第15話 文句を言えないよ…

ワープ移動は瞬間移動ではなく超高速移動である。

何が言いたいかというと、時間の話である。


つまりは、ワープ開始してから終わるまでに一定時間がかかる。

詳しい事情を聴くには十分な時間だ。



「で、とっつぁん。想定していたと言ったな」


とりあえず、手持ちぶさたとなったので、とっつぁんに話しかける。


「抗争になる事が分かっていたなら、そもそも出向かなきゃいいんじゃねぇか?」

「そう簡単な話じゃねぇんだよ」


とっつぁんはそういうと、ポケットからスキットルを出して一口飲むと蓋をしてこちらに放る。


「前金だ」


どうやら、聞いたらもう逃げられないぞという事らしい。


もっとも、とっつぁんの船で出港して、敵対組織のステーションに移動している現状の、どこに逃げ道があるんだよという話だ。


なので、前金を一口やってそのままポケットにしまう。

…あ、この酒結構好みの味がする。



「この星系の惑星PSR-021からある資源が出た。安定採掘の目途が立って、共和国に話を通した」

「ある資源って…まさか、軍需資源?」

「帝国の独立と開戦とでタイミングも良かった」


明確な回答を避けたという事は肯定と受け取ります。


前にも話したがアウトセキュリティスペースは開拓に失敗し、共和国も放置したために無法地帯になった星域だ。

共和国からすれば、理由さえあれば放置をやめて再開発に力を入れる事が出来るのである。


例えば、戦力を派遣してでも確保したい資源が産出するといった理由があればだ。



そして、オットーはこの星域の商業関連の元締めで、この星系の商売人達をまとめる立場だ。


逃げ出すことはできなくても、従う事はできる。


共和国にしてみても、軍需資源の新しい産出地は、十分再開発の名目になる。安定確保の準備までしているならコストも抑えられる。


そうでなくても独立した帝国によって領土を失っているのだ。それは、資源の国内生産量も失っている事を意味する。


それを、地元勢力の支持も得た状態で手に入る。


オットー達も戦力を保有しているので、その協力があれば派遣する戦力も少なくて済むだろう。

民間組織が武器を持つことは違法ではない。星系内自治軍の制度は共和国法にも明記されている。


彼らを取り込むことで、これまでの不法行為を見逃すことにはなるが、逆に言えば共和国の統制下で、地元有力者をいつでも告発できる首輪をつけたとも言える。



最大の問題は、そうではない無法者達だ。


自分たちの楽園に、突如公共機関の手が入るのだ。しかも、それを手引きした裏切り者がご近所さんである。

そりゃ、抗争一直線だ。


「正式に決まるまでは、公然の秘密ってわけだ。騒動は、あくまでも自衛の範囲でなければならん」


オットーたちの計画は共和国の協力が大前提だ。


犯罪者ですが反省しません。顧みません。改善しません。では、共和国だって協力しない。あくまでも共和国国民として法に従って生きるという意思表示がいる(ただし暗闘は許容する)。


騒動になったとしても、それはあくまでも「穏便に解決しようとしたが、やむをえず自衛権を行使して対抗した」という体裁が必要となるのだ。


たぶん、その事は敵対する組織もわかっていて、これまで色々やっていたが、うまく対処されたので、最終手段に訴えたという事なのかもしれない。




思い返せば、この「色々」の部分が、この前のオレの仕事もつながる。


この前の密輸船強奪の際に奪った荷物は「武器弾薬」だ。そして、あの襲撃は“同時多発”だったはずだ。


オレが仕事をした分だけで、コンテナ三個分の武器弾薬。ちょっと小遣い稼ぎに取引する量ではない。では敵対勢力はこの時期に大量の武器弾薬を入手して何に使おうとしていたのか。


そして、同時多発で相手に渡る武器を妨害し、一部をこちらが入手して戦力増強を図るという構図。

どう見ても佳境。クライマックスです。


「おう。ジーザス」


思いっきり導火線に火がついて煙を上げてパチパチ音を立てていたじゃないか!


そんな中、のんびり出港準備をしていたオレは、文字道理バカ丸出しである。

ドックごと船を吹っ飛ばされても文句を言えないよ…




「そういえばよ。ソードマスター」

「あん?」

「カタギになりてぇなら、口きいてやろうか」


顔を抑えて自己嫌悪で呻いていたオレに、とっつぁんが聞いてくる。

確かに、カタギになりたいというオレの立場からすれば、共和国の管理下にはいろうとするこの場所は悪くない再就職先だ。

これから法整備や設備改修で、仕事に困る事もないだろう。


だが、それは聞けない提案だ。


「馬鹿いえ。オレは帝国の恩赦で出てきた元囚人だぞ。共和国の国籍もらった瞬間に刑務所に放り込まれるだけだよ」

「…はぁ。しょうがねぇな。わかったよ。帰ったら逃げ道くらいは手配してやるよ」


残念なことに、オレととっつぁん達とは立場が違う。確定していない罪や、発覚していない犯罪の関係者であるとっつぁん達とは違い、オレは裁判で罪が確定した文字どおり受刑者だ。


たとえ、帝国恩赦による釈放(共和国側から見れば脱獄)や、軍用シャトルの盗難については目こぼしされるとしても、共和国の裁判で確定した罪が消えるわけではない。


つまり、ここがシャバになったとしても、戻るのはカタギではなく監獄(残り刑期34年)という事だ。


「ジーザス」

「ふっ」


悪態をついていると、鼻で笑う声に見れば、話を聞いていたらしい用心棒のヘックスが唇をゆがませていた。


「…なんだよ」

「なんでもないさ。囚人プリズナー

「うるせぇ。仕事しろ用心棒バウンサー


歯を向いて威嚇する。

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