第25話 5分5分ではない

「賞金首だ?」


二杯目のジョッキに口をつけて、ヘックスの言う「儲け話」を聞く。


金になる話とは、つまり賞金首を捕まえて賞金を得ようという事だ。



この世界には3種類の賞金首がいる。


一つは、星系賞金首。

これは星系国家が罪を犯した者にかける賞金で、その星系で賞金が支払われる。星系の外では賞金首の引き渡しも賞金の受け渡しも出来ない。


なので、その星系から逃げきれば安全と思われるが、捕まえてその星系まで連行すれば普通に賞金は支払われる。


その星系を根城にする宇宙海賊などがこれに当たる。

賞金額が積まれて、賞金稼ぎが増えて来たのでその星系から宇宙海賊が出ていくなんて話も聞く。そういう意図でも利用される賞金首だ。


次が、ヘックスのような共和国賞金首だ。


これは共和国内で指名手配された賞金首で、共和国加盟国すべてで捕縛が許されている。その対象も星系を股にかけた犯罪者や、国際的なテロリストなど幅は広い。

名の売れた宇宙海賊なんかがこれに含まれる。


で、最後が非正規の賞金首。俗にいう裏社会の賞金首だ。


これは賞金首の事情も罪状も関係ない。誰かが誰かに賞金を懸ければ、それで賞金首になる。まあ、支払う側が死んでしまえば、賞金の支払いがなくなるので、賞金首が賞金を懸けた相手を殺して無効にするケースもある。

まあ、その程度の制度だ。



で、今回ヘックスが持ってきた話は、3番目のケースである。


昨晩楽しんだ娼婦のヒモが、どうも裏社会で賞金を懸けられた賞金首らしい。かけられた額は実にしょぼいが、生かして連れて行けば賞金が数倍に跳ね上がる。


「生け捕りか」

「所詮は小物だ」

「分け前は?」

「7:3」


5分5分ではない。


まあ、賞金首を見つけたのはヘックスで、賞金の支払いの交渉したのもヘックスである以上、その権利の大半はヘックスにある。

一応、賞金首を連れていくにはオレの船「シェイク」号でいくしかないから、オレにも分け前があるという状況だ。


「船の修理に2。残りを6:2」

「…まあ、いいか。その代わりコキ使うからな。ムサシ」

「ジーザス」


とりあえず悪態をついて拒否はしない。


船のオーナーですが、搭乗員の方が収入が多いです。




幸か不幸か、不法採掘船が地元星系の治安部隊に見つかり、強制帰還で解散となったため、OSSのステーションに帰る時間は、いつもより早かった。

早かろうと遅かろうと、用心棒代は変わらないので、いつも通りの報酬をいただく。



で、軽い打ち合わせの後、ステーションの雑多なスラムへ足を運ぶ。

裏路地の奥。ボロアパートの扉の前で止まる。


ここが、あの娼婦のハウスらしい。


「女は?」

「彼女は今日も仕事だ。さっき出て行ったのを確認した」

「鍵は?」

「斬ってくれ」

キン!


腰から剣を引き抜いて、そのまま一閃。

扉の隙間に剣先を通し、ロックも切り裂く。


自動で空くような便利な機能はない安アパートの扉なので、ヘックスは力任せにドアを開ける。そのまま、ずかずかと部屋の中へ。



小さなキッチンの先にある部屋には、安物ベッドと粗末なクローゼットと化粧台くらいしかない。家具の少ないベッドルームだ。


そのベットの上に、一人の痩せた半裸の男がいる。

突然入って来たオレ達に驚いた表情を見せる。


「なに…」

バシュ!


男が何かを言う前に、問答無用でヘックスが万能ブラスター銃を撃つ。


普通なら即死だが、出力を調整できる万能銃を、事前に相手が気絶するレベルに調整していた。


そのまま慣れたように用意していた目隠しと手錠で男を拘束する。

と、そこでヘックスの手が止まる。


「どうした?ヘックス」


無言でヘックスが男の首を触ると、その首筋に赤い発疹がある。


「ムサシ。そこらへんに何かないか?」

「あん?」

「調べてくれ」

「あいよ」


ヘックスは折りたたんで持ってきた大きなカバンを広げて、そこに賞金首を仕舞い始める。

気絶しているとはいえ、人一人を抱えて移動していたら、スラムでも目立つ。OSSの低階層に順法意識なんて存在しないが、余計なトラブルを避けるために、カモフラージュをしても損はない。



そんなわけで、特にすることもないオレは、ヘックスに言われたように部屋の中を調べる。


とはいっても、そもそも余計な家具がほとんどない部屋だ。


とりあえず、ごみ箱の中や衣装ダンス、テレビの裏など何かありそうな場所を調べていると、ベットと壁の間に、男物のトランク押し込まれていた。

鍵もかかっていないので、取り出して中を開ける。


「おう。ジーザス」


中には無針注射器と、パッケージされた多数の赤いアンプルが詰まっていた。


「違法スパイスか」


ここで言うスパイスとはもちろん調味料のことではない。人生に刺激を与える品のことだ。もっとも、ここはOSSなので、強弱はあるものの普通に流通している。


とはいえ、店頭にディスプレイされて売られるようなものではないし、簡単に手に入るからと言って、安い買い物でもない。


「使いかけが入ってら」


無針注射器にはアンプルがセットされており、持ち上げて振ってみる。中身が3分の1ほどに減っている。


使った相手は、現在収納されているこの男だろう。もしかしたら、娼婦も使っていたかもしれないが、別にどうでもいい話だ。


とはいえ、そうなると色々つじつまがあう話になる。

つまり、この男が裏の賞金首になった理由と、生け捕りだと賞金額が上がる理由。そして、賞金を懸けた相手の背景情報だ。


困ったように頭をかくオレに、ヘックスが軽いノリで口を開く。


「ボーナスにボーナスを上乗せか」

「目を付けられたくない。むしるなよ。ヘックス」


オレの言葉に肩をすくめて同意をすると、ヘックスはカバンのチャックを閉じる。


「じゃあ、このカバンを持ってくれ。トランクはオレが持っていく」

「…オレの方が重労働ばかりじゃないか?」

「分け前をやるんだから当然だろ」

「ジーザス」


これが資本主義の本質だ。労働者よ立ち上がれ!

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