第8話 金なら貸さねぇぞ

「ふ~…」


最後のゲートを飛び越えたところで息を吐いてシートにもたれかかる。


危険なエリアを経由しての移動は肉体的にも精神的にもつかれた。



そんなわけで、銀河共和国の戦艦からフリゲート船を盗んで逃げ出した先は、一応銀河共和国の領域ではあるものの、主要惑星や重要拠点から外れた辺境も辺境のセキュリティランク0レベル星系。通称『アウトセキュリティスペース(OSS)』と呼ばれる領域だ。


アウトセキュリティスペースとはつまりは無法地帯である。


なにせ、この星系には治安維持組織が存在しない。

ようするにお巡りさんがいない場所という事になる。


なんで!?って思うかもしれないけど、理由がある。


ゲート装置による移動可能な星系を見つけ、そこを開拓すれば、現代でいうところの国家を形成できる。基準を満たせば銀河共和国に加盟もできる。


ただ、その基準を満たすためには各種必要施設や自治能力を持たせる必要があり、その為には莫大な資本と時間と努力が必要となる。


そして、開拓が常に成功するわけではなく、様々な理由で開拓者たちが国家を形成する前に崩壊した星系も存在する。


通常であれば、銀河共和国がそういった星系を直轄星系として管理し、再開発や入植をするのだが、場所が主要経路から離れていたり、有益な埋蔵資源などがない場合、コストに見合わない等の理由で名前だけ共和国に組み込んで終わりにするケースも存在する。


そういった場所は、最低限のインフラだけ設置して放置される。地方の無人駅みたいな感じだ。



そして、そんな見捨てられた場所に好んで住み着く人間がこの宇宙にはいた。


逃亡中の犯罪者。他国のスパイ。危険思想のテロリスト。行き場のない避難民。不法移民。

要するに無法者アウトローと呼ばれる者達だ。


そしてそこには、軍艦から宇宙船を強奪し、見つかる前に身を隠そうとする銀河帝国国民(元受刑者)も含まれる。



さて、オレの経歴を思い出してほしい。

受刑者となる前の職業。つまり宇宙海賊だ。


彼等は強奪品を売却し収入としている。当然だが、盗品というのは、通常の商取引では取扱ってもらえない。


海賊相手のグレーな業者にとっても、法の目の届かない取引場所が必要となる。


オレがこのOSS星系を目指したのは、ここが昔の活動拠点の一つで、共和国の目から逃れられることを知っていたからだ。

ここなら、盗難軍用船を売り払って身を隠すことができる。


「でも十年以上も前だからなぁ…」


とはいえ、そう簡単な話ではない。法の目の届かない商売だ。こちらを騙そうとする業者には事欠かない。というか、基本こちらの上前を撥ねるためにグレーゾーンの取引している連中である。


上前をはねるだけならまだ優しい方で、だまして殺して奪い取るというどっちが賊かわからないようなのもザラにいる。



そんなわけで、船の端末を操作して星系内のローカルネットワークに接続する。

ゲートを経由しないネットワークが設置されており星系内のリアルタイムでの情報交換が可能だ。


そんな中から、取引相手を探すのだ。

刑務所から出所直後の人間に、裏社会のコネなんてものはない。信頼関係なんて元々ないが、それでも僅かなコネにでも頼るしかないのだ。


とはいえ、こんな危険な場所では長くできる商売ではない。名を変え品を変え場所を変えて続けるのが普通だ。十数年の業者が残っているはずもな…


「…ジーザス」


残っていたよ。


見覚えのある名前を見つける。海賊時代に何度も取引した故買屋だ。


故買といっても盗品買取業者だ。その職業故に様々なコネを持っている。


といっても安心はできない。連絡先を残しただけで本人と繋がっていない可能性もある。


【返信用のアドレスを送信してください】


当然だが、違法取引である。わざわざ公開回線に連絡先を残しているわけもなく、あくまでも一方通行の通信だ。

必要な通信情報を記載して送信。



余計な乱入者を警戒しつつ待つことしばし。



【本当にソードマスターか。久しぶりだな!】

「ガンツのとつぁん。生きてたのか!」


捕まる前のオレの二つ名については気にしないでくれ。


海賊時代のあだ名が「ソードマスタームサシ」なのだが、もう本当に気にしないでくれ。


【何言ってやがんだてめぇ。それこそ、おめぇ。パクられたって聞いたぞ】

「まあな。それで、ちょっと頼みがあるんだ」

【金なら貸さねぇぞ】

「ちげぇよ。フリゲートを買い取ってほしいんだ。さっき軍艦から持ち出した奴だ」

【はっ。相変わらずか。よし、座標を送るぞ】

「わりぃ。頼むわ」


やはり、持つべきものは、コネである。


何を隠そう。今のオレは着の身着のまま。財布は持っているが残金は推して知るべしだ。


送られてきた座標に機軸を合わせて、船を動かすとようやく緊張を解いた。

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