第70話 まさにWIN-WINの関係だ

さらわれた開拓民一族を返すために、胡散臭い交易商人のハーンの手を借りることにした。


目的となる場所が、銀河共和国と銀河帝国が戦闘をしている紛争地域だ。

これが情報屋なら情報をもらって仕事は終わりだろうが、相手は交易商人である。当然、商品じょうほうを高値で売る術を心得ている。

当然、オレも「情報をもらいました」「はいさようなら」なんて子供の使いのような事はしていない。


「船は手に入れた」

「ちゃんと必要なスペックはあるアルネ?」

「大型コンテナなら入るスペースがある」

「…それは、トテモいい話アルネ」


オレの言葉に、ハーンの笑みが深くなる。


当たり前だが、戦争中の星域は危険地帯だ。一般市民が気軽に出入りできる場所ではない。

しかし、オレ達はそこに行かなければならない。


そこで、ハーンの交易商人としての手腕を借りる事にした。


「荷物は船に積み込めるようにしておくアルネ」

「報酬がシビアすぎねぇか?」

「…急ぎで要求したのはそっちネ。情報料を引いたらその値段アルヨ」


戦艦同士がドンパチやっている危険な星域に荷物を運びたがる人は少ない。安全な星域と危険な星域。どちらに荷物を運びたいかと聞かれれば、誰だって後者を選ぶだろう。


だからといって、密入国のオレ(帝国国民)や賞金首のヘックス。ましてや、孤児の3人に依頼する業者はいない。


そこで、個人的な付き合いである交易商人のハーンに仲介を依頼したのである。


ハーンは人手の少ない輸送依頼を受注して貸しを作り、さらにオレから仲介料を受け取る。オレは目的の星域に合法的に侵入し、さらに情報料の割引交渉を行う。

まさにWIN-WINの関係だ。


とはいえ、報酬についての値段交渉はその関係の上でのやり取りだ。


「まあ、大型コンテナが持ち込めるならいいネ。ちょっとオマケするアル」


ハーンはがオレのPDAに情報を転送する。


送られてきた情報で、一番近い星系はビアンカの住んでいた星系だ。

銀河帝国との開戦時にステーションの近くで戦闘が発生し、その中でステーションが破壊され住民は行方不明とある。

現在もその星系では戦闘は継続しており、詳しい情報は公開されていない。ハーンが方々から集めた小さな情報が雑多に放り込まれている。


情報はあくまでも断片的。ビアンカ本人の情報はほとんどない。辺境の小型ステーションの子供の情報などそもそも多くない。もっとも、別にオレの目的は、誘拐犯を捕まえる事ではなく、攫われた子供を返すだけだ。


とはいえ、疑問がないわけではない。


オレがデータを見ている間に、ハーンも自分の頼んだ料理を食べ始める。

なので、軽い感じに聞いてみる。


「なあ、商人としての見地で開拓民の一族って、商品の価値があるのか?」

「商人としての見解ではないアルネ。確かに特殊な経験はあるけど、開拓にかかわる技術はマイナーヨ。どうしても必要なら開拓一族を呼んでアウトソーシングすればいいアル」

「だよな。開拓したいなら誘拐なんてする必要なんてないよな。それもわざわざ子供をだ。技術や知識が必要なら、経験豊富な大人のほうがいい」

「…つまり」

「…つまり」


オレの言葉に、ハーンは皿に伸ばした手を止め、意味ありげに深く笑みを浮かべる。


「「裏がある(ネ)」」


顔を見合わせにやりと笑う。

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