第82話 100%真っ黒な仕事です

オレは密入国者だ。世間一般からすれば立派な犯罪者である。

そんなオレは、今まで “やむをえず(強調)”アンダーグラウンドな仕事をしてきた。

それが社会的に善か悪かと問われれば、間違いなく悪だろう。

だが、それはグレーゾーンではあった。輸送船を襲ったが、それは人身売買をしていた悪徳商人だったし、戦いはしたがそれは正当防衛だったり、相手が無法者だった場合だ。

黒に近くとも、それでもグレーと主張できる程度の内容だったと思っている(主観の問題です)


今回の仕事は、反政府勢力への協力です。

反論の余地なく100%真っ黒な仕事です。




ハーンから指定された地点へ飛ぶ。

誰もいない。


「船影なし。ポイントに間違いはありません。調べてみます」


サブコンソールで警戒していたウィルがスキャナーを出そうと操作する手を止める。


「いいんだ。向こうが罠ではないか確認しているんだ。余計な事はしないでいい」


余計なことはせず、移動もしない。あくまでも「次のワープの為のエネルギー回復中ですよ」という姿を見せる。


宇宙船の優劣は性能で決まる。足の速い船に足の遅い船は絶対に追いつかないし、射程の短い砲撃は、それ以上の射程を持つ砲撃と打ち合いになれば一方的に攻撃される。

つまりは、船の捜索範囲以上の長距離スキャナを持つ船なら、その船に気が付かれることなく調べる事が出来るのである。


しばらくそのまま待機していると、ウィルのサブコンソールに反応が出る。


「ワープアウト検知」

「よし、移動開始。合流する」


移動するのは、相手が襲撃者であった場合も含めた対処法だ。

とはいえ、今回は「騙して悪いが…」と言った話もなく、コンテナを連れた輸送船が姿を現す。


【待たせたネ。トモダチ】


胡散臭い通信が届いた。




宇宙空間での荷物の受け渡しはそう珍しい事ではない。

もちろん、正規のステーションで専用の施設を使ったほうが安全で便利だ。

だが何事にも例外はある。正規のステーションで取引してはいけないような品の受け渡しなどだ。


取引中も警戒を怠るわけにはいかないので、ヘックスに操縦を任せ「チャプター号」の貨物室では、ルーイン達3人が荷物を搬入している。無重力なので、コンテナの重量はあまり意味をなさない。推進ボードの推力を流用して移動させるだけだ。


「荷物は何なんだ」


そんな荷物の搬入する様子を見ながら、隣で同じように見ているハーンに聞く。


「もちろん、お金になる品ヨ」


そういうと、すでに固定された中型コンテナの内部確認窓を開ける。

そこにはずらっと並ぶ人型の存在。


「…おう。ジーザス」


バトルドロイドだ。

前に見たのとはタイプが違うのか、一つ目タイプだ。とはいえ、ゴツイ体格等は変わらない。

起動して武器を持たせれば立派な殺人マシーンの出来上がりだ。


「ちゃんと代金はもらえるんだろうな?」


バトルドローンは戦闘兵器だ。性能に比例する者の基本的に高価である。レジスタンス的な反政府組織が簡単に買い揃えられるものではない。国力差や物資補給で劣っているからレジスタンスはゲリラ化するのである。

そんな彼らから高価な品の代金をどうやって回収するのか。べつにオレが心配する事でもないが、聞いてみる。


「大丈夫ヨ。内戦と言ってもコーポの代理戦争でしかないアルネ。どっちが勝っても恨みっこなし」

「所詮は辺境か…」


内乱という事だが、その裏事情は中央にある大企業のキモ入りらしい。

つまり、どっちが勝っても統治者の紐の先の企業名が変わるだけか。巻き込まれる一般人がかわいそうだ。

と、無関係な一般人として主張しておこう。


雑談しつつ、二つ目のコンテナも固定し、最後の三つ目の中型コンテナを3人が格納している。さくさくと慣れた手際だ。本当に、どこに行っても食いっぱぐれない能力を持っていると思う。オレもああいったチートの方が良かったのかもしれない。


と見ていると、ハーンから小さなスティックを差し出される。

データスティックだ。持ち運べる一般的な携帯データ記憶装置である。


「面倒事ヨ」

「最低なサービスだな」

「大事な面倒事よ。パスはかけてあるアルヨ」

「解除コードは?」

「仕事完了の承認が下りたら自動でパス解除ヨ」

「この仕事がうまくいかなかったら?」

「面倒事が厄介事になるネ」

「爆弾かよ」


とりあえず受け取っておく。後で自分のPDAにでも入れておこう。


「これはサービスよ」

「ん?」

「もう厄介事に片足は突っ込んでるヨ。たぶん両足を突っ込む事になるアルヨ。トモダチはこういう事から逃げられないタイプね」

「…自覚はあるよ」


皮肉げに答えながら作業を見る。

見れば、最後のコンテナを積み込み固定を完了させ、こちらに向かって手を振っている。

本当に手際がいいよな。

手を振って答える。

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