第87話 扉を開ける手段がオレにはあった

ガシャン!


胴体に穴が開き中枢を吹っ飛ばされたバトルドローンがバランスを崩して倒れる。

これで、通路側にいるバトルドローンは倒した。

とはいえ、それで終わりではない。横道からは断続的にブラスターの熱線が飛び込んでおり、こちらをけん制している。


当たり前だが、戦闘用のドローンに内蔵されたプログラムも戦闘のためにカスタマイズされたものだ。

ただ、見つけた相手を無差別に打つだけの汎用ドローンとは戦術能力も違う。


通路の両脇で、バトルドローンの熱線から身を隠しながら、反対側で同じようにしているヘックスを見る。

ヘックスの万能銃は、現在高威力高射程に特化した一発屋だ。

横道で弾幕を張るバトルドローンと手数でやり合うのは厳しい。

そして、オレはといえば剣一本である。



正攻法では不利であることは否めない。

まあ、向こうは戦闘専用のドローンで、こっちはただの民間人である。どうみても有利になりようがない。


なので、民間人らしく庶民の知恵で対抗しよう。



「ヘックス」


反対側で身を隠すヘックスに声をかけて、足元に横たわるバトルドローンを足で横道の対面に押し出す。


そのドローンは、オレが両腕と足を切り落としたドローンである。

武器も使えず、移動もできない文字どうり無力化されたドローンだ。


親指で横道をさすと、ヘックスも理解したのか、ライフルを横に置いて、壊れたバトルドローンを持ち上げる。


動けないといってもドローンはドローンである。それも戦闘用の重装甲のドローンだ。ただの人間では持ち上げるのも一苦労だろう。

だが、ヘックスの着ているバトルスーツは戦闘用のスーツだ。当然各種駆動部には補助機能があり、通常の人間以上の重量を持ち運ぶことができる。

持ち上げて、放り投げることができるのだ。


このバトルドローンは腕と足を切り落としただけ。無力化しただけで機能は生きている。

当然、ドローンは同士討ちを避ける機能を持っている。基本機能だ。

反対側に押す際に、射撃するバトルドローンが、無力化したドローンを避けて攻撃していたことも確認済みだ。


「むん!」


気合いの声とともにヘックスがバトルドローンを横道に放り投げる。

それに合わせて、横道に飛び込む。


狙いは一瞬。

横道には二体のバトルドローン。道の広さのせいか横ではなく、斜めになって隊列を組んでいる。

その先頭のバトルドローンに無力化されたドローンがぶつかり体勢を崩す。


その先頭のバトルドローンの影になるように飛び込むことで、後ろのバトルドローンの攻撃を避ける。

体勢を崩したバトルドローンが持ち直す前に、至近距離まで近づき剣を突き入れる。


先頭のバトルドローンではなく、体勢を崩した隙間を縫うように一直線に突き入れたのは後衛のバトルドローンの首。


キン!

固い澄んだ音ともに、後衛のバトルドローンの首が宙を舞う。


もちろん相手は機械だ。首を飛ばした程度で機能を停止しない(場合がある)。

だが、主要センサーは頭部にあるケースが多い。不確かな感知状態で、味方がいる狭い通路で武器を乱射させるような無様なプログラムはないはずだ。

それを回復させるわずかな時間。

剣を引き戻すには十分な時間だ。


「はぁ!!」


足を踏みしめ、腰を回転させ両腕の力に連動させる。

再び剣を突き入れる。


それは、先頭のバトルドローンにぶつかった無力化されたバトルドローンと、体勢を戻そうと無防備になった先頭のバトルドローン。そして、首を失った後衛のバトルドローンの胴体を貫通して田楽刺しにした。


機能を失って崩れ落ちる三体のバトルドローン。

剣の根元までバトルドローンの体を貫いて、それを握る両手に負荷がかかる。


とはいえ、それで終わらなかった。


その崩れ落ちるバトルドローン達の向こう側。横道の最奥。

そこに、もう一体のバトルドローンがおり、銃口をこっちに向けていた。


剣を引き抜く時間は…


「伏せろ!」


後ろから声がした。

投げ出すように身を低くする。


ズキューン!


銃声とともに、奥にいたバトルドローンの胴体を高威力の熱線が貫く。


振り返ると、横道の入り口でヘックスが万能銃を構えていた。


「…はぁ~」


腰を下ろしたまま残骸から剣を引き抜く。ようやく敵を全滅させて大きくため息をついた。激戦だったんだ、小休憩くらいはさせてくれ。

ヘックスも弾倉を入れ替えながら近づいてきて、体を起こしたオレの膝にエレベーターに捨ててきたタクティカルヘルメットを放る。


「戦果を報告しておけ」

「へいへい」


座ったままヘルメットをかぶって通信機を入れる。

すると、向こうの通信が飛び込んできた。


【バトルドローン一小隊準備できました、今から向かわせます】

【大至急防壁充填剤を持ってこい。もう残りがない】

【そんなのここにありませんよ!】

【探せばどっかにあるだろ】

【ドローンの調整は誰がするんです!】

【誰かに持ってこさせろ!】


…向こうも忙しそうだ。


ちなみに、防壁充填剤はスプレー缶に入ったクリームの様な固形の泡を出す薬剤だ。物理的には大した障害にはならないが、ブラスターの熱量を分散吸収する特殊な薬剤である。


とはいえ、便利なだけではない。ブラスターの攻撃を受ければ消費するし、風では飛んでしまう点や、物理的には何の役にも立たないといった欠点もあるのだが、それでも何もない場所に耐ブラスター用のバリケードを即席で作る事が出来る便利な道具であもる。


当たり前だが、オレはそんなものを持っていない。

つまり、現在通信で飛び交っている問題に関して対処できないというわけだ。これから戻って防壁充填剤を見つけて帰ってくるとかナンセンスである。


そんなわけで、軽く肩をすくめると、通信から漏れる音声を聞いていたヘックスがオレを見下ろしていた。


「なんだよ。さすがにない物はないぞ」


オレの言葉を聞いて、ヘックスが視線を上げる。


「だろうな。だが、ある所にはあるかもしれないぞ」


振り返ってヘックスの視線の先を追う。

その先には、一枚の扉。その横には扉の向こう側を示すプレート「物資倉庫」の文字があった。


「おう。ジーザス」


ここは敵の軍事施設だ。当然、この扉もロックされているだろう。幸か不幸かその扉を開ける手段がオレにはあった。


諦めたように通信機のマイクを入れた。

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