第85話 戦争に参加するつもりはないぞ

シュイーン


やたら静かな音で移動するホバーカーで移動する。

とはいえ、輸送車両だ。お世辞にも小回りが利くとは言えない。


運転席には正規の反乱軍の運転手兼メカニックが乗っており、オレ達の座席はない。

なので、オレ達が乗っているのは荷台だ。

そして、そこに並んでいるのは、オレが運んで来た荷物の中身であるバトルドローン。


仕事で荷物を運んだら受領証明できる責任者が最前線の指揮官しかいないことが分かった。

下手にこのまま待っていると、その責任者まで前任者と同じ道をたどりそうであったため、反乱軍のメカニックに頼み、司令官のいる最前線に送ってもらっているのだ。


まあ、前線に軍事物資(バトルドローン)を運ぶついでではあるが。


ちなみに、荷物を下ろしたチャプター号は、宇宙に退避してもらった。対地兵器で壊れるようなヤワな装甲ではないが、被害は出るし運が悪ければ装甲を突破される可能性もある。必要がないなら、より安全な宇宙空間で待機していてもらった方がいい。

専用の通信回線は設定しているので、呼び寄せる事はできるはずだ。


そんなわけで、荷台で揺れているわけだが、同乗しているヘックスが悪戦苦闘している。

理由は、オレも今かぶっている反政府軍用ヘルメットだ。

ライトや通信機内臓の多目的防弾ヘルメットなのだが、バトルスーツのヘルメットの上に乗せるような大きさ的余裕はなかった。

諦めて腕の外装にダクトテープでくっつけている状況だ。


これには大事な理由がある。つまりは、ヘルメットに内蔵している識別信号で敵味方を判断しているためだ。

一見して唯のノーマルスーツのオレと、バトルスーツのヘックスだ。こうでもしないと見間違えた味方から攻撃されかねないのだ。


ついでに言うと、通信装置もヘルメット内蔵だ。腕に巻き付けている段階でヘックスに通信内容を受信することはできない。


「戦況はどうだ?」


なので、ヘックスから通信内容を聞かれる。

とりあえず、ヘルメットの通信機を入れてみるが、交信内容は支離滅裂だ。特徴としては、どちらもブラスターの発射音だの、破壊音などが響いている事くらいだ。


「うるさい位に忙しいらしい」

「チェックをもらって「ハイ。おしまい」とはいきそうもないな」


BGMとしては最悪の部類だ。

騒音を流す通信機を切って、口をへの字に曲げてヘックスの言葉に返す。


「戦争に参加するつもりはないぞ」

「同感だ」


オレの意見に同意しながら、どこか達観したようにヘックスが肩をすくめた。




30分ほどして、輸送車両が最前線に到着。

土嚢を積み上げた即席バリケードで守られたスペースに停車する。


バトルドローンの搬出の邪魔にならないように、荷台から降りる。

そこら中に戦闘によるブラスータ―の跡や、土嚢が吹き飛んだ痕跡があるが、今現在は弾が飛び交うようなことはない。


「司令官はどこにいる」


周囲を見回すが、兵士の姿がほとんどいない。

バリケードの近くに負傷兵を横たえており、数人の衛生兵らしき兵が治療パックをもって応急手当をしているくらいだ。

バリケードの向こうには軍事施設の入り口がある。見てわかるが激戦だったようだ。入口にあった大型タレットは煙と炎を上げて止まっているし、入り口の隔壁には大きな穴が開いている。


「おい。司令官はどこだ?」


振り返ると、輸送車両の運転していた反政府軍のメカニックが、焦った顔で通信機に向かって大声をあげている所だ。

嫌な予感を感じながら、通信機を入れる。


「無理です。バトルドローンを動かすまでに3…20分はかかります」

【20分もあれば完全に包囲されて全滅だ。何とかしろ!】

「基地への突入は待つって話じゃ…」

【全部じゃなくていい、別動隊を足止めする数でいいんだ「司令官。第一波来ます」迎撃!隔壁解除どうだ?「ダメですこの装備じゃ…」もういい。お前も迎撃に回れ。援軍が来るまで防衛戦だ!】


その言葉を最後に、向こう側からの通信が切れる。

メカニックは、通信機の内蔵されたヘルメットを地面にたたきつけようとして、それが無意味な行動だと気が付き、途中でやめる。


「おう。ジーザス」

「戦争には参加しないんじゃないのか」


悪態を聞いて、ヘックスが聞いてくる。

オレは口をへの字にしたまま返す。


「オレの意見は変わっていないよ」


ヘックスは諦めたように首を左右に振ると、自分のブラスターピストルを取り出して、専用のストックとバレルを出して取り付け始める。万能銃を集団戦闘に適したライフル形態にカスタムするのだろう。


ヘックスを残してオレは、半泣きでバトルドローンに取りついて起動準備をしているメカニックに近づいた。


「20分。基地内の別動隊を足止めすればいいんだよな」

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