第49話 特に理由はないけど主張します
人身売買をする違法商船を追いかけて、追いつくことができた。
後は捕まえるだけだ。
「いくぞ!」
「後を追えるように探知機を準備するぞ」
近くのコンソールに手を伸ばす。
当たり前だが、商業用の船は自衛こそできるが戦闘用ではない。襲撃を受ければ当然逃げる事が第一となる。
相手の船が、ワープに入ったからはいそれまでよ。とはならない。探知機を設置しておけば、ワープ経路を割り出して追いかける事は可能だ。
といっても、追跡する側からすれば危険な行動でもある。
何せ、相手を攻撃している以上、ただ逃げるだけの相手に比べればエネルギー消費は襲撃側の方が大きい。
さらに、ただ逃げるだけなら追いかければいいが、逃げる側は、安全な場所へ、つまり助けを得られる場所へ逃げようとする。
治安維持部隊のいる場所に向けてだ。救援要請を出して逃げた先で合流したら、獲物を追っていたつもり狩人は、次は獲物の役に強制転職だ。しかもワープアウト直後という絶体絶命な状況である。
なので、基本的にはワープで逃げられたら、襲撃側はわざわざ追いかけはしない。
だが、今回のように、目的がある場合は例外となる。
逃げる先を見つけるための探知機を設置し、出来る限り迅速に相手を追う必要がある。
が、その必要はなかった。
「大丈夫です。もう出しています」
ヘックスが先制攻撃をしようと加速するので、仕事しようとしたらルーインちゃんがしていました。
…気が利くね。
見ればエネルギー回復で停泊していた他の船達も、こちらに気が付いて加速し始める。
別に護衛機というわけではなく、他の二隻はバラバラの方向に逃げていく。
追いかける側からすると、次の獲物を追う際に距離があれば追いつくのに時間がかかる。時間をかければ相手がワープで逃げる時間になる。
生き残るためという意味では、彼らの行動は大正解と言っていい。
まあ、オレ達の目的の船は一つだけだ。邪魔をするなら対応するが、逃げるだけなら追いはしない。
「スピアのエネルギーを50%まで落とす」
シェイク号の武装であるビーム砲「スピア」は駆逐艦の主砲にもなる武器だ。通常の船相手だと威力が高すぎる。当たり前だが、相手の船を荷物ごと爆発してしまったら本末転倒だ。
オレの言葉に驚いたようにこちらを見るルーイン。
まあ、普通はフリゲート船に駆逐艦の主砲を積んでいるとは思わないよな。さすがに、知らないことに関して対応できるような超能力はないらしい。
あっても困るか。
「攻撃プロトコル起動」
「シールドチェックはいります」
とはいえ、ルーインの船員としての能力は十分以上にあるようだ。ヘックスが攻撃準備に入ったことで、即座に戦闘の為のサポートを開始する。
ちなみに、私は
シェイク号からビームが放たれる。襲撃のファーストアタックは、相手の船がまだ完全に動いていないこともあり見事に命中する。
50%まで減らした威力でも、その威力は健在でシールドを一気に削ったようだ。
「お、向こうの船も、いいシールドつけているな」
普通の商船ならシールドをぶち抜いて船体にもダメージが入っただろう。まあ、後ろ暗い事をしている自覚があるのか、ある程度の備えはしているようだ。
とはいえ、商船と戦闘艇の戦闘能力は段違いだ。と、鼻歌交じりで対応できると楽観視していたのだが、それは次の瞬間吹っ飛んだ。
「おう。ジーザス」
オレが忘れていた事は、相手の“備え“が守る事だけではなかったという事だ。
シェイク号のモニターに無数の攻撃シグナルが表示される。
「フェザー級ミサイル確認。来ます!」
そう。敵の商船は攻撃用のミサイルを装備していたのである。
慌てて口を開く。
「着弾カウント!」
前にも説明したが、ミサイルは目標をロックオンして追尾する兵器である。当たり前だが、高速で打ち出され軌道修正するミサイルを回避するのは基本的に不可能だ。高速艦艇や艦載機のような機動力か、EMCのような対ミサイル装備が必要となる。
つまりは、普通のフリゲート船にはミサイルを回避する能力はない。有効射程内であれば、撃てば当たる必中の武器だ。
一般的な非戦闘船の自衛武装は二種類に分かれる。実弾タレットとミサイルだ。
ビーム兵器を装備する事は基本的にはない。非戦闘船は戦闘になれば逃げる事を第一とするからだ。逃げるためにエネルギーの回復を必要としているのに、攻撃にエネルギーを使っては本末転倒だ。
実弾機銃やミサイルはビーム兵器とは違いエネルギーの消費がほとんどない。その為に牽制や時間稼ぎに有効な武装なのだ。
最も、ミサイルや弾に金がかかるので、兵器のメンテの他に、使った分を補充する必要が出る。
特にミサイルは、量産品とはいえ一発毎に結構な額を必要とする。
さらに、ミサイルを正規購入するには、専用の資格も必要だ。
なので、手間のかかる武装でもある。
ミサイルには分類があり、フライ級。フェザー級。ライト級。ミドル級。ヘビー級に分かれており、ライト級から上が軍事用に分類される。
当然、軍事用は一般宇宙船には販売されない(軍務実績と特殊な資格を必要とする)。
普通の商用船なら最も小さいフライ級が一般的なのに、この船は準軍用ともいえるフェザー級ミサイルを装備していたのである。
一般商船が使うには、お値段もフライ級とは格段に違う。
なお、これらについて抜け穴がないわけではない。例えば、オレが出所後に就職したデブリ回収業社のように、ミサイルを廉価で取り扱う業者というのは少なくない(盗品での取り引きも含む)。
また、LSSのようなセキュリティレベルの低い場所だと、正規の売買で必須となる取得資格の確認などをスルーされるケースも多い。
そして、ミサイルはそこまでして装備させるメリットのある武器でもある。
自動追尾で弾速も早い小型ミサイルは、無人艦載機の自動軌道を捕捉する事が出来る。有人艦載機でも、ミサイルの自動追尾を振り切るための操作が必要になる。
シールド機能の低い艦載機には、小型であってもミサイルの威力は驚異なのだ。
有事に備えるという意味で言えば、ミサイルの値段は決して高いものではない。
なにせ、命より高いものはないからな。
「2,1。来ます」
「対ショック姿勢!」
オレの指示で、ブリッジでミサイル着弾時間をチェックしていたルーインが声を上げる。
着弾タイミングと同時に、座席に抱き着くように体を固定させる。
ドンドンドン!
ミサイルは必中の武器ではあるが、必殺の武器ではない。
船の持つシールド機能からすれば、ミサイルの攻撃が物理攻撃であるという特性は変わらないのだ。しかし、それでもミサイルを撃つ理由は存在していた。
激しく揺れるブリッジ。
バキッ。
「ぐへッ」
何かが折れる音。そして投げ出されるオレ。
そういえば、オレが座っている座席は、臨時で取り付けた座席で、ちゃんと固定されたものではなかった。
当然、耐久性はお察しだ。
ミサイルの攻撃はシールドで防げたとしても、ミサイルの爆発による衝撃はシールドを無視して船体ダメージを与える。宇宙船は精密機械の塊だ。ほんの小さなずれで、航行に支障をきたす事もある。
シールドや武器へのエネルギー経路に支障がでれば、戦闘で致命的だ。
もっとも、危険な宇宙を飛び回る宇宙船にはそれらの衝撃を吸収する機能もある。修理するまで振動していた旧シェイク号が、それでもちゃんと動いていたのはそれが理由だ。
そういう意味では、今乗っているこの船の対衝撃機能は信頼の実績があると言えるだろう。
対衝撃機能を実体験できたことに感謝する気はカケラもないけどな。
まあ、その機能だって、振動を確実にゼロにするわけでもないし、被害がまったく出ないわけではない。
「おう。ジーザス」
顎をさすりながら起き上がる。
現在の被害。1名(軽傷)
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