第68話 後ろ暗い事は分かっています

大仕事を終えた報酬で、宇宙船を入手する事になった。


女海賊ナディアの息のかかったディーラーから連絡があり、船のカタログが送られてくる。値段こそ記載されているが、ナディア側で支払ってくれるので、オレが気にする必要はない。


とはいえ、当然駆逐艦クラスの船などあるわけもなくすべてフリゲート船だ。

現在の搭乗員数を考えれば、駆逐艦を購入してもコッチが困るけどな。


仕事を大戦果で終えた事で、報酬は莫大だ。


前に似たような事でライセンス付きの正規船を入手したが、それ以上の船がリストに並んでいる。

とはいえ、あのころと比べてオレの事情もいろいろ変わっていた。


昔のオレは、一人で気軽に銀河帝国に帰ればいいだけの話だった。

最低限の自衛能力を持つ個人用小型フリゲート船という、最低限の船でよかった。


だが、盗んだバイクで走り出していいのは十五の夜までだ。

現在は四人の船員を抱えている。さらに、そのうち三人は子供で親元に返す必要がある。このまま適当な港で放り出して逃げ出したら恨みを買う事になるだろう。


つい先日の仕事で、恨みを買うとどんな目に合うか分からせられたので、そんな危険なことを試すつもりもない。

ついでに、搭乗員のヘックスは賞金首だが、賞金稼ぎの能力も持っていることは実証済みだ。後ろを気にしないといけないカタギの生活は嫌すぎる。


さらに、前回の大仕事の報酬で船を手に入れるのだが、仕事をしたのはオレ一人ではない。一緒に行動したヘックスはもちろん、他の三人もちゃんと仕事をしている。

つまり、報酬に関しては四人の意向も考慮しなければならないのだ。


こうして、個人用小型フリゲートは選択肢から外れる。

そして、船が大きくなればなるほど、お値段も増えていくのである。


候補を絞って他の奴らとも相談するか。




「これが、フリゲート級『チャプター』です」


ステーションから少し離れた場所に設置された個人宇宙船ドックに案内される。

ステーションに船を係留すれば係留料金が発生するために、宇宙船の売買はステーションの外でやるのが普通だ。

目の前にあるのは、「シェイク号」よりも2回り大きなフリゲート船だ。全身銀色の円盤を縦にした形状をしている。


「左右に機銃を一門ずつ搭載。艦載機格納ドックには小型無人機を五機収納できます。ですが、今の管理システムではコントロールできるのは三機までです。管理システムを変える事も可能ですが、別料金になりますよ。シールドは小型シールド装置を三機搭載しているので、今までの船の倍以上はあります」


みれば円盤の中心の表と裏に二連装機銃が各一門づつ付いる。縦方向で航行するので、死角はあるものの左右で360度に攻撃が可能だ。


「戦闘可能との要望なので、備え付けの機銃は稼働確認済みです。無人艦載機はパッケージ品を積み込んであります。システムとの同期はそちらでどうぞ。あと、貨物室もちゃんと使えます。大型コンテナを格納できますよ」

「…格納って、大型一個がギリギリじゃないか」

「仕方ないでしょう。商用船「チャプター」に武装を乗せているんですから。大型一個分のスペースを確保できているだけ御の字ですよ」


カタログに記載されている貨物室の容量を見るが数字が大型コンテナの大きさぎりぎりだ。

艦載機格納庫を取り付けるために貨物室をギリギリまで小さくしたのだろう。当然だが、この行為は立派な違法行為で、違法改造屋の手によるものだ。


大型コンテナは商用取引で使用する貨物で、大衆消耗品のような大量の商品を運ぶのにつかわれる。そういう意味では、ギリギリ商用船という事なる。

小型シールド装置3基搭載とあるが、元の船は二基搭載しているので、一基追加で搭載させたものらしい。


「ライセンスはあるんだよな」

「ええ、ありますよ。半分だけですが」

「…」


オレの問いに、ディーラーは苦笑いしながら頭をかいて答える。


前にも言ったが、船は正規に製造すると、製造元より品質保証のライセンスが発行される。当然、宇宙交通法のある星系を飛ぶには、このライセンスが必須になる。


基本的にステーションに入港する時や、セキュリティの高いゲートを通過するときには船のライセンス確認が行われる。

つまり、ライセンスを所有していない船は、そういった施設を利用することはできないのだ。シェイク号が危険な無法地帯でしか活動できなかったのは、こういった理由があったからだ。


しかし、このライセンス制度には抜け穴がある。

提示するライセンスと船が一致しなくても、一見しただけでは分からないという点だ。


同タイプの船であればライセンスと船体の違いを見つけるには、個々に調べる必要がある。

そして、調査には時間と費用が必要であり、その手間は対象の数に比例して増加する。

入港管理に金をかけているセキュリティの高い星系ならともかく、金もなければ治安もよくない星系では、問題さえ起こさなければ「ライセンスがあるな。ヨシ!」という対応になるわけだ。


この船「チャプター」もそうだ。商船「チャプター」としてのライセンスは持っているが、それは別の船のライセンスだ。違法コードで改竄して、自分の船のコードとして発行こそするが、きちんと船体を調べると違うとバレる。また、艦載機ドックと無人艦載機コントロールシステムの許可は含まれていない。こっちも、内部を調べられたら一発アウトだ。


今までの船がナンバーナシの自作車。今回の別のナンバーを付けた改造車。普通は正規のナンバーを付けた普通自動車という所だ。


外から見て分かる違法ビーム砲とかミサイルランチャーではなく、貨物室を改造して取り付けられた艦載機ドックである点に、この船の経歴がうかがえるというものだ。

まあ、後ろ暗い事は分かっていますが、条件が条件だからな。




まともな船も一応リストアップされている中で、ライセンスとは別に、戦闘能力の有無を重視するのには理由があった。


開拓民フロンティアワンの子供である三人を返す為に、彼らのいた星系を調べたのだ。

分かったことは、現在その星系が銀河共和国と銀河帝国がドンパチしている前線領域だという事だ。


「ジーザス…」


選択肢が限定される以上、条件に合った船を選ぶしかないのだ。

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