第84話 どこにでも運の悪い奴はいるらしい
チャプター号は大型コンテナを格納できる輸送船なので、その大きさは十分すぎるほどある。
そんな巨大な飛行物体を隠すのは至難の業だ。
誰も存在しない未開の地ならともかく、血眼になって索敵している最前線にあっては、隠れる事は不可能と言える。
まあ、最前線と言っても文字通り敵との銃撃戦の目の前というわけではない。
無重力の宇宙と違い、重力下では、コンテナの搬出は簡単なことではないのだ。
そんなわけで、指定されたのは最前線から数km“しか”離れていない場所。
緩やかな盆地(クレーター)になっている場所だ。
そこには、数台の重機が置かれておりいくつかの物資と思われるコンテナが置かれている。
ペンキで大きくマークを描いただけの急場で作られた着陸ポイントに着陸させる。
【ミラージュクロークを展開する。シールドを切ってくれ】
「シールド解除」
「シールドを解除します」
オレの命令でシールドを解除する。
ミラージュクロークは、指定した映像を展開して、建造物を隠す装置だ。フリゲート級とは言え宇宙船である。窪地であっても、その姿をすべて隠せるほど小さくはない。
そこで、映像をかぶせて隠すのである。
映像を映し出すために微小の粒子を散布するのだが、シールドを展開していると異物としてはじいてしまう上に、シールドの反発力から位置がばれるので、基本的には姿を隠している時にシールド機能は使用できない。
一長一短というわけだ。
「よし。搬入口を開けてくれ。外に出るのは、オレとヘックスだけだ。状況次第では、お前達だけで一時的に退避してもらう」
隠れているとはいえ、最前線に変わりはない。
いつ流れ弾名が飛んでくるか分からない以上、外に出る人数は最小限でいい。
…正直、バトルスーツを着ているヘックスはともかく、剣一本しか持っていないオレも、外に出たくはないのだが、そもそも今回の輸送契約を結んだのはオレだ。出ないわけにはいかないのだ。
「遅かったな!」
「知らねぇよ」
ハッチから降りると、ヘルメットをかぶった反政府軍の兵士らしい男が駆け寄ってくる。
第一声を悪態で返してハッチに誘導する。
個々の反乱軍は悪態をつくのがデフォルトなのか?
兵士も、オレに愛想を尽くす義理はないのか、重機を誘導してコンテナの搬出を促す。
ズゴン!!
やたら大きな音で着弾した。
「なんか、砲撃が激しくなってねぇか?」
「向こうだって馬鹿じゃない。隠したって、船が降下したアタリはつけて砲撃しているんだろ」
「おう。ジーザス」
「悪いが、コンテナは船の影に置かせてもらうぞ」
そういうと、重機が取り出したコンテナを船で砲撃から遮るように置いて行く。
ズガン!
そんな重機の動きを見ていたのだが、至近弾が落ちる。
巻き上がった土くれが小雨の様に降り注ぐ。
「オレ達も船の影で待つことにするか」
オレの言葉に、ヘックスは異論はないと肩をすくめて移動する。
いくらバトルスーツと言えど、砲撃弾をはじくほど強靭ではないのだろう。
「この修理代は誰が出してくれるんだ?」
「さあな」
愚痴りながら、船の影に移動する。
ぶっちゃけると、地上からの砲撃は大した問題ではない。宇宙を航行する為の装甲は伊達ではないのだ。
対地用迫撃砲程度の攻撃なら、小さなデブリ程度の威力でしかない。
商用船とはいえ装甲の厚い宇宙船に致命傷を与えるなら、それこそ十発以上の直撃弾か、高出力砲が必要になる。
荷物を収納しているコンテナにはそんな防御力が備わっているわけないので、船体でガードしつつ荷物を下ろす。
コンテナが置かれると、メカニック達が集まり機器をつなげて操作しつつ陽気に騒いでいる。
「ドロイド一式。これで一息付けるな」
「データリンクしてさっさと初期設定しましょう」
「汎用ドローンは後でいい。バトルドローンを最優先だ」
まあ、戦力的に劣勢な反乱軍である以上、戦力の強化は急務なのだろう。
戦争は数だよという名言は、今も昔も変わらない。
「荷物はこれで全部だ。問題ないな。受け取り承認をくれ」
荷物が卸されたことを確認してから声をかける。PDAから電子受領の画面を呼び出してメカニックに声をかける。
「あいよ。責任者がそこの天幕にいるからもらってくれ」
手元のボードをチェックしつつ、話しかけたリーダーっぽいメカニックが、こちらを見もせずに自分の肩越しに親指で指さす。
その方向を見ると、同じように聞いていたヘックスが職員の差した方向を見る。
「どこの天幕だ?」
「は?」
ヘックスの返答に、職員も面倒そうに振り返りながら話す。
「だからそこの…」
指をさした場所は砲撃によって小さなクレーターになっていた。
流れ弾が飛んできている場所だ。どこにでも運の悪い奴はいるらしい。
口をキュッと引き締めて聞いてみる。
「他に受け取り承認ができる人は?」
「ウチの上がいないなら…あとは司令官かな。最高責任者だし」
クレーターとなった天幕跡地を見たまま頭をかいて職員が答える。
こんな状況でも、ちゃんと答えてくれる職員さんはプロだ。
なので、確認をしよう。
「その司令官はどこにいるんだ?」
オレの問いに、チラッとこちらを見ると無言で軽く顎でしゃくる。
そこは、流れ弾ではない弾が飛び交う、まごう事無き最前線。不定期に大きな炸裂音がしていた。
「おう。ジーザス」
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