第86話 灰色に近くても民間人です

「どうしてこうなった…」

「どうしてだろな」


もう何回目かになる問答を繰り返す。あきれ果てたヘックスの返事もおざなりだ。


荷物の受け渡しの承認をもらおうと思ったら、承認者が前線でピンチである。

死体では承認ができない以上、助け出さなければならないのだ。


民間人のオレが!

反乱軍とはいえ軍人を!

灰色グレーに近くても民間人です。


まあ、そんなわけで、反乱軍のタクティカルヘルメットをかぶって、唯のノーマルスーツに剣一本という戦場に出てはいけない一般人スタイルで軍事施設を歩く。


宇宙船が宇宙空間から惑星上を自由に監視できるためか、軍事施設の内部機構は基本的に地下になる。

外観からでは内部構造が分からない作りになっているわけだ。


とりあえず、抵抗はない。すでに反政府軍が突入しており、防衛部隊を撃破しているからだ。

戦闘の跡を追って奥へ進む。




「で、中継ポイントについたようだがどうだ」

「ちょっと待て」


手元の携帯端末を動かしながら現在位置を確認する。

基地に突入する前に、基地の構造を記録した端末を借用していた。


地下にある以上、基地の内部構造は多層化構造だ。平面にすべて配置するのではなく、階層をつくっている。

オレ達到着したのは、そんな階層移動用のエレベーターだ。


4つあるエレベーターの半分の扉は破壊されており、二つ残った片方には、ゴツイ装置が接続されている。

事前に教えてもらっているが、ハッキング装置だ。


基地内の設備は基地側からコントロールされている。

階層移動させるエレベーターなど、侵入を妨害する画期的な装置だ。途中で止めてもいいし、防衛隊を配置した階層に誘い込むこともできる。

まあ、一般化しすぎたせいで、それに対処する方法も確立されていた。

それがハッキングで、施設側からのコントロールを切り離す方法だ。


つまりは、このハッキング装置が取り付けられているエレベーターが、基地側の妨害に邪魔されずに、目的の階層に降りる事の出来るエレベーターという事になる。


そのエレベーターに乗り込み、目的階層を押す。


「ムサシ。フロアの地図をくれ」

「はいはい」


どんどんと地下に降りていくエレベーターの中で、ヘックスのバトルスーツに、PDAから地図を連携する。


チーン


宇宙時代になっても変わらない例の音がする。


この先が中枢エリア。包囲されかけている司令官たちの部隊がいる場所だ。

間違いなく危険な場所だろう。


扉が開いた。


間違いない。危険な場所だ。

開いた扉の先。通路の10mほどの場所にある横道。

丁度そこから二体のバトルドローンが出てきて奥に曲がるところだった。


「右を頼む!」


ヘックスにそれだけ言うと、頭の乗せただけのヘルメットを後ろに放り投げて飛び出す。


出会い頭という不幸な中で、良い事が一つだけあった。

中枢へ向かおうとするバトルドローンは、ちょうど後ろを向いているという点だ。

つまり、バトルドローンは振り返る必要があるという事である。


ズキューン!


数歩走りこんだところで、最大威力に設定したへックスのブラスターが右側のドローンに命中する。

最大出力にしたヘックスの万能銃は、エネルギーパック一つをすべて一発に回している。威力的に言えば最高威力のブラスターは、バトルドローンの分厚い対熱装甲を貫いて大穴を開ける。

倒れるバトルドローンを気にすることもなく、機械制御のバトルドローンがこちらを向く。


しかし、走りこむオレを無視して、バトルドローンは、エレベーターのドアの影に隠れるヘックスに銃口を向けた。


もちろん、これは狙ってのことである。


何せ、オレはノーマルスーツに剣一本を持っただけの姿だ。

剣は武器だが、それは武器と認識されて初めて武器になる。宇宙でビ-ムでドンパチするような時代において、金属を研いだ物体を危険な武器と認識するのは難しいのだ。


現代風に言えば、サスペンスではガラスの灰皿は凶器になる事もあるが、灰皿を持って歩いても凶器を持った殺人鬼とはならない。これが包丁や拳銃なら即通報だ。

そう思わせる為に、反乱軍の識別認識を内蔵したヘルメットも外したのだ。

つまり、プログラムによって制御されたバトルドローンにとって、鉄の板を持って走るノーマルスーツの男と、バトルスーツで身を包み高出力ブラスターを持つヘックスがいたら、どちらをより脅威と見るか。


無力な民間人と認識されたまま、バトルドローンの間合いに入る。


キン、キン!


剣の一線で武器を持つ両腕を切り飛ばす。

そのまま、再度剣をふるいバトルドローンの右足を繰り落とす。


「おう。ジーザス」


このままトドメをと思ったが、そこで剣を止めて体の前に構える。


理由は単純だ。

新しく一体のバトルドローンが横道から姿を現したのだ。

当然、オレが無力な民間人ではなく、現在進行形で同型のバトルドローンを無力化した脅威と認識している。


慈悲も容赦もするはずなく、バトルドローンの持っていた銃口がこちらを向く。

息を大きく吸う。


ジュイイン!


銃口から連射される熱線をすべて剣で切り払う。

連射するブラスターライフルであっても、銃口から熱線が飛び出す機構に変わりはない。その軌道上に剣を置く、やっている事に変わりはない。


とはいえ、相手の銃口の動きに完璧に対応するのは簡単じゃない。

一人の攻撃を切り払うのが精いっぱいだ。

集中力を途切れさせないように、切り払いながらすり足で少しづつ前に出る。


あとは、敵の間合いに入るか弾切れになれば反撃できるのだが…

横道の向こうから、何か機械の動く音が聞こえる。おそらく次のドローンが向かってきているのだろう。

さっきも言ったが、連射するライフルの弾丸を切り払うのは一体が精いっぱいだ。二体以上の攻撃になると詰む。


だが、時間との勝負にはならなかった。


ズキューン!


大威力のブラスター音とともに、オレを攻撃していたバトルドローンの胴体と銃を持っていた腕ごと吹き飛ぶ。

弾倉を入れ替えたヘックスの万能銃の一撃だ。


見れば通路のバトルドローンが片付いたことで、弾倉を取り換えながらこちらに走り込んでくる。


つまり、あとは横道の奴らを何とかすればいいだけの話だ。

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