まっとうな世界でも安全というわけではない

第69話 新しい船のオーナーはオレだ!

「ああ、この解放感。これがシャバの空気…」


公共の場で両手を伸ばして大きく伸びをする。



新しく購入した元商用船「チャプター」号は、今まで乗っていたシェイク号よりも快適だった。

気になるほど振動はしないし、個人用船室も四部屋ある。ルーインとビアンカは同室になるが、二人の部屋は一番大きな部屋を割り当てた。

リビングも広く食事中は誰かが席を立たないと通り抜けできないといった事もない。

快適だ。


まあ、前の船より劣る点もある。

速度がシェイク号の最高速度の半分以下。さらに、船体が大きくなっている為、ワープの為のエネルギー回復時間が増加している。

まあ、戦闘用宇宙船と商用宇宙船との差だ。


そんな欠点を補って余りあるのが、LSSでも都市ステーションに入港できる事。

このメリットは無視できない。



というわけで、都市ステーションに入港する。

合法の世界よ!私は帰ってきた!!(ただし入港方法は一部合法ではない)


中継ステーションとは違い、住民の生活する立派な都市だ。生活のための様々な施設が充実しており、お金さえ払えばそれらのサービスを堪能することができる。

これまでLSSで利用していた中継ステーションが、サービスエリアとか道の駅だとすれば、こっちは文字通り主要都市だ。規模が違う。



「では、ここで解散。各自自由行動だ。ちゃんと電子マネーカードは持ったな」


入港ドックからステーション内移動用モノレールのターミナルで各自自由行動となる。


前回の仕事の報酬が宇宙船になってしまったものの現金収入はあった。

シェイク号を売り払ったのである。二隻の宇宙船を動かす事はできないからな。


とはいえ、不法製造船(中古)だ。正規の売買取引というより、手続きとしてはスクラップとして売却した感じだ。本体よりも稼働する主砲「スピア」の方が高かったのは皮肉だが、それでも売る事が出来た。


宇宙船の代金としてはショボいが、個人が手にするという意味では十分な額になった。

それを全員で分けたのである。


「いいか、お前たち三人は一緒に行動しろよ。大きな荷物は配達で頼んでいいからな」


ルーイン、ウィル、ビアンカの三人はまだ子供だ。

前に生活必需品などをそろえさせたが、それはあくまでも最低限の生活用品だ。他に欲しいものがあるなら、各自で購入してもらうしかない。個人スペースもできたことだしな。


「何かあったら連絡しろ。ただし、まずはヘックス。その後にオレだ」


とはいえ、十歳前後の子供を自由にさせたら、どんな目にあるか分かったものではない。主要ステーションではあるものの、ここはLSSだ。間違いや犯罪が起こらないわけではない。いくら大人顔負けスキルを持つ三人ではあるが、子供である事は変わらない。


「ヘックス。遊び惚けてコイツらの連絡を見逃すんじゃないぞ。お前の管轄なんだからな」


今までの場所よりは治安の良いステーションなので、さすがにバトルスーツではなく、普段着のヘックスにとりあえず釘をさす。


三人と同じ開拓民フロンティアワン大人・・であるヘックスが、こいつらの保護者だ。女の子と仲良くするお店が大好きなコイツがこの後どこに行くかなんてわかりきっている。

さすがに子供達を同行させるような事はしないだろうが、だからといって自分の義務ほごせきにんをスルーされては困る。


「はいはい」


そんなオレの指示をどこ吹く風。

ヘックスは手をひらひらと振ると三人を促して一緒にターミナルへ向かう。そのまま専用のリニアでステーションの各目的地に移動するのだ。


そんな四人を見送った後、オレは別の窓口へ。


「要件ハ、ナンデショウ?」


窓口のロボットを前に、ポケットから取り出したメモ帳を見ながら答えていく。


空気エアウォーター。あと、バッテリー補充に予備資材を…」


新しい船のオーナーはオレだ!




そして、星系標準時間で夜。

一軒の居酒屋に席を取り、つまみで一杯。手作りの素朴な味を堪能する。

同じ酒でも缶ビールと瓶ビールでは違う“なにか”がある。そういうのがあると思います。


金が入ったものの、別にそこまで欲しいものがあるわけでもないオレは、個人用の酒や暇つぶし用のホロムービーのデータを購入した程度だ。

正直、武器とか持つ意味もないし。


とはいえ、オレはただサボっているわけではない。

ここにいるのには理由があるのだ。


チビチビと酒を飲んでいると、入り口のドアが開いて一人の男が入ってくる。


向こうもこちらに気が付くと、見覚えのある笑みを浮かべて近寄ってくる。

そして、向かいの席に座って挨拶をした。


「こんにちはネ。トモダチ」

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