第41話 向こうへ行ってはくれないか

「なんだよおっさん」


裏通りの若者を諫めた所、その矛先がこっちを向いた。

ちらっと見るが、服装が過激ではあるものの、これ見よがしに武器を下げてはいない。


ここはOSSじゃなくて、低いとはいえ曲がりなりにも法の統制下であるLSSだ。

オレは鞘に入った剣を腰から下げているが、これが他人から武器だと見られることはあまりない。


「その辺でいいだろ。向こう行って、もっと楽しいことして来いよ」


にこやかに話しかける。

が、向こうは気に食わなかったようだ。


「なんだと!こらぁ!」

「何ニヤケてんだよ!おっさん」


こちらを口汚く罵る若者。

素直に向こうへ行ってはくれないか。


左手で、そっと腰の剣を鞘ごとはずす。さすがに刃を抜くのはまずい。


「おう。おっさん。ならおっさんが楽しませてくれるのか?」


三人組でもひときわ背の高い若者が、近づくと見降ろすように低い声で言う。


「無茶言うなよ。そんな事できるわけないだろ」

「…」

「…」


ドスン!

「ぐあ!」


不意打ち気味にオレを蹴り飛ばそうとした若者が、そのままひっくり返る。

まあ、理由は簡単で、バレバレな不意打ちだったので、片足が上がったところで、残った軸足を鞘ごとの剣で払っただけだ。


「てめぇ!」


グイッ


「ぐああ!」


仲間がやられたことで騒ぎ出す若者だが、倒れた仲間の胸に鞘の先を置いて体重をかける。鞘なので刃こそないが、先端は細くなって補強されている。防御力のない服では痛いだろう。


仲間の悲鳴で、若者たちの動きが止まる。


「「「…」」」


しばらく無言でにらみ合うと、オレが鞘の先を若者から離れて一歩下がる。


「な、向こうへ行って楽しんできなよ。面倒な事なんてしないほうがいいだろ」


鞘がなくなったことで、倒れていた若者が起き上がる。

仲間の二人は、起き上がる若者のほうへこちらを警戒しながら移動する。

もう何もしないよ。


そういうつもりで笑顔を見せたが、立ち上がった若者が予想外の行動に出た。

お尻のポケットに手を伸ばし、そこに隠していたブラスター銃を取り出したのだ。


とはいえ脅威にはならない。まず、そこまで早い抜き打ちではないし、そもそもそこはオレの剣が届く。


ガッガチン!

「ゲフッ…」


鞘が付いたままの剣をふるって、こちらに向ける前に若者の腕から銃を叩き落す。


苦痛に腕を抑える若者の顔面に、踏み込むと剣の鍔を叩き込む。

口から血を吐いて倒れる若者。もしかしたら歯の一本でも折れたかもしれない。


「あ~あ。楽しむ時間すらなくしたな。そら、そいつ連れて失せろ」


驚いている仲間の二人に向かってを顎でしゃくると。

二人は慌てて若者を連れて、裏通りの向こうへと行ってしまう。


とりあえず、落ちたブラスター銃を回収。安物だけど、OSSで売れば一杯の酒代くらいにはなるだろう。

銃のエネルギーパックを抜いて、お尻のポケットへ。オレがこいつを抜くことも使うこともないからな。

剣を再び腰から下げたところで、後ろから少し甲高い声がした。


「オー。トモダチ。ワタシとても助かったアルネ」


ん?

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