第9話 この言葉を後悔することになる

ガンツのとっつぁんから送られた座標…から少し離れたところに隠れる。騙されないための基本テクニックだ。やってきた回収船と通信して、本人であることを確認して合流。


盗んだ宇宙船を格納してもらい回収船デッキへ。


そこでは、見覚えのある顔が笑顔でオレを迎えてくれた。


「本当に久しぶりだな。足はあるな」

「ちゃんとあるよ」


そう言って、ポンポンと自分の足をたたいてみせる。


「まったく、パクられたと聞いたから、これで終わりだと思ったものだがな」

「まあな。運がいいのか悪いのか」


一緒に捕まった他の奴らは、ほぼ死刑か終身強制労働刑だ。アーバシー星系よりも苛烈で危険な場所での労働は事故も多い。


そういう意味では、オレの刑は仲間の中では一番軽かった。まあ、軽くて懲役50年であるのでお察しだ。


「しかし、シャバに出てきたってことはいい事だ」

「例の銀河帝国のおかげさ」

「…そうか。まあ、積もる話もある。一杯おごるぜ」


そういうと、オレの肩を並べて回収船の個人スペースへ招いてくれる。


思い出の中よりも、やけに親しげなのが気になったが、とっつぁんももういい年齢だ。久しぶりに会えたからだと思っていた。


もちろん、それは間違いだった。




久しぶりの高級酒に舌鼓を打つ。

重力制御の効いた回収船のビジネススペースだ。居住性は悪くない。

ソファに座り、グラスを傾ける。


壁には内窓がつけられており、そこから回収スペースに置かれた共和国シャトルが見える。

ここでは収納した盗難船や違法品を確認し、商談をするのだ。


オレの持ってきた船には5人の作業員が取り付いており、その中の数人がハッキング用の機器を取り付けて、緊急コードの解除を行っている。


「人が増えたな」

「オレももうイイ年だ。一人でアレもコレもは正直キツイ」


オレが窓の向こうの彼らの動きを見ていると、とっつぁんは空になったグラスのお代わりを注いでくれる。

さすがに酔うわけにはいかないが、出所してから飲んだことのない高級酒だ。グラスを持ち上げて礼を言う。


「いい酒だ。商売の方も順調か」

「色々あったがな」

「で、船の状態は悪くないはずだ。いくらになる?」


何を隠そうほぼ無一文だ。一応、これまでの給料は口座に振り込まれているが、帝国銀行の口座である。共和国側で使える可能性は低い。


そして、オレの記憶の中にある船の違法売買の相場は十数年前のものだ。


とりあえず当座の資金を作って、帝国側に戻る算段をつけなければならない。


「まあ、パッとは出せん。査定を待ってからだ」

「ん?」


その返事に声が漏れる。昔のとっつぁんは職人気質で、こういう時、ある程度カンと経験に従って口に出していた。


「ワシも年なんでな。目利きは店じまいよ」


そう言って、自分のグラスを空ける。


「もう、その辺は息子に任せてるんだ」

「息子さん帰ってきたのか」

「嫁さんと孫を連れてな。そんでもって、この有様よ。ずいぶん楽させてもらってる」

「そりゃよかったじゃないか」


確かに、とっつぁんには息子がいた。


こんな所(OSS)に住んでいる悪ガキの例にもれず、ヤンチャで負けん気の強い息子だった。よくある感じで親子喧嘩をして家を飛び出したのは知っていた。


個人的な事なので、それ以上は知らないが、そんな息子が返ってきてヨリを戻したという事なのだろう。


見れば、顔色も良くなっており、少し太った印象もある。まあ二十年近く会えなかったのだ、お互い色々あるだろうさ。


何を隠そう、オレ自身は魂が変わっているからな。オレの方が色々ありすぎだ。

息子が返ってきて丸くなった位なんでもないじゃないか。


「戻ったら、挨拶でもしてれくれ。値段には色を付けるよう言っておくからよ」

「ああ、わかったよ」


何気なく言われた言葉に、気軽に帰したのはオレだ。



この後、オレはこの言葉を後悔することになる。

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