第54話 役得というのがあるものだ

敵艦の搬入口から荷物ごと脱出し、無事に自分の船に回収してもらう。

大型コンテナはそのままトラクタービームで船体に固定してもらって、救出したヘックスの仲間達の小型コンテナをシェイク号に運び込む。


これで目的は達成した。あとは逃げるだけだ。


「よし、船を出してくれ」

【はい】


オレの通信で、シェイク号が加速する振動を感じる。


「そっちの二人の対応は任せるぞ。オレはブリッジに行く」

「大丈夫なのか?」

「あとは、逃げるだけさ」


ヘックスの問いに笑って答える。

そこまで難しい話じゃない。


ついでに、こっちもやらなきゃならないことがある。




ヘックスを残してブリッジに。


メイド服姿のルーインちゃんが、頑張って船を操縦している。

サブ操縦席に座って補佐をしつつ指示を出す。


「荷物は回収した。このまま逃げるぞ」

「ゲートに向かえばいいですか?」

「いや、適当な場所でほとぼりをさます。追手を引きはがすだけでいい」

「はい」


ワープ移動にはエネルギーがかかる。基本的に、ワープの移動距離は長いほうが良いとされる。


移動距離が長いほうが移動時間が短くてすむし、追われているなら、追う側にも長距離分のエネルギーを消費をさせる事ができるからだ。


とはいえ、相手から姿をくらますだけなら、検知されない距離を稼ぐだけでいい。


「ワープアウト確認。駆逐艦2。フリゲート級が5隻」

「この星系の治安部隊だな」


予想通り、この星系の治安維持組織の部隊のようだ。LSSのわりには、結構な戦力だ。運よく(?)近くを巡回していたのか、近くに基地があったのかもしれない。

もちろん、壊れかけたシェイク号一隻で勝てる相手ではない。それを想定してすでに逃げに入っているのだ。


そして、逃げる為の足止めは、すでにすんでいる。


「公共組織である以上、人命救助が第一」


見れば彼らはオレ達が襲った船に向かっている。

コンテナの荷物がばらまかれたせいで、派手に攻撃されたように見えるだろう。


普通なら、ここで襲われた船と交信して被害状況や、オレ達襲撃者の情報を共有するだろう。荷物が奪われたと分かれば、こちらを追いかけてくるかもしれない。


だが、今回の相手は後ろ暗い不法行為をしている商船だ。


つまり、そんな状況では、救援に来てくれたといっても、治安部隊に全面的な協力はできないという事だ。

世間一般にそんな船を不審船と言います。


さらに、オレ達は、あの船の隠し保管庫から小型コンテナを二つ持ちだしている。

当然、それ以外にも隠し倉庫にはコンテナがあり、そこにあるのは隠すべき品だ。カモフラージュ用の壁には、現在大きな穴が開いている。


治安維持部隊が状況確認の為にスキャンをかけたら面白い結果になるだろう。

あの商船が違法行為をしていると判明すれば、あの散らばったコンテナは違法行為の証拠品だ。司法をつかさどる組織に従う治安部隊である以上、証拠品を回収する必要が出る。


当然、そこから逃げるオレの船に部隊を割くことは難しい。


二兎追うもの一兎も得ず。

いい言葉だ。そんな失態を避けるなら、確実な一兎を狙うだろう。

それは、足の遅い不法行為をした商業船だ。


こうして、襲撃した船は悠々と逃げ出す事が出来るのである。

宇宙海賊というのは卑劣な事をするものである(他人事)。


「船の軸合わせを省略。ワープエンジン始動します」


時間稼ぎのかいもあり、ワープのための必要エネルギーを確保できた。

そのまま、ワープを開始する。


「ラピッドワープで再ワープをする。エネルギー残量を任せる」

「はい」


ラピッドワープは宇宙船パイロット達の造語だ。


要するに、ワープした後すぐに次のワープに入るという事だ。前にも説明したが、探知機を使う事で、ワープアウト地点を割り出すことができる。ただワープしただけでは、完全に逃げる事はできない。


そこで、あえてワープを二段階に分ける。

1回目のワープアウト地点を割り出しても、すでに別の場所へワープしているという寸法だ。1回目の場所に追いついても、次のワープが終わっていれば探知機を出してももう遅い。


とはえ、便利に使えるわけでもない。

相手の探知機が高性能だった場合、探知エリア内でワープをしても、次のワープアウト地点も特定されて無意味にワープしただけで終わってしまう。釈迦の掌を飛び回る孫悟空状態だ。


さらに、二回ワープを行うのでその分のエネルギーが必要になる。同じ距離をワープするのでも、2回のワープで移動する方が消費エネルギーは大きい。


まあ、あくまで用心という事だ。




とりあえず、すぐさま追ってくるようなこともないので、次のワープエネルギーが貯まるまでの時間に、オレはコンソールを取り出して操作する。


別に特別なことをするわけではない。

次のワープアウト先の位置情報をハーンに連絡して、現在トラクタービームで固定している大型コンテナの売却の交渉をするためである。


商売敵の船から奪ってきた、持ち主が捕まった為に、被害届の出せない品である。きっと良い値段をつけてくれるだろう。

ちなみに、仕入れ値はタダなので、売却価格はそのまま儲けとなる。


どんな仕事にも役得というのがあるものだ。

これだから宇宙海賊はやめられまへんな…いや、これはあくまでも違法行為に対処するための緊急措置的な一時的な行為だからね。別に常態化するわけじゃないよ。


…常態化しないよね?

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