第60話 一人負けかぁ
有人機と無人機について機体性能に大きな違いはない。
確かに有人機のほうが量産無人機よりも高性能である事が多いのだが、艦載機である以上、物理的な大きさを無視することはできない。
機体が小さければ、エネルギーも小さく、乗せる武装の威力も小さく、装備されるシールドも小さくなる。
カスタマイズして性能を上げる事はできるが、それだってせいぜいミニ四駆程度の差だ。
艦載機同士なら明確な性能の差になるのだが、普通自動車(宇宙船)と比べれば玩具の範囲でしかない。
無人艦載機はその名の通り、コンピュータープログラムで動き、目標を自動で攻撃するようになっている。だが、その動きはあまり複雑にはできていない。ある程度の行動パターンはあるが、あくまでも無人艦載機の仕事は継続的に目標を攻撃する事だ。自機を守る事ではない。
そもそも、無人艦載機はある程度の被害を想定して使用する消耗品だ。
つまり、無人艦載機を攻撃するにあたり、そのパターンを網羅した有人艦載機は、無人艦載機キラーとなれるのだ。
【クソッ。こっちの
通信から漏れる仲間の海賊の悪態が聞こえる。
ちなみに、ホーネットが有人艦載機であるのに対し、ワスプは無人艦載機の事をさす。
フリゲート船より高機動の艦載機は、敵の船を攻撃する兵器の一つである。ミサイルやビーム砲のような兵器の一つだ。
つまり、無人艦載機キラーである有人艦載機は、それだけで、その1カテゴリーの兵器を無力化できるのだ。
当然それは戦術的に優位に立てる事を意味している。
「アレに突っかかるのは嫌だなぁ」
次々と無人艦載機を撃ち落としていく有人艦載機無双に愚痴が漏れる。
前にも説明したが、シェイク号は艦載機に対して効果的な攻撃手段を持っていない。運任せの一発撃つだけだ。
とはいえ、このまま好き勝手やられて無法者達の士気を上げてやるわけにもいかない。
「案外イケそうかも」と思えば、多少の危険を冒してでもこちらを撃破しようとしてくるかもしれないからだ。
無法者は、欲が絡めば命の危険を簡単に許容する。
「…一人負けか」
ため息をと共に覚悟を決める。
リッカの船は戦闘の最前線で頑張っているし、海賊たちの船は、良くも悪くも普通の海賊の
「ヘックス。いつでも撃てるように攻撃をチャージしておいてくれ」
「わかった」
「目標はこいつ。なに、ビビらせるだけの簡単なお仕事だ」
無法者の船の一つをコンソールでマークする。ワープアウトした瞬間から相手を捕捉しているのだ、映像データーから目的の船を探す事は簡単だ。
「ブースターリミッターカット」
「よし、つっこめ!」
簡単に外れるリミッターをスイッチ一つで解除すると、オレの合図とともに、シェイク号が一直線に敵の船団に向かって突き進む。
さて前にも言ったが、武器の射程というのは基本的に威力に比例する。
高威力のほうが遠くまで届くというものだ。まあ、兵器によって差はあるが、エネルギー兵器であるビームに関しては、おおむねこの理論が適用される。
そして、シェイク号に搭載されているのは駆逐艦の主砲にもなる「スピア」である。
当然、その射程は一般的なフリゲート船の有効射程距離よりも長い。
「スピア発射!」
ヘックスの言葉とともに、青いビームが飛んでいく。
一応、まとまってこちらに対抗していた無法者達の船の動きが乱れる。
もともと戦闘の中心から離れた場所に退避しており、ほかの船の攻撃にさらされないように位置取りしていた船が、突然こちらに突っ込んできたのだ。
とはいえ突然の第一射は直撃弾にはならない。相手との距離が離れていた為、残念ながら命中しなかった。
だが、その威力を見て、シェイク号が高威力の武器を搭載されている事を敵も認識する。
ある程度まとまっていた敵の船団の射程に飛び込むように一撃を与えたのだ。敵の船から反撃とばかりに、攻撃が飛んでくる。
そもそも「シェイク号」は強力な威力を持つ武器と高加速で一撃離脱を繰り返す一発屋と呼ばれるタイプの船だ。リミッターカットした加速力は、普通のフリゲート船よりも速い。
そして、「速さ」とは古今万物不変の防御でもあった。
コンピューター制御による予測射撃であっても、速度の速い船と遅い船であれば予測範囲に差ができる。ほんの数度発射角度が違うだけで、数十キロ離れた船に当たることはないのだ。
「そのまま突っ込め!」
「第二射発射!」
スピアから二発目のビームが発射される。
相手の船に近づいた事もあり、二射目が目標の船に命中する。
フリゲート船では規格外のスピアの威力に、敵艦のシールドが消し飛び、本体にまで突き刺さる。
とはいえ、近づいたのはこちらも同じ。速度が速かろうと、近くなればそれだけ予測の範囲も狭まる。敵の攻撃の命中率も上がり、すべての攻撃を回避することはできない。
敵の攻撃も命中し、シェイク号のシールドを容赦なく削っていく。
「ビンゴだ!そのまま離脱!」
だが、オレの口から上機嫌な声が漏れる。それは別に攻撃が命中したからというわけではない。オレが見ていたのは敵機の動きだ。
有人艦載機が突如、無人機とのドックファイトをやめて、戻ってきたのである。
前にも言ったが、艦載機は宇宙船の分類だ。小型で高速高機動ができ、エネルギーも少ない。
そしてなにより、ワープ機能が搭載されていない。
つまり、星系を移動するにはワープ機能搭載艦に収納される必要がある。
その母艦が撃墜されたら、艦載機はどうなるだろうか。
前にオレが同じ立場になった事があるからわかるだろう。
まあ、手がないわけではない。
このまま、この戦闘に勝てたならまだいい。
仲間の船に回収してもらえるかもしれない。回収できる船が残っていて、そのパイロットが信頼できるか試してみてみるのは自由だ。
しかし、そうでなければ有人艦載機のパイロットにとって、母艦の撃破は自分の死を意味する。
海賊船を襲撃して、無人艦載機をいい気になって撃墜しまくっているのだ。降伏しても幸せな未来が訪れる可能性は低い。
有人艦載機のパイロットとしては、何があっても母艦が沈んでもらっては困るのだ。
である以上、無人機を撃破するよりも母艦を守ることを優先する。
そして、そんな中で味方のフリゲート艦よりも射程の長い武器を持っている船が敵にいるならどうするだろうか。
当然、その船が母艦を射程範囲に入らないように、牽制する必要が出てくる。
無人艦載機を追い回している余裕などなくなる。
それは、切り札としての役目を放棄する事に等しい。
あとは簡単だ。
切り札を失ってカード勝負が出来るものかという話である。
被弾したフリゲート艦は、有人艦載機を回収すると、そそくさとワープで戦線を離脱。
切り札を失い、戦力バランスが崩れれば、無法者達はもう止まらない。
もともと、そこまで固執する必要もない戦場だ。
勝ち目のない戦闘で余計な被害を出すのも馬鹿らしいと、次々と逃げていく。
もちろん、それを追撃するつもりはない。オレ達の目的は襲撃者の撃退ではないのだ。いなくなるなら「二度と顔を見せるな」と悪態を吐いてやるだけだ。
そんな事よりも、オレ達にはやるべき事がある。
「ルーイン。被害状況は?」
「シールドは消えました。今船体スキャンをしています…生命維持機能は問題ありません。各機能も…稼働中。レッドアラート(危険信号)はありません。ですが、装甲にも損傷があります」
「だよね」
敵の集中攻撃を受けたのだ。無傷であろうはずもない。
もともと一発屋である「シェイク号」のシールド機能はそう高くない。元々敵の攻撃に耐えるのではなく、射程と速度で振り切る設計機体だ。
それなのに敵に突っ込んで集中攻撃にさらされたのである。
こういう結果になるのは分かり切っていた。
「ヘックス。リッカ達と合流してくれ」
「わかった」
「報酬はちゃんと色を付けてくれって言っておけよ」
「言うだけはな。聞いてくれるかは知らんぞ」
単機突入していたので合流するように指示を出しつつ、せめてもの利益を求めてプラスアルファを頼む。
無情なヘックスの言葉に返事はしないで、ノーマルスーツの通信機を入れる。
「ウィル。エネルギー回復中に、装甲の修理をするから準備してくれ。ビアンカは補修素材の確認と船内からのオペレーションだ」
【はい】
【は~い】
もちろん、ウィル一人に装甲の修理をさせるわけではない。ヘックスとルーインは船の操縦の仕事がある。ビアンカも船内から修理状況の確認だ。
つまり、シェイク号の5人いる搭乗員の中で、一人だけこの後に特に仕事もなく、また工作作業の資格を持つメンバーがいる。
当たり前だが、命を懸けるような戦場でなければ、誰だって無茶な戦い方はしない。
一緒に戦った海賊船だってシールドにこそダメージを受けているが、船体にまで被害が出るような戦い方はしていない。
つまり、一番被害を出したのはオレの船という事になる。
「一人負けかぁ…」
ノーマルスーツの機密メットを出しながら、わかっていた事に再度愚痴った。
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