第89閑話 胡散臭い商人の評価
「はふ。ほふほふほふ」
円形のテーブルにのったアツアツの餃子を食べながら、うれしい悲鳴を上げてコップに注いだ酒で熱と口の中の油を流し込む。
「ふ~」
ピロン
口の端からこぼれた酒の雫を手で拭うと、横に置いた端末が着信音を上げた。
「ほいほい…」
手を伸ばして画面をタッチ。
手についた油で画面がにじみ、少し眉をしかめたが、大丈夫。表示内容を見るのに支障はない。
「ほう。仕事完了ネ。いい仕事するアルヨ」
連絡は事務的なものだった。AIによる自動連絡で、設定していた契約が達成したという内容だ。
もともと、儲けは薄い仕事だった。
はっきり言えば、失敗しても良い仕事だ。
刻一刻と変わる戦場への兵器輸送。運ぶ間に、届け先がなくなる可能性だってある。
だからドローンもあえて古いタイプでそろえた。保険もかけて、失敗しても十分な補填があるように対処していた。
その結果、儲けはさらに少なくなったが、元々この契約の利益を当てにしていない。組織の保有する危険な契約を請け負う事での点数稼ぎでしかない。
利益が出れば儲けもの程度の内容だ。
だからこそ、あの男に依頼した。
無法者。アウトロー。ならず者。
LSSの裏通りで偶然出会っただけの相手。つまりあと腐れのない相手だ。
商売相手には向かない。あの男が大金を得て大成する未来が見えない。そういう意味では、多くの無法者やゴロツキ達と同じだ。
たまたま、手元に取引材料があったので、それを餌にしてみたのだが、案の定あっさりと食いついてきた。
多分、騙そうとすれば簡単に騙せるだろう。だが、騙す価値もない相手なので騙すつもりもない。騙す労力や後始末だってタダじゃないのだ。
一点だけ、評価する点があるとすれば、契約を遂行しようという態度だ。
裏社会で、まともに仕事をしようとする人間は稀有だ。見るなと言っても中身を覗く。秘密にしろと言えば周りに話す。荷物を運べと言えば持ち逃げする。
報酬が少ない場合はその確率は飛躍的に上がる。
自分達も、そのリスク込みで依頼するのだが、あの男は馬鹿正直に仕事を達成するのである。
取引相手になれない理由はその辺にある。
「まあ、キライじゃないアルヨ。仕事をしてくれる間はネ」
連絡メールの内容を確認し、餌とした取引材料のロックが解除されたことも確認する。
頼まれて少し調べたが、キナ臭くなって途中でやめた内容の寄せ集めだ。
つまり、厄介ごとである。
3人の子供が捕まっていた理由。その行先の推測。フロンティアワンの一族。LSS中継点と汚職職員。
深く探りを入れてもいない。入れるつもりもない。義理もない。はっきり言えば、あの男に仕事をさせる餌にしかならない内容だ。
厄介ごとでくたばるようなら、そこまでだ。首を突っ込むつもりも義理もない。自分は「普通の交易商人」なのだ。
もし、切り抜けてなお、連絡があるなら、それはそれだ。
「グッドラックあるね。トモダチ」
この厄介ごとを切り抜ける腕か運があるなら、それ相応の使い方もあるだろう。
商売相手にはなりえない。つまりはどこまで行っても「良いトモダチ」という事だ。
端末の操作をやめると、ハーンは食事を再開した。
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