第24話 勤勉に働いたら状況が悪化する

今日も今日とて、不法採掘船の護衛。


いつもと違うのは、オレが船の修理をするのではなく、探知器に張り付いて周辺を警戒している事だ。


それは、シェイク号の最大の問題である居住空間の振動問題が解決したからではない。


「おい。ヘックス。まっとうな住環境はどうするんだよ」

「ちょっとした調べものだ」


本来の担当であるヘックスは、違法採掘戦の護衛の仕事を見つけはしてきたものの、最低限の作業を済ませると、ローカルネットで何かを調べていた。



そうなった理由は、今日の仕事前のヘックスの第一声だ。


「金になる話を見つけてきたぞ」

「そういう話ってどこに落ちてるんだ?」

「ベットの上さ」


どこのベッドかは聞かない。


昨晩娼婦とよろしくやっていたら、お金になるネタを見つけたという事なのだろう。

こっちとしても、安仕事の合間にチマチマ修理するより、業者に頼んで楽をしたい。




「よし。成立だ」

「だからヘックス。何を…おう。ジーザス!お客さんだ!」


歓声を上げるヘックスに事情を聴こうとした所で、探知器に反応が現れる。


「反応は2。採掘船に緊急コール」


オレの言葉に、ヘックスが端末画面に表示していたパネルをタッチする。緊急コールを受けた採掘船のトラクタービームの光が消え、あわただしく移動を始める。


ヘックスはすぐさま操縦席に座ると、機器のスイッチを入れながら声を上げる。


「エネルギーとシールド確認」

「エネルギー回復機能異常なし。エネルギー量96%。各部シールド状況問題なし」

「エンジン始動」


この船での役回りは、操縦がヘックス。

それ以外がオレだ。


一応、オレは刑務所で一般的な初級資格を取得した。といっても、それはしょせん一般資格。無法地帯で役に立つかと言われれば、気休め程度だ。


海賊時代でも、白兵戦は得意だったが、船の操縦に関して、特に秀でたものがあるわけでもなかった。

そのうえ、現在進行形で二十年近いブランクがある。


本当に剣を振る才能しかないのよね。オレって。


なので、普通にできる仕事は受け持ったのである。これも適材適所という奴なのだろう。


「ワープアウト確認。フリゲート2…いや、3だ。フリゲート級が3」


オレの報告とともに、操縦桿を動かしてヘックスが船の進路を変える。



宇宙船同士の戦闘において、重要になるのは船の性能とエネルギー管理と位置取りだ。


残念なことに、パイロット個人の感覚や身体能力は、宇宙船同士による戦闘では、ほとんど役に立たない。


まあ、数百km先を毎秒数百m(時速数十万km)で移動する宇宙船に攻撃を命中させることなど、人間の反射神経では不可能だ。


「ジーザス」


探知機のモニターを見つつ、口の中で悪態をつく。


探知からの出現が速い。事前にこの地域をマークしていたのだろう。

ここ連日オレ達が用心棒を請け負っていたから不法採掘が続き、それで治安組織が網を張っていた可能性が高い。


金がないから勤勉に働いたら状況が悪化するとか。世の中、間違っているな。


不法採掘船は大量の資源を運べるが、船の機動力は高くない。しかもさっきまで採掘にエネルギーを使っている。ワープで逃げるには時間がかかる。


「お客さんの足が速い。採掘船が逃げる時間を稼がないとまずいな」

「相手の意識をこちらに向ける。攻撃プロトコル起動」


オレの言葉に、ヘックスが答えて操縦席コンソールを操作する。



人間の能力を超える。そんな人間には不可能な事を代行するのが機械の力だ。


攻撃プログラムを起動させて、IFFから攻撃する船を選択する。すると、この船に搭載された武器の「スピア」が、ビームを放つ。


もっとも、この攻撃は有効射程距離の外であったため、命中する事はなかった。

機体の性能と武器の性能によって有効射程距離が定められており、機械である以上、奇跡でも起こらなければ、その範囲を逸脱することはない。

数百km先の目標に命中させるには、ミクロン単位の角度のずれも許されないのだ。


しかし、命中しなくても、駆逐艦の主砲級の兵器である「スピア」の威力を見せつける事はできる。


下手なフリゲート船なら、一発でシールドを突き破って本体装甲まで貫く。その先にコクピットや重要機関があれば、それだけでお陀仏だ。


向こうとしても、そんな攻撃を食らって死にたくはないだろう。不法採掘船よりこちらの方が脅威度が高いと認識して、対処するべく向かってくる。


「食いついたぞヘックス!」

「よし!」


敵がこちらに向かってくるのを確認すると、ヘックスは船の進路を採掘船から引き離すように、敵のフリゲートから逃げるように変える。


基本的に武器の出力が大きくなるほど射程距離は延びる。


通常のフリゲートでは搭載させない大型の武器を乗せた「シェイク」号は、一般的なフリゲート船よりも射程距離は長い。


つまり、こちらが逃げ、相手が追いかける状況は、一定の距離を保つ時間が長い分、こちらが一方的に攻撃できて有利なのだ。



とはいえ、有利だからといって油断はできない。


元来、駆逐艦の性能で撃つ事を想定した兵器である「スピア」を、より小型で能力の劣るフリゲート艦に積んでいるのだ。撃つ為の消費エネルギー量は、フリゲート級の標準装備とは比べ物にならないほど多い。


エネルギーの回復量だって駆逐艦に劣る「シェイク」号である。撃ちまくれば、早々にエネルギーが尽きてしまうだろう。


つまり、シェイク号の武装と性能は一発屋に近い。


さらに、相手だってただ一方的に撃たれているわけではない。


「敵艦載機確認。数4」

「次を撃ったらケツまくるからな」


探知機をみているオレの報告に、返すヘックス。


艦載機はフリゲート艦に比べて小さく早い。フリゲート艦同士の追いかけっこなら、多少の性能差があっても逃げるオレ達に追いつくには時間がかかるのだが、艦載機の速度ならすぐにオレ達に追いつくことができる。


さらに、オレ達の頼みの綱である「スピア」は、固い宇宙船への高威力の一撃を与える事には向いているが、高機動高加速で飛び回る艦載機をチマチマ攻撃するには不向きな武器だ。


元来、そういった艦載機を相手にするのがフリゲート艦の役割なのだが、「シェイク」号はそのセオリーからはずれたバルク船だ。

要するに、この船は艦載機に対して無力に近い。


「第二撃目発射。攻撃プロトコルを停止。スピアへのエネルギー充填をカット」


二発目の攻撃は、敵フリゲート艦の接近で有効射程距離に入ったため、先頭を飛ぶフリゲート艦に命中。直撃こそしなかったものの、被弾したようだ。その一隻は速度を落とし、追撃をやめてこちらの射程範囲へ離脱していく。


「艦載機のコントロール艦じゃなかったか」

「そうそう上手くはいかないさ」

「おっと、攻撃が来たぞ。ムサシ。時間を稼いでくれ」

「あいよ。シールド管理にまわる」


シェイク号に追いついた無人艦載機が、まとわりつくように飛びながら自動攻撃をしてくる。と言っても、艦載機の武装はそこまで強力ではない。すべてシールドで防がれる。


オレは、コンソールを操作して、シールド機能の画面を開くと操作を始めた。



宇宙に存在する人工建造物はシールド機能を保有している。

シールド機能の強さは、シールド装置の性能と、それを維持できるエネルギーの有無で決まる。


間違えやすいのは、シールドとは「盾」であるという事。


つまりシールドは、船全体を覆っているバリアではなく、無数の板(盾)をつなげ合わせて船を守っているのだ。

実際、船をすべて覆ってしまうと、自分の攻撃すらシールドがはじいてしまう。


その一枚一枚のシールドの状況をモニターし、ダメージを分散させることで、シールド能力の保持を行うのは宇宙船同士の戦いの基本だ。


艦載機のような小さな船はシールドの枚数も少ないため、自動プログラムを利用したオート管理で対応しているが、船が大きくなればなるほど管理は複雑さを増す。


エネルギーを消費してのシールド回復までを見越して効率的に管理するにはプロの技(要資格)が必要になるのだ。


…正直、フリゲート艦なら、シールド管理はオートでもいい大きさなのだが、攻撃は機械任せ、操縦はヘックスに任せている現状で、オレにできる事はこの程度だ。

本当に剣を振る才能しかないのよね。オレって(本日二回目)


とはいえ、これはこれで大事な仕事だ。

現在多数の艦載機に囲まれている。


シールドを攻撃されており、一応分散させて管理してはいるが、艦載機の対処ができない以上、シールドは減るばかり。正直ジリ貧だ。


このまま、敵のフリゲート艦が追い付いて集中攻撃を受ければ、ちまちま管理していたシールドなんてすぐに吹き飛んでしまうだろう。


だが、問題はなかった。


すでに、目的は達成している。敵は、オレ達の目論見にまんまとはまっているのだ。

つまり、すでに不法採掘船はワープでこの場から脱出している。敵艦はまだ後方だ。

そして、


「エネルギー充填基準値到達。ワープライブ起動」

「シールド残量問題なし。GOGOGO!」


二発目以降、主砲へのエネルギーをカットして、シールドの回復すらしていなかったのには理由がある。


つまり、「シェイク」号がワープをするためのエネルギーを貯めていたのだ。


シールドで防御し艦載機の攻撃を受け続け、回避行動もとらず、ワープのための計算に必要な位置情報の固定をしてワープ計算の短縮を図る。


敵艦からすれば、強力な主砲を撃ちつつ、シールドを回復しているから、ワープで逃げるエネルギーは残っていないと思っていたのだろうが、こっちは着々と準備していたのである。


この辺の戦術が、ヘックスに操縦を任せる理由だ。

とはいえ、


「危険手当はないんだよな」


ワープに入り、まとわりついていた無人艦載機を振り切り、安全圏に入ったところで軽く愚痴る。


「別にこっちも被害はないだろ。ムサシ」

「得たものもないんだよ」

「とりあえず、帰ったら一杯飲めるさ」

「今日も一杯だけか」


ヘックスも治安維持部隊から無事逃げ切れたことで、緊張を解き操縦席で大きく伸びをする。


「前祝いも兼ねて、二杯にしてやろうか?」


そして、オレの愚痴に軽い感じで返した。





【どうでもいい補足】

敵艦艇である星系治安維持部隊は、今回「偵察型」「攻撃型」「艦載機コントロール型(艦載型)」のフリゲート級3機です。

偵察型は軽度のステルス機能を持っており、シェイク号のオンボロ探知機では探知できませんでした。その為、当初の反応が2となります。(この偵察機が事前偵察しており、その為に迅速なワープアウトとなります)

戦闘では、攻撃型が先頭で追撃していましたが、スピアによる攻撃で離脱。偵察型と艦載型も対艦攻撃を持ってはいますが、秒間火力DPSはそこまで高くない為、シェイク号が逃げる時間は十分あったでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る