第88話 絶望的でないだけマシともいえる

前にも言ったが、軍事施設では物資は分散して保管している。

一つにまとめておくと、そこを封鎖したり撃破されたら終わってしまうからだ。軍事物資を分散させて抵抗を続けて援軍を待つのは常套手段だ。


まあ、そんなわけでオレ達が見つけた『物資保管庫』にも防壁充填剤は保管されていた。


問題はどうやって物資を相手に届けるかだ。


なにせ、届け先の反乱軍司令官は軍事施設の奥で防衛戦のまっただ中だ。

敵部隊が反乱軍の退路を断って攻撃している以上、オレ達が合流するには敵部隊を突破する必要がある。


敵戦闘部隊を、たった二人で突破。ホロムービーのヒーローでもなければ無理な話だ。


まあ、手がないわけではない。

一番無難なのは、現在援軍として派遣されるバトルドローンの小隊に合流し、敵部隊を撃破して合流するという手だ。

オレ達に関しては安心安全な方法である。


問題があるとすれば、攻撃されている反乱軍部隊だ。防壁充填剤は即席防壁を作る為の装備だ。これがなくなれば、見通しの良い通路でバリケードなしで戦う羽目になる。

残念なことに、司令官が人間である以上、ブラスターが当たれば死ぬ。ヒットポイントゲージも司令官残機ボーナスもこの世界にはない。

今現在も殺人兵器の砲火にさらされているのだ、時間がかかっても大丈夫など楽観視はできない。


司令官の生存確率を上げるには、迅速に不足した物資を届ける必要がある。


…幸か不幸か手段がないわけではないのだ。

問題があるとすれば、オレ達の安全性が下がるという点だけだろう。

絶望的でないだけマシともいえる。

マシだといいな。


その為の目標地点への移動は簡単だった。

そもそも、現在このフロアの戦力は反乱軍の包囲攻撃に集められており、それ以外の道を行くオレ達を邪魔する戦力は残っていなかったのだ。

後は、固定されたタレット位だが、それはヘックスの射撃で無力化された。


で、オレ達が来たのは反乱軍の部隊が包囲されている場所から壁一つを隔てた部屋の中だ。

もちろん、そこに扉などないしそこから反乱軍の部隊と合流する道はない。


「なければ作ればいいのさ!」


キキン!


剣を振って壁を切り取る。

壁の向こうに人がいたら一緒に切れてしまうのだが、そこはギリギリ刃を届かせる事で対処する。

まあ、切れてしまってもドンマイってところだ。治療薬で手当てしてもらって欲しい。


ガコン。


ちょっと気を使って切ったのだが、目論見道理だった。

壁の向こうでは、絶賛集中攻撃でボロボロになっている反乱軍部隊が、驚いた表情でこっちを見ていた。

まあ、いきなり壁に穴が開けば驚きもするか。


「荷物、届けに来たぜ」


一応、反乱軍の多目的ヘルメットをかぶっている。向こうの識別信号では味方になっているはずだ。ついでに、通信で荷物を届ける事も伝えてある。届け方がダイナミックになった事は報告していないが、気にしちゃいけない。

そんなわけで、まずは防壁充填剤の入ったカバンを渡す。


ゴツイは黒人のオッサンがカバンを受け取り、中を見ると納得したようにニカッと笑って、それを兵士に渡す。


「よし、すぐに補強しろ」


軽い歓声と共に、動き出す反乱軍兵士たち。これで、援軍が来るまで耐えられるだろう。


「あんたが司令官か」

「ああ、助かった感謝する」


年配の黒人兵士の少しかすれた声に聞き覚えがあった。通信機でがなり立ててた声だ。間違えないように確認しながら、壁の穴を抜けて前に立つ。


「こっちの受け取り承認もしてもらっていいか?」


PDAを出すと、不審げに見たがすぐに思い至ったようだ。


「ああ、ドローンの奴か。分かった。ちょっと待ってろ」


納得したのか、差し出したPDAを受け取り操作する。

PDAを受け取って画面を確認すると、無事契約完了の文字が出ており、これで正式に仕事が終わったことが分かる。


思えばこの程度の事の為に、よくもまあこんな面倒な事に巻き込まれたものだ。


「んじゃ、頑張ってくれよ」


オレ達の目的は終わった。余計な問題がなかったとは言わないが、終わってしまえばミッションコンプリートだ。

後は帰るだけ。


ガシッ

「まあ待て」


振り返ると、ゴツイおっさんのゴツイ手がオレの肩をつかんでいた。

すごく良い笑顔だ。黒人のせいか歯の白さが目立つ満面の笑みって奴だ。まるで不利な戦場で打開策を見つけたような。絶望的な状況で幸運の女神を見つけたような笑顔である。


他人の幸福を妬むような性格ではないと自負しているが、自分の不幸を嘆く位は許してほしい。

つまり、その笑顔に嫌な予感がしたのだ。


「おう。ジーザス」

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