第50話 ピンボールを実体験したいとは思わないだろう

「シールド残量72%。機体損傷ありません」


サブコンソールを見ながらルーインが報告する。

臨時座席の破損と、投げ出された人間は損傷に被害に加算しないらしい。まあ、普通は加算しないか。


「攻撃プロトコル停止。シールド回復に回す」

「ミサイルアラート検知」


戦闘用のシェイク号のシールドは、フリゲート船との戦闘を想定したものだ。数発の小型ミサイルで消えるようなチャチなものではない。


とはいえ、対艦載機用のフライ級とは違い、民間の対フリゲート船用のフェザー級のミサイルである。何度も説明したようにミサイルを避ける手段は存在しない以上、有効射程距離外に逃げなければ、耐え続けるしか対応方法はない。


そして、耐えているだけではいつかシールドか機体に限界が来る。


「ブースターリミッターカット」


ヘックスの操作と共に、シェイク号のブリッジにかかる負荷が増える。

この船は不法製造船であるために、法律で定められている安全基準はガバガバだ。故障や事故の原因になる急加速や過剰稼働オーバーロードを抑止するリミッターを、スイッチ一つで簡単に外すことができる。


「おう。ジーザス」


そして、もう一度オレの状況を説明させてくれ。


ヘックスやルーインは、固定された座席にベルトで体を固定している。だが、オレは仮説設置の座席から座席ごと放り出されて、船の中に放り出された状況だ。


そんな中で、高機動急加速の操作がされたのだ。


壊れて投げ出された座席につかまったところで、体を安定させる事はできない。

しかたないので、近くにあるコンソールの台座にしがみつく。両手で抱擁するように抱き着きつつ、それでも足りないので尻を床に着け、両足を台座に回し太ももで挟む。


人力固定だ。極めて情けない姿なのは認識しているが、背に腹は代えられない。誰だって、自分の船の中でピンボールを実体験したいとは思わないだろう。


「ミサイル確認。着弾カウント開始6、5、4…」


ルーインの声に、ヘックスが操縦桿を切ったのか、ブリッジから見える風景が流れる。そしてそのまま一方向へのGがきつくなる。

台座をはさんだ太ももと、台座をつかんだ両掌の握力に力を入れる。


さっき説明したが、普通の船にはミサイルに対抗する手段はない。有効射程距離の中では撃たれたら必中だ。


だが、だからと言って無抵抗に撃たれるわけではいない。


「シールドを後部に集中!」

「はい!」


ヘックスの指示にルーインが答えてコンソールを操作する。


加速して移動する事で、ミサイルの軌道を収束する事が出来る。追尾するミサイルに対して一方向に移動すれば、それを追うミサイルの軌道はおのずと限定されるのだ。

軍艦などはそれを利用してミサイルを集め、迎撃装置で撃ち落としたりするが、あいにくシェイク号にそんな気の利いた機能はない。


しかし、どんな船にもついているシールド機能を集中する事で、被害を限定化させることはできる。


ミサイルは確かに軌道を修正して攻撃する必中兵器ではあるが、移動する船の特定の場所を狙って攻撃が出来るような兵器ではないのだ。

戦い方次第で、その軌道方向を限定させ、ダメージをコントロールすることは可能だ。


ドンドンドン!


まあ、コントロールしても避けられるわけではないので命中はするんだけどね。

衝撃と共にブリッジの中が揺れる。頑張って体を固定させるが、上下に揺れる体を抑える事が出来なくて、床に何度も尻がぶつかる。


「あだったたっ…」


連続尻への打撃攻撃に悶絶しつつも、戦闘は続いていく。

痛みに耐えつつモニターを見れば、ヘックスが操縦桿を操作して、相手商船に近づいているところだ。


「おう。ジーザス」


ヘックスの目的に気が付いて、言葉が漏れる。


確かに、その方法は可能だ。オレだって似たようなことをした経験はいくらでもある。つい先日もそれをしたばかりだ。


つまり、宇宙船で接舷して相手の船に乗り込むという事だ。

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