第74話閑話 サイボーグの想定外

大した仕事ではないはずだった。


「しくじったのか」

【すいません。しかし…】


内蔵された通信機能から言い訳のような言葉が聞こえる。


「無能め」

【…】


叱咤の言葉に、言い訳の言葉すらなくなる。

所詮は金で雇った奴等に期待するのが悪いという事か。


待機状態にしていた身体機能に信号を送り起動させる。


全身擬態化しサイバーパーツで強化した体には、ナチュラルな人間では対抗できない。

暴力行為を得意とする部下たちであっても関係ない。どれほど集まろうと一人で相手取れるほどだ。

もっとも、それ故に目立つ外見でもある。だからこそ、クズみたいな奴等でも金で雇わなければならなかったのだ。


待機していた専用エレカーから降りて向かいのターミナルに向かう。


相手が外部からの旅行者であることは想定していた。ああいった船乗りは問題があれば自分の船に逃げ込む。

配下たちが見失った場所からドックへ行くには、モノレールを利用するしかない。


ターミナルに入りながら、駅の内部回線の一部を使ってハッキングする。

管理システムまで乗っ取る必要はない。

見失った周辺の監視カメラに割り込めばいいだけだ。戦時中の公共施設のセキュリティ管理は杜撰なものだ。最悪、発覚したとしても相手国である帝国側の妨害工作だと思わせれば、怪しまれる事はない。


ターミナルのホームに向かいながら、武装のチェックを行う。

左手のショックボルトの機能は正常。相手の素性を調べるために、殺しではなく生け捕りにするためにつけた非殺傷武器だ。

さらに有事の際の右手の内臓武装も問題ない。最悪殺してしまうが、生け捕りは必須ではない。相手がどんな武器を持っているかによるだろう。


並列で動かしていた映像解析プログラムからから目標を発見した信号を受け取る。

男と少女の二人連れ。情報通りだ。

事前に受け取ったデジタル映像と、ハッキングでのっとった監視カメラの映像が合致した。


ホームに来たモノレールに乗り込む。

中に客は二人。

二人とも乗り込んできた自分サイボーグに不審な視線を向ける。


ガン!


二人を一瞥して、モノレール内に設置されたポールをたたく。サイバーアームのパワーでいびつに曲がるポール。

乗客の目に浮かんだ「警戒」の色が一気に「恐怖」に変わる。


「悪いが下りて次の電車を利用しろ」


ナチュラルな人間では対抗できない相手だと理解出来ただろう

有無を言わせぬ意味を込めてそう告げると、人間どもはあわてて降りていく。

当然だ。それでいい。


モノレールが動き出す。

捕まえた二人の事情を聞きだすのはあの部下たちにやらせよう。金を出しているのだ少しは役に立ってもらおう。通信で、二人を捕まえた後に運ぶ手はずを整えさせる。


メモリーの一部ではハッキングしたカメラが、目標の二人を追っている。

ターミナルで通信した後、ホームに上がっていく。通信先は船舶用ドック。自分の船で逃げるつもりなのだろう。想定通りだ。


モノレールが駅に着き、監視カメラの映像そのままに二人が乗り込んできた。

即座に二人の武装をチェック。

サイバーパーツの反応はない。全身ナチュラルの唯の人間だ。

少女の方はブラスター銃を持っているが、あの出力では対熱線コートを貫くことはできない。男の方にはエネルギー反応はない。非武装?腰にぶら下げているのは…工具か?金属反応こそあるがそれだけだ。


脅威になる相手ではないな。

左手の非殺傷武器ショックボルトの機能を再度確認する。問題なし。


モノレールの扉が閉まり動き出す。


向こうもこちらに気が付いたようだ。

男が少女を後ろに下がらせる。

そして予想外の行動に出た。


おいおい、本気か。


そして、男がこちらに向かって歩き出す。

機械の顔に表情を動かす機能はないので、顔には表れないが呆れる。まさか素手でサイボーグに立ち向かう気か?


時間稼ぎのつもりだろうか?無駄な事を。

次の駅まで約7分。ただの人間二人を無力化するには十分な時間だ。


何をする気か分からないが、問題はない。まず男をショックボルトで気絶させ、少女を捕まえる。

自分の無謀を自覚させるために、最初に一発程度殴らせてもいいだろう。己が無力だとわかれば、この後の質問にも素直に答え…


「!?」


男の姿が消えた!


左腕の信号途絶!?何があった!

機体損傷時の自動迎撃システムがアラート警告と共に右腕の内臓武器を起動させている。自動照準システムが周囲の情報を自動で収集し解析を始め。


サイバーアイの視覚情報に、男の顔が映っていた。

至近距離の男の目がこちらを覗き込むように見ている。


いつ、ここまで近づいた?


条件反射のように距離を取ろうとしたが、何かに引っかかって半歩以下の僅かな距離しか下がれない。

視界の端で右腕に何かが突き刺さりモノレールの壁に固定されている。同時に、右腕の機能が20%以下まで低下している信号が発信されている。


何が起こっ…



その疑問の答えを解析する前に、全機能の信号が途絶し、緊急自閉モードに移行した。




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この後、この人は「そぉい」されます。

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