平和でないことは知っているけど納得はしない

第80話 心に棚を作るのは大人の特権だ

戦争に巻き込まれて攻撃されたけど、私たちは元気です!(カラ元気)


艦隊戦をしている領域からワープで逃げたオレ達は、船の修理もスキャンだけして、その星系から逃げ出した。

ワープした先で、のんびり応急修理していたら、そこでも戦闘になりましたとかシャレにならないし、ステーションで修理しようにも、この星系唯一の大規模ステーションでは面倒事に巻き込まれたばかりだ。


隣の星系へのゲートで検問をしていた軍艦に、戦闘に巻き込まれた事を告げると、同情した表情を見せて通してくれた。

攻撃したのは君たちの軍隊だよとか余計な嫌味は言わないで心の中に閉まっておいた。

余計な面倒を抱えたくないからね。

…手遅れじゃないよね?



そんなわけでゲートを抜けて、ようやく安心して船の応急修理ができるようになったのだ。

現在子供たち三人にはチャプター号の応急手当てをしてもらう。

オレとヘックスは、廃棄ステーションから持ってきた記憶装置の中のデータを確認する作業だ。


とはいえ、めぼしいデータはない。もともとデータ保管庫で保管されているデータはバックアップだ。邪魔だから退避したような古いデータばかり。ステーションを廃棄した当時の状況の克明な記録などは見つからない。


とはいえ、そんなことは分かっていた。

「窓に!窓に!」なんてメッセージ残している余裕があるなら、普通は逃げるなり対応するなりするものだ。


そんなわけで、無作為に見つけたデータから写真とか音声データなどをより分ける。

ぶっちゃけると、ビアンカのいたステーションの生存者が見つかる可能性はほぼゼロだ。


直近のステーションに退避していない。同じ星系政府に情報がない以上、良くて襲撃者に連れていかれたか、常識的に考えて死亡だ。

ビアンカ自身が人身売買で捕まっていた事を考慮すれば、それを守るべき保護者が、あの状況で逃げられた可能性は低い。


となれば、あのコロニーの画像やデータはビアンカにとって大事な思い出という事になる。

両親の面識なんてないので、見つけたデータをビアンカに放るだけだ。



まあ、あくまでもステーション内の情報を漁るうえでの、追加作業という奴である。


とはいえ、面白い情報もある。


例えば、壊れたステーションの研究内容だ。

あのステーションでは水資源の有効利用についての研究をしていた。

水とは化学式でH2O。しかし、あの惑星には酸素(O)は存在せず、水素(H)しか存在しない。そこで、バクテリアを培養し光合成により酸素を発生させ、水素と結合させて水(H2O)を生成しようとしていた。


さらに光合成に必要な二酸化炭素を、供給するのではなく、プラント内で生物を育成しその排出される二酸化炭素をバクテリアに光合成させて酸素に変換させる。

それらすべてを箱庭型プラント内に形成し、循環型の生成システムを構築しようとしていたのである。


箱庭系ゲームとか好きだといくらでも引きこもっていられる内容だ。

いやはや、辺境開拓といっても、色々あるもんだ。

ちょっと頭が良くなった気がする。




「…ムサシ」


同じようにデータを漁っていたヘックスが声をかけてくる。


「なんだ?」

「…子供たちを船から降ろさないか?」

「それが出来れば苦労はないよ」


そもそも、あの子らはお前の関係者じゃん。

だから、身内の元に返そうと思って、今こうして苦労しているんじゃないか。


「ビアンカの状況を考えれば、身内を探すのは不可能に近い」

「だからって、そこら辺に放り出すわけにはいかないでしょ。薄情モン」


とはいえ、何気にあの子達は多彩な技能を持っている。

たぶん、一人で放り出されても、どこかの船のオーナーより生きていけそうな気がする。

…知りたくない事実を直視しないように心に棚を作るのは大人の特権だ。


「預け先に心当たりがある」

「どこの孤児院だよ」

「ちょっと距離はあるが、この辺の開拓民フロンティアワンを統括する顔役がいる。オレなら、そこに連絡を付けられる」

「顔役?」

「開拓案件の仲介から、開拓団発足までの一時保護までしている。3人をそこに預けて、改めて俺達だけで調べたほうがいい」


なるほど。無法地帯に子供たちを放置なんて論外だが、組織のバックアップがいるなら、任せてもいいだろう。一族という以上横のつながりがあるわけだ。


「そこにビアンカの親類縁者がいる可能性は?」

「ない。ここに来るよりも前に確認はしている」


そりゃそうか。自分の身内(?)の話だ。ヘックスだってサボっていたわけではない。

その上で、この船に搭乗させているという事は、心当たりに関係者はいなかったという事だ。


「考えておく」

「…」


曖昧に答えたオレを、ヘックスはしばらく見ていたが、それ以上オレが何も言わないようなので、しばらくすると再びデータを調べ始める。


実は、誰にも言ってない、大きな問題があるのだ。

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