その衝撃で人間は吹っ飛んでしまうのだ。
高速の動きを予測して、その攻撃を受け止めて、威力を受け流す事を常にできるわけじゃない。何度も言っているけど、達人だからって、物理法則を無視できるわけじゃないからな。
「フゥ…フゥ…」
呼吸を整えながら、剣を構える。
正直キツイ。
もう若くないんだなと実感する。あのスーツの基本性能が上がって、こっちの消費が激しいのだと思いたいけど、前の時はもうちょっとネバれた気がする。
相手の姿がかすむ。
人の目では負えない高速移動だ。だが、機械の稼働の動きは読める。合理的に最適化された動きにはフェイントは入らない。入る余地がないのだ。だから読みやすい。あとは、移動した先に視線を向ければ、そこで方向転換してこちらに向かって来るのを察知できる。
ギィン!
相手の攻撃に剣を割り込ませて、受け流す。
が、それで攻撃が終わるわけではない。周囲を飛び回りかく乱しながら、攻撃してくるのを、何とか先を読みながら剣で受け流す。
ガキン!
とはいえ、いつまでも受け流せるわけではない。こちらは何のアシストもない生身だ。
追いつかない身体能力で食いつくが翻弄され、なんとか刀身を滑り込ませたが、その衝撃に体が大きく浮き上がり、浮遊感と共に吹き飛ばされる。
そもそも、最新のバトルスーツ相手に身体能力で勝負しようというのが無理な話なのだ。
何度目か床を転げまわって、剣を杖代わりにして立ち上がる。
アカン。足が笑っている。
「ぜぇ…はぁ…年は、取りたく…ねぇな」
流石にここまでか。
腰に手を当てながら、限界を自覚する。
相手の行動の先を読むのは慣れて来た。だが同時に疲れ果ててしまった。体はボロボロだ。骨折しているかもしれないけど、全身打ち身だらけでズキズキと鈍い痛みが走る。
吹っ飛ばされて転がって、擦り傷もあるし、来ていたスーツもボロボロだ。
「面白い見世物だったが、所詮は生身の人間だ。話にならん」
相手は元気いっぱいだ。そりゃそうだ、そもそも一度も攻撃出来てないからな。
「馬鹿を言うな」
大きく息を吸って止める。
腰に置いた左手を持ち上げ首筋を抑えながら首を左右に曲げる。
仕方ない。ここまでにしよう。
「教えてやるよ。
(スランside)
不敵に笑う男に、スランは目を細める。
たしかに、生身でここまで食らいつく能力には驚いた。だが、食らい付いてきただけだ。脅威にすらならない。
ヘックスの知り合いのようだが、何の役にも立っていない。ヘックスにも意識を向けているが、応急手当こそしているが、こちらに介入するつもりもないようだ。
捨て駒にでもされたのか。
さっさと終わらせよう。
一気に飛び込み右腕のブレードを振るう。
相手はすでに死に体だ。
それでも、驚くべき反応で起き上がる為に杖にしていた剣を持ちあげ、こちらの攻撃軌道に滑り込ませる。
もっとも、それは想定内だ。
吹き飛ばして終わり。体制さえ崩せば、とどめを刺すのも容易であろう。
ガキン!
しかし、振った右腕には予想外の衝撃が帰ってきた。
止められた?片腕一本で?あり得ない。さっきまで、両手で受け止めてなお吹き飛ばされていたのに。
視線を相手に向ける。
不敵に笑った男の顔。
そして、男の左手が首筋から離れ、そこから何かがこぼれた。
それに見覚えがあった。
特別なものではない。一般的な医療器具。
無針注射器。
男の不敵な笑みが深くなる。
次の瞬間、笑みを浮かべるその白い頬に、手のように青い血管が浮かび上がった。
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後先考えないアウトローの恐ろしさを教えてやろう。
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