展開が急に変わるなんて聞いてない
第90話 厳密に合法的な品であるかどうかは目をそらそう
軍用フリゲート級シャトル。
宙空兼用の宇宙船だ。空を飛ぶこともできるが、さすがに宇宙航行時ほどの速度は出ない。とはいえ、航空力学に即して設計された機体は、一般の宇宙船よりも効率的に惑星大気圏内を移動する事が出来る。
あの後、最後の抵抗を叩き潰した反乱軍は、無事に軍事基地を制圧。コントロールルームを抑えた事で、それまで敵だった基地管理のドローンも回収でき、戦力の強化を図れたらしい。
反乱軍の司令官は嘘は言わなかった。
占領したての基地であったが、オレとの取引を優遇してくれた。制圧すると早々に、部下に命じて基地にあった宙空兼用のシャトルを用意してくれた。
感謝の気持ちだと、反乱軍用の船籍識別コード迄くれた当たり、悪い人間ではないのだろう。
…これまでの経緯を考えると、良い人間でもないかもしれない。
良くも悪くも体育会系の声の大きいデリカシーが皆無なオッサンという事か。娘がいたら嫌われているな(独断と偏見)
まあ、どさくさ紛れに盗んでいく予定だった惑星用シャトルが、譲渡された高性能軍用シャトルになったのだ。状況は好転しているといえるだろう。
盗むのには危険が伴うし、その後も面倒ごとが続くことになる。それを回避できたは幸運だ。
盗品ではないが、厳密に合法的な品であるかどうかは目をそらそう。
「『チャプター号』聞こえるか?」
【はい、ムサシさん】
小型の移動用シャトルなので、チャプター号よりも狭い。コクピットに2人乗るスペースしかないし。船体に小さな部屋が2つあるだけだ。
シャトルの操縦はヘックスに任せて、宇宙で待機しているチャプター号に連絡を取る。
「この船の船籍コードを登録してくれ。仕事が終わったら格納庫に収納する」
【了解しました。船籍情報をリンクします】
通信の向こうでルーインが操作してシャトルの情報共有をする。これでお互いの情報を共有して、すぐに合流や連絡ができるようになった。
軍用シャトルである。飛行もそうだが、他の宇宙船にも搭載が可能だ。当然、商用輸送船「チャプター号」の大型コンテナの入る貨物室にも格納は可能だろう。
そのまま売り飛ばせばいくらになる事やら。
笑みが漏れる。
「低空飛行を続けるぞ」
「識別信号のダウンロード…完了。切替は手動になるぞ」
高価な宝箱をもらったものの、ここはまだ危険な紛争中の惑星だ。
そして、オレ達は文字通りどちらにも属さない第三者だ。当然、正規の入国なんてものもしていないので、どっちの勢力からも攻撃される可能性がある。
とはいえ、そこへの備えはある。
奪ったシャトルは元々惑星政府の兵器だ。当然、その認識コードは政府軍のものである。政府軍からすれば軍属のシャトルが飛んでいるとしか認識されない。
逆に言えば反政府軍からすれば敵の宇宙船だ。
当然、ふらふら飛んでいたら攻撃対象である。
もっとも、そこにも保険はかかっていた。反政府組織から正式譲渡の際に、反政府軍の認識コードを受け取っているのだ。
つまり、これを船に入れる事で反政府軍に襲われてもコードを切り替えれば反政府軍と認識されるのだ。事情はその後改めて説明すればいいだろう。
第三者ではあるが、反政府組織に協力した第三者なのだ。きっとわかってくれる。
まあ、反政府組織に襲われてコードを変えて移動した先で、政府軍に見つかったら問答無用で攻撃されるのだが、そこはそれだ。
そこまで運が悪くないことを祈ろう。
とはいえ、危険もリスクも可能なら避けるべきだ。
つまり、移動で高高度を取って周りに見つかるような真似を避けるために、超低空での飛行を心掛けているのである。
ガツン!グラグラ…
船底を何かがこすり、その衝撃で船体が揺れる。
「ヘーックス!」
「初めて乗る船の、それも大気圏内航行なんだよ」
「この船は金になるんだぜ。大事に扱ってくれ」
チャプター号がある以上、宇宙を移動する際にこの船の出番はない。
今後も惑星内を移動する予定もない。格納できるといっても貨物室に入れると、他の荷物が入らなくなるので、さっさと貨物室を開けないとチャプター号の積載能力を有効活用できなくなる。
早々に売却するべきだ。
その点において、大気圏内も移動できる多目的軍用船なので、高く売れる。今回の破格のボーナスと言っていい。
つまり、この後に売る商品といえるのだ。大事に扱ってくれ。
「粉微塵にはならないさ。そら、見えて来たぞ」
正面モニターに目標地点であるルーインの居住していたポイントが表示される。
どうやら、運よく誰にも邪魔されずに目的地にたどり着けたようだ。
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