第81話 問題もナイナイヨ
現在、オレ達には直面する問題があった。
お金がないのである。
なんでだよ!?って思うかもしれないけど、仕方ないだろ。
チャプター号はデブリにぶつかってへこんでいるし、ミサイルの余波で内部のメンテも必要だ。デコイにした艦載機だってタダじゃない。
特に基本回収して使いまわす艦載機は、使い捨てのミサイルより高価だ。
当初五機の艦載機だって、購入時のサービスでつけてもらったものだ。半数以上の三機をうしなっており、補充するには金が要る。
当初は、ビアンカの保護者から礼金なり、仕事を請け負う事で補填しようとしていたのだが、同郷の人は見つからなかったし、戦争に巻き込まれて被害が出ている状況だ。
廃棄ステーションから金目の物を回収する事もできなかった。
斡旋された物資の輸送は完了したものの、しょせんは輸送任務。報酬だっていうほど高いわけではない。
結果、予定された報酬は手に入らず被害回復の経費だけが掛かっている状況だ。
つまり赤字である。
おかしいな、前回は報酬でウハウハだった気がするのに…
社会的立場のない住所不定の無法者に『貯え』とはなかなか難しい概念である。
そんなわけで目を付けたのが、ルーインの故郷だ。
なんと、有人惑星である。
前にも言ったが、わざわざ惑星一つをテラフォームするより、居住区域の環境だけを整えるステーションの方が簡単だ。
直系数kmのステーションを空気と重力で満たすのと、半径6千kmの球体の高度数千kmまで酸素で覆い循環する自然環境を構築管理する事を比べれば、必要とする資源は圧倒的に少なくて済む。
しかし、そこまでしても有人惑星に作り替える事は、一つのステータスでもあった。
つまり、惑星開発するだけの国力と、それを必要とする人口や産業があるとわかりやすく内外に示すことができるわけである。
拠点の規模が大きいという事は、周りに心のよりどころとなるわけだ。
当然、そこにいる人々はステーションに住む人間よりも資産を持つ。
無駄を許さない宇宙空間と違い、余裕のある土地があるという事だ。
当然、報酬だって増えるだろう。
さらにヘックスの紹介する顔役の星系の途中だ。先にそっちに寄ったところで問題は出ない。
一番の問題が、そんな経済的上位者が住む星に、怪しい輸送船で上陸できるかどうかなのだが…
【大丈夫アルヨ】
一応、公的には商人であるハーンに連絡を取ったところ、満面の笑みで答えてくれた。
社会的信用がない以上、公的な組織の保証が必要となったのだが、この男の満面の笑みと自信満々の返事に嫌な予感しかしない。
【大丈夫アルヨ。トモダチ。トモダチのお願い全部マルっと解決ネ】
「本当に、いきなり撃ち落とされたりしないんだろうな」
当たり前だが、惑星を守る防衛能力は、ちっぽけなステーションの防衛機能とはわけが違う。固定砲台や防衛艦隊がいてもおかしくない。
それを含めての惑星開発である。
【どこの中枢星系の惑星に行くつもりネ。辺境の惑星アルヨ。そんな心配不要アルネ】
そう言ってこちらに情報が送られる。中型コンテナ3個分。容量的には大型コンテナと同じくらいの大きさだ。前回の仕事から、こちらの許容量は分かっていますと言わんばかりである。
それはいい。
チャプター号に乗せられる荷物であるなら問題はない。
なんで、報酬が戦場となっている星系に荷物を運ぶよりも高いのでしょうか?
「額がおかしくないか?」
【おートモダチ。トモダチはお金が欲しい。ワタシ、トモダチの願い叶えるネ。必要なら前金で荷物と一緒に艦載機もプレゼントするヨ】
ここまでアケスケだと逆に理解してしまう。
つまり、絶対に何かあるという信頼だ。
向こうもそれを理解したのだろう。いやらしい笑みを浮かべる。
【その星。今内戦中アルネ。運ぶ荷物は反政府軍への物資アルヨ。正規の入港許可なんて必要ないネ。普通の船なら共和国に目を付けられるけど、誰でもないトモダチの船なら問題もナイナイヨ】
「明らかに危険すぎやしねぇか?」
【トモダチとは仕事をするヤクソクしたね。その分お金イッパイ。トモダチの欲しいものもメニーメニー】
「アレはあくまでも協力だったはずだが」
【だから、報酬はイッパイイッパイね。それと…】
そこで言葉を切ると、ハーンは怪しい商人の笑みを消す。
【これは約束ヨ。トモダチ。報酬に見合った代価を用意したネ。コレ間違いないネ】
深い意味を付け加えるように、そう告げるハーン。
しばらく視線を合わせ、軽くうなずいて了解すると通信を切る。
他に誰もいない通信室で椅子にもたれて天井を見ながら、ぼそりとつぶやいた。
「おう。ジーザス…」
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