そして抗争に巻き込まれる
第14話 さすが亀の甲
ずんずんと裏道を進むガンツのとっつぁんを追いかけながら事情を聴く。
「なにを急いでいるんだよ?」
「オットーが向こうのステーションにいる」
今回のステーション襲撃は、敵対する組織からの実力行使だ。とはいえ、それがいきなり起こった事には理由がある。
この前、オレも参加した密輸騒ぎだが、密輸をもくろんでいた勢力と話し合いをして、手打ちをしようと決まったのだそうだ。
で、責任者オットー組合長が手打ち式に向かったところ、突然攻撃を受けて、手打ち式はそのまま抗争へと変わった。
示談の取り決めをしようと出向いたら、殴り掛かられたような状況だ。
「騙し撃ちかよ」
「最初から狙われたんだよ。この状況をな」
そういって、細い路地に置かれたゴミをよけて、その奥に隠されたドアを開ける。
「抗争を?」
「そうだ。オットーもこうなる事を考慮して手下を連れて行っていた。だからまだ生きている」
薄暗く使われた形跡のない隙間を進んだ突き当りでとっつぁんは足を止める。
そして、突き当りの壁を思いきり蹴り飛ばした。
バカン!
「そして、こっちも抗争になる事を想定して準備しているのさ。後はオットーを連れ戻せば万事解決する」
壁を蹴り飛ばした先は、ステーションのドックへ続く連絡通路だ。排気口に偽装された裏道兼近道という事だ。OSSの設備をまじめに整備する作業員などいるわけもない。そういった盲点をついた隠し通路というわけである。
さすが亀の甲。
だが、連絡通路の先には、オレが盗んできた軍用シャトルを回収した回収船が待機している。
「とっつぁん。まさかあのドン亀で行くのか?戦闘が始まってるステーションで?ひっくり返って終わるぞ」
連絡通路の窓から見えているのは、艦載機がドックファイトを繰り広げている戦闘宙域だ。
当たり前だが高機動のドックファイトや対艦艇攻撃用の艦艇が飛び回っている中に、武装は最低限、シールド機能も普以下。速度も出ない一般宇宙船が飛び立てば、どうなるか結果は見えている。
「ワシが何年ここでメシを食ってると思ってるんだ。戦闘中に回収できて故買屋としては一人前よ」
「おう。ジーザス」
オレの悪態を無視して、さっさと乗り込むとっつぁんと用心棒。
仕方なく乗り込む。
「ヘックス。シールドを見てくれ」
そういうと、とっつぁんはコクピットに座ると、船を起動させる。
指示されたヘックスはコクピットのサブシートに座ると、バトルスーツのヘルメットを脱ぐ。
20代の若い男だ。褐色の肌に銀髪。精悍な目に、引き締まった口元。まぁ美形と言っていいだろう。右目の下に「〒」字の刺青が入っていて、そこに見慣れない文字が入っている。ファッションではなく認識番号のようだ。
ヘックスは慣れたようにコンソールを操作する。
「シールド問題なし」
「カタパルト離脱。このまま出る」
「射出は?」
「ソードマスター。黙ってろ」
無重力の宇宙において、カタパルトからの射出は船のエネルギーを使わずに加速する便利な機能だ。エネルギーの節約にもなるし、そもそもステーション周りが戦闘状態である以上、そんな危険地帯から一刻も早く抜け出すためには、少しでも速度が必要だ。
そんな考えを、とっつぁんはオレを睨んで一蹴した。
この船はとっつぁんの船である。目の前に船長のとっつぁんと、その用心棒。オレに何かを言う権利はないらしい。
それを察して、降参と言わんばかりに両手を上げて肩をすくめた。
とりあえず、脱出装置の近くに座る。
軽い衝撃と共にドックから離れる回収船。
速度はなく、驚くことに加速している様子もない。本当にただステーションから放り出されただけだ。
しかし、想定していた攻撃などは来ない。
「推力なしでステーションから放り出されれば、破損したステーションの破片と誤解する。目ざとい奴は見つけるかもしれねぇがな。そういう奴は今戦闘で大忙しよ」
自信満々にそういうとっつぁん。
「このままワープに入る」
「おう。ジーザス」
ワープには膨大なエネルギーと、移動ための様々な要素が関係する。星系内の惑星による重力や、デブリ、電磁波、彗星や戦闘によっても影響が出る。
世間一般には、重力などの影響の少ないところで負荷を最小限にしてワープを行う。
宇宙船の免許を取るための教本にも書かれている基本的なことだ。
そして、現在出てきたステーションは、惑星の衛星軌道上に存在する。
つまりは、すぐ近くに巨大な重力の発生源である惑星があるのだ。
そんな常識を知らないと言わんばかりに、とっつぁんが、操縦席であれこれ操作する。
生憎、その内容は操縦素人のオレにはさっぱりわからない。
すると、熟練のとっつぁんの技なのか、明らかに通常より早い速度で回収船のワープ計算が完了する。下手したら普通のワープ計算よりも早く算出がすんでいるかもしれない。
それほどの速度だ。
「言ったろ。ここで飯を食っているんだ。庭みたいなものさ」
そう言って、驚くオレを見るととっつぁんは、最後のスイッチを入れ回収船がワープに入った。
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