第83話 お前等の作戦なんて知らねぇよ
惑星には重力がある。当たり前だが、宇宙船が惑星に降下するにはいくつかの手順がある。
基本的には、軌道エレベーターの停留ドックにつなげて人だけが下りたり、あるいは惑星上に宇宙船用の格納ドックを作って格納すると言った具合にだ。
両方を用意して用途に分けて使用するケースも多い。
当然だが、どこにでも勝手に宇宙船が降下出撃されたら地上側が大変だ。決められた場所以外からの宇宙船の侵入を防ぐ手立てを用意している場合もある。
まあ、今回は別にそんなことはないのだが…
「突入コースに入るぞ」
「各員シートベルトを確認」
ヘックスが船のナビに合わせて、惑星に突入する。大気圏に突入しブリッジが揺れる。
宇宙空間と違い、惑星では空気によって宇宙船の移動は制限される。
宇宙船は宇宙を移動するための船だ。大気で覆われた惑星を移動するための物ではない。タイヤが付いているからと言って飛行機で道路を走らないのと同じだ。
とはいえ、宇宙船が空を飛べないかというと、そういうわけではない。
「目標地点まで移動。ルーインはシールド残量監視」
宇宙船が惑星上でも安定して航行できる理由はシールド機能に秘密がある。物理耐性を持つシールドは当然、気体である空気にも反応する。
要するに空気という異物をシールドではじく事で、宇宙に近い環境を維持しようとしているわけだ。
当然、シールドが常時空気を反発するので継続的にエネルギーを消耗していく。宇宙船では惑星上を長時間移動できるわけではないのだ。
もっとも、広大な宇宙に比べれば惑星の大きさなどたかが知れている。致命的な問題にはならない。
某ゲームで言う「どくのぬま」程度の問題だ。
「ウィルは周辺の確認。戦闘に巻き込まれないように注意してくれ」
「はい」
端末を操作しながらウィルが返事をする。
「船体確認コード来ました。指定のコードを返信します」
当然、惑星側も自由勝手に惑星に降下されるわけにはいかない。惑星全体を網羅するように監視体制が引かれているし、不法入星してきた船を摘発する用意もされているのが普通だ。
当然、この星もそうだっただろう。
過去形だ。
現在内戦中の惑星では、惑星全体を管理運営できているわけもなく、警戒網は穴だらけ、治安維持部隊も敵勢力との交戦だけで手いっぱいという状況だ。
オレ達は反政府組織に物資を輸送する以上、政府軍の勢力圏に降りれるわけもなく、反政府組織の勢力圏へと降下する。
今回の取引にあたり、依頼主のハーンからこの星の勢力図をもらっていた。
安全な場所に降下するのは当然の用心だ。
あとは、荷物の受け渡しポイントを連絡してもらって、そこに行くだけだ。
「あ~。こちらチャプター号。荷物を届けに来…」
【今更何しに来やがった!ウスノロのトーヘンボク!】
通信機から最大音量の怒声が鼓膜を震わせる。
声の威勢で顔が斜めにかしぐほどの大音量だ。
「いや、荷物はどこに下ろせばいいんだ?」
【もう作戦は始まってんだよ!今更持ってきてぶっ飛ばされたいのか!!】
お前等の作戦なんて知らねぇよ。
重量のあるコンテナを出すには時間がかかる。重力のある地上ならなおさらだ。
適当に、そこに置きますとは出来ないし、宇宙のように放り出して後は勝手に回収しろ。ともならない。
きちんと相手の指定する場所で受け渡す必要がある。
まあ、当たり前の事なんだがな。
【今すぐここにもってこい!】
怒声と共に通信が切れる。
そして、受け渡し位置の位置情報が船に送信される。
会話の内容から、とある不安要素があった為、念のために声をかける。
「ウィル。この星の勢力図と比較してくれ」
「え?あ、はい」
オレの言葉にウィルが端末を操作すると、二つの地図が重ねられる。
「おう。ジーザス」
どう見ても最前線です。本当にありがとうございました。
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