第52話 昔取った杵柄ってやつだよ

固定座席も固定ベルトない中で、自分の四肢だけでしがみついていたのだが、さすがに人の力では宇宙船同士の接触の衝撃に耐える事はできなかった。


ブリッジの床に投げ出される。本日二回目だ。


ここまでお互いが近づくと、こちらの武器で相手の船を狙う事はできなくなるが、同時に相手のミサイルもシェイク号をロックオンできなくなる。自機に被害が出るような行動を機械は取る事はできないのだ。


「ジーザス…」


悪態をつきながら立ち上がる。


見れば、操縦席のヘックスや、サブ座席のルーインは無事だ。固定された座席の信頼性を実感する。次はちゃんと固定された座席を増やそう。ちゃんとベルトのついたヤツをだ。


そんな現実逃避をしていると、ヘックスが座席から立ち上がり、愛用の万能銃を取り出して弾倉を確認すると、バトルスーツのヘルメットをかぶり準備を整える。


そもそもの目的が、相手の商船にさらわれた仲間の回収である。相手が捕まっている以上、相手の船に乗り込む必要がある。

幸運(そういう事にする)にも、シェイク号の強制タッチダウンのおかげで、双方の船に被害が出ており、装甲の薄い相手の船には穴が開いている。乗り込む事は可能だ。


ただし、


「ルーイン。何かあれば通信する。船は任せるぞ」

「はい」


ブリッジから出る前にヘックスが振り返って指示を出す。


つまり、ルーインちゃんはお留守番だ。

なにせ、彼女はメイド服しか着ていない。


シェイク号の外に出て、敵の船に乗り込むには宇宙空間を移動する必要がある。ノーマルスーツがなければ無理な話だ。


さて、お仕事お仕事。

え?依頼じゃない?

覚えておくといい。どんなことにも役得というのがあるのだ。


自分もノーマルスーツの気密を確認しながらヘックスの後に続いて、ブリッジを出る。




さて、宇宙海賊は、相手の船に乗りこんで略奪することを目的としている。

つまり、乗り込んだ先で奪う荷物の保管場所を見つける事が重要だ。


「こっちでいいんだな」

「昔取った杵柄ってやつだよ」


そして、それには若かりし頃に宇宙海賊だったオレのキャリアがものをいう。

過去の経験が有効活用されている事を喜ぶべきか迷うところだが、人身売買という違法行為からの救出なので、悪い事ではないから良しとしよう。


何が言いたいかといえば、かつて宇宙海賊時代に数々の宇宙船を襲撃した経験から、船の構造の大まかな目星が付くのである。


当たり前だが、荷物の搬入方法は基本的に決まっている。船によって積み込み方法が違うと、積み込む側の設備も変えなければならなくなり煩雑になるからだ。

船のコクピットやブリッジが船首にあるのと同じ理由だ。


その方が便利だからというのが大前提。たまに、それを逆手に取った船とかもあるが、基本的にそんな奇抜な船について考慮する必要はない。

特に商船に至っては、奇抜な船は逆に目立つ事になる。


そんなわけで、一緒にいるヘックスを先導するように貨物室へ向かう。


「ブリッジじゃないのか」

「向こうはどうせ防衛を固めている。目標の達成が第一だ」

「俺としては、今回の件を確認したいんだがな」

「回収が終わってからでもいいだろ」


ヘックスの不満を封殺し、この辺りだろうと適当にアタリを付けて扉を開ける。


「当た~り~」


扉の向こうは貨物室。無数のコンテナが並んでいる。


「んじゃ、手分けして探しましょうか」


昔を思い出すね。




「…ない」


貨物室に積まれているコンテナを調べてみたが、目的のコンテナが見つからない。

というか、ここにあるのは大型のコンテナばかりで、ルーインが保管されていたような人一人が入れるような小型のコンテナ自体が存在しない。


「あのうさん臭い商人が間違えたか?」

「…」


その可能性はゼロではない。


だが、ハーンは胡散臭いとはいえ信用商売の商人だ。商売敵の邪魔をするために協力してくれている。それが嘘であればそこまでだが、わざわざオレ達をハメる理由もない。商人である以上、無意味に敵を作る事は避けるはずだ。


もし、情報が正しいとすれば…


「ルーインちゃん。聞こえる?」

【はい。なんでしょう】

「スキャナでオレ達のいる貨物室周辺に絞って、スキャンしてくれ」

【はい。ちょっと待ってください】


強制接舷しているシェイク号に残っているルーインに、指示を出す。


スキャンは船の持つ基本機能の一つで、周囲の探索を行う機能だ。主にステーションの税関や、治安維持組織の調査などで使われる。


もちろん、スキャナの性能にもよるのだが、宇宙船自身も自船の状況確認や、貨物室に積まれた荷物の確認といった形で使用する。


シェイク号に搭載されているスキャナの性能は、とてもじゃないが信頼できる性能ではないものの、現在敵商船と強制ドッキングしている状態だ。

距離と精度が比例するスキャンの性能からすれば、最大精度に近い能力を発揮するはずである。


【…特に、おかしなものは見つかりません】

「はい。ダウト」

【え?】

「ああ、ちょっとまってね」


そう言って、移動して貨物室のハッチの反対側の壁に手を付ける。


密輸商船だって馬鹿じゃない。こっそりと運んでいる違法商品をすぐに見つるような場所に保管しない。普通のスキャンで見つかるのは普通のコンテナだけになるようにする。


「ルーインちゃん。さらに精度を絞ってここら辺をスキャンしてみて。ノイズがあるところを探してちょうだい」

【はい…出ました。そこの右端の壁の向こうに若干のノイズがあります】

「はい。当たり」


隠すべき物は隠すべき場所に隠すものだ。


そこらへんは本当に経験だ。貨物室への搬入が一般的である以上、違法品を搬入するのも同じ搬入口からの入れる方が怪しまれない。変な場所に搬入口のある船の方が怪しまれる。


であるなら、一般的な貨物室から荷物を運べるところに隠し保管庫を作るはずだ。

そして、そう言った場所は、通常のスキャナに検知されないように細工がされている。

逆に言えば、細工がされている場所が怪しいという事だ。


キン


指示された場所に剣をふるう。

いつもの隔壁斬りだが、今回は大きく切り裂く。


ガコン!


大きな音を立てて隔壁が倒れる。

その先には、30m四方の小さな部屋があり、そこには小型のコンテナが並んでいた。


「開けゴマってな」


予想が的中して笑みがこぼれる。

伊達に無法地帯を飛び回る船を襲っていない。こういう時は、経験キャリアがものをいうのだ。



しかし、自慢げにヘックスを見るオレの耳に、つなげたままのシェイク号からの通信が入る。


【大変です。ワープアウトする複数の船があります。到着まであと12分】

「…おう。ジーザス」


同じ通信を聞いたヘックスの足が速くなる。

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