巻き込まれるのはいつもの事だけど慣れない

第75話 それならそれでおかしいのだ

戦争中の星系に潜り込み、首都ステーションで情報を集めた者の、ビアンカの住んでいたステーションからの情報はほとんど手に入らなかった。

帰り道で変な奴等にからまれたが、宇宙船に逃げてしまえばそれまでだ。広大な宇宙で、腕っぷしは意味をなさない(半分自虐)。


とりあえず、生存者も避難民の情報もない以上、状況を確認するためには現場を調べるしかない。


「ワープアウトします」

「よし。シールドはそのまま、大型のデブリに気を付けてくれ」


位置情報は首都ステーションで受け取っていたので、移動に関しては問題なかった。

ワープアウトしてみれば、水色の惑星の衛星軌道上に、人工物が漂っている。


タイヤの様な短い円筒状の中央に。立方体を繋げて十字にしたようなステーションだ。おそらく区画分けしているのだろう。とはいえ十字の二つは途中で破壊され半分以下の長さしかない。さらに中央部の円筒も片面半分が吹き飛んでいる。何があったにしろ、ステーションとしてはもはや使い道はないだろう。

破片デブリが多い場所はおそらく農業プラントだろう。こちらは完全に爆裂四散したようで骨組みすら残っていない。


「スキャン状況は?」

「デブリが多すぎて詳細は…」


スキャン機能も万能ではない、スキャン対象が多くなればなるほど、処理にエネルギーと時間を要する。不要なものを除外できればいいのだが、デブリを一つ一つ除外など気の遠くなるような時間がかかるだろう。


「エネルギー反応はありません。中央の壊れた箇所がおそらくジェネレーターかと」


それでも、ルーインはアバウトにしか分からないスキャン結果で教えてくれる。

さすが開拓民の一族。辺境施設の構造に詳しいのは伊達ではないようだ。

同時に、表情が暗いのもある程度理解しているという事だろう。


前にも説明したが、この世界での重力装置は空気の有無で決まる。そして、空気を発生させる原料は、それ単体では空気にならずそれを変換生成するシステムが必要になる。そしてシステムの稼働にはエネルギーが必要だ。

そのエネルギーがない以上、ここの生存者の可能性は絶望的という事だ。


「ビアンカ。コントロールルームは中央なのか?」

「…うん」

「破損状況からして壊滅的だな。サブ管制は?」


故郷の惨状だが、個人ステーションを知る唯一の人間だ。


「ステーションの倉庫区の奥にデータ保管庫があったはずです」


あえて、事務的に聞いたが、ちゃんと答えるビアンカ。

とはいえ、状況は理解しているのだろう。顔色はよくない。


「中に入らないと分からないか。よし。ヘックス行くぞ」

「わかった」


ヘックスに声をかけると、ヘックスもバトルスーツのヘルメットをかぶる。

子供たち3人は船で待機だ。

何があったにしろ、あんまり見せたいものでもないしな。


軽くルーインに目配せすると、ルーインも察してビアンカのフォローに回らせる。

あとは、ウィルにルーインの代わりをさせるべく肩をたたいて、大人二人はブリッジを出た。



そんなわけで、二人で推進ボードを使ってステーションに近づく。

別に防犯装置が作動しているわけでもないので、撃墜される心配はないのだが、デブリが散乱する場所である。

推進ボードにはシールド機能などないので、デブリをよけて移動する必要がある。

先導するヘックスのバトルスーツの機能を使ってデブリ回避しつつステーションへ近づく。


目的は倉庫区画だ。そして、それを見つけるのは難しくない。

荷物を毎回ハッチから搬入搬出するのは手間だ。それなら荷物が入ったコンテナを直接ステーションに接続しそこから持ち出せばいい。つまり、通路にコンテナが取り付けてある区画が倉庫区画という事だ。

あとは、その区画の緊急用のハッチを物理的に開けて中に乗り込む。


スペーススーツの電磁靴を使って足をつける。

ステーションの中は想像通りで、電灯の明かりも空気もない。ヘルメットに着けたライトを点けて照らすが、中は一目見て異様な姿だった。

おそらくここは倉庫区域の通路だろう。それは一目でわかるのだが、左右についている保管用のハッチが開いているのだ。

中をのぞいてみると、がらんとしている。


「ヘックス。そっちはどうだ」

「…なにもないな」


部屋の中が何もない。

それだけなら、まあいいだろう。誰か入り込んで価値あるものを回収していった可能性もないわけじゃない。


だが、

手を伸ばして壁の汚れを拭う。


「ここは、艦隊の戦闘に巻き込まれたんだよな?」


そこにあるのはブラスターの熱線による破壊痕だ。

倉庫区域の通路でブラスターの射撃練習をするようなアグレッシブな事でもない限りそんなものが付くはずがない。

ついでに言えば、通路には外部を見るための窓も取り付けられている。ブラスター一発で破壊される可能性もあるので、通路でブラスターをぶっ放すのはお勧めしない。


「…」


オレの言葉に返事はせずに、ヘックスは別の壁にできた穴を見ている。その向こうは倉庫だったので、外部につながることはなかったようだが、それでも通路を破壊するような何かがあったという事だ。


どうみても、ここで銃撃戦があったような有様だ。

あくまでも戦争に巻き込まれて破壊されたステーションであるなら、白兵戦が起こることがおかしい。

まあ、あり得ないわけではないが、それならそれでおかしいのだ。


「銃撃戦があったなら死体はどこだ?」


あたりまえだが、ブラスターを打ち合うのはゲームじゃない。当たれば死ぬ。敵であろうとみ方であろうと誰かが死ぬのだ。

宇宙では死体が腐る事もない。少なくとも着ていたスーツが残っているはずだ。何もかも吹っ飛ばしてチリと化したとするなら、この場所は被害が少なすぎる。

となれば、死体をわざわざ持ち帰るなり外に放り出して処分したことになる。


【ムサシさん大変です!】


もう少し詳しく調べようとしたところ、ウィルの通信が入る。


「どうした」

【大規模ワープアウトです。検知許容量を超えています】


検知許容量を超える質量のワープアウト。

切羽詰まったウィルの言葉に、状況を察したオレは大きく息を吐いた。


「おう。ジーザス」


一隻や二隻じゃすまない宇宙艦隊がここに来るという事だ。

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