第51話 それは壊してもいいって意味じゃねぇよ!!

広大な宇宙で、別の船を狙って接触する事は可能だろうか。

相手の船が止まっているなら可能だ。普通にステーションにだって船は接舷する。


だが、お互いの船が同期するでもなく自由に移動していたら、普通に考えるなら不可能だ。


何せ、宇宙船は高速で移動している。足の遅い輸送船でも1秒間に数km。高速船など秒間に二十~三十キロ移動する事もある。

そんな船に接触するという事は、飛んでいるライフル弾を狙撃するようなものだ。

讃美歌13番の人かな?当然だが、そんな事は人間の反射神経の限界を超えている。


しかし、宇宙において相手の船に乗りこむ事はありうることだった。


宇宙船の中には突撃艇コルベットとよばれる分類の船もあり、敵艦に乗り込み白兵戦を仕掛ける事もある。

宇宙海賊だって、相手の船に乗り込んで略奪行為を行うのだ。


しかし、それは別に不可能を可能にする人間が量産されているわけではない。

一定の条件さえ整えば、相手の船に接舷することは不可能ではないのだ。


その条件とは相対速度だ。

例えば、お互いが時速100kmで正面から突っ込めば、相手の速度100kmと自分の速度100kmで、体感的には相手が自分に時速200kmでぶつかってきた事になる。


これを逆に考えればいい。


相対するのではなく同じ方向へ移動した場合、100kmと100kmは同じ速度であるため、相手が止まって見える。電車から並走する車を見ると遅く見えるのと同じ理論だ。


相手が100kmでこちらが105kmの場合、その差が時速5kmで近づく事になる。これなら、人間の感覚でも調整する事が可能である。



つまり、その条件とは

① 同じ進行方向に並走する事(横からでも可能だが当然難易度は上がる)。

② こちらの方が速度が速い事(追いつく必要があるからね)。

③ 相手の後方に位置を取れる事。(相対的な速度の問題)


そして④相手をきちんと補足する事。


「トラクタービーム!」


ヘックスの言葉と共に、トラクタービームが相手の船に命中する。


前にも説明したが、トラクタービームには物体を引き寄せる光線だ。船の大小に関係なく、多くの船に搭載されている。宇宙空間での物資の回収や、ドッキングの際の補助など使い道は多い。

当然、シェイク号にも搭載されている。


宇宙海賊時代に何度もやった手だ。

ついでに言えば、この前の戦争に巻き込まれた際も、オレ自身が似たようなことをしている。


ただし、アレは相手の船より小さく速度も速い艦載機での話。

しかも、目的となった巡洋艦が艦隊戦に集中しているからできた不意打ちであって、普通は複数の艦で役割分担をしながら相手の船に取りつく手法だ。


いくら足の遅い商業船より機動力のある戦闘艇であっても、フリゲート船同士でドンパチをしながら接舷するという、衝突事故と変わらないような曲芸飛行ではない。


「オレの船で無茶をするなぁ!」


さすがに文句が出る。


当たり前だが、宇宙船で強制タッチダウンをすれば、相手の船もだが、自分の船も被害が出る。物理的な接触だ。シールド機能は意味をなさないし、その場合の被害はミサイルの衝撃とは比べ物にならない。


「ムサシ」


そんなオレの言葉に、ヘックスが船を操作しながら、少し楽しそうな声で言葉を続ける。


「修理費は、俺持ちだよな」

「おう。ジーザス」


それは壊してもいいって意味じゃねぇよ!!


その思いを口に出すよりも早く、新生シェイク号を強い衝撃が襲った。

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