無法者に安全な仕事なんてない

第30話 安全でないことは十分わかりました

秘密基地である以上、人目につくような場所には存在しない。

基地の場所は当然秘密だし。基本ワープ航行で移動する宇宙船の移動では、座標を知らない秘密基地の探知範囲にワープアウトすることはまずない。


それが起こるとしたら、幸運か悪運かは知らないが、それこそ天文学的確率が必要になるだろう。



とはいえ、秘密基地を完全に隠し続ける事は不可能だ。

その為には、外部から遮断する必要があるからだ。


だが、秘密基地を作った組織には、定期的に研究結果や進捗の報告をする必要があるし、そう言った記録がなかったら、そもそも仕事にはならない。

さらに、秘密基地で人間が生活するには様々な物資が必要となる。人数が増えれば増えるほど、その物資の量も増える。

実験だの研究だのをするなら、特別な素材や専用の研究機器が必要となるだろう。


つまりは、それらの物資を定期的に秘密基地に運ばなければならないわけだ。



そして、物資を秘密基地に納入すれば輸送業者の積み荷は減る。そんな事が続けば、どこか不明な場所で取引した輸送船を不審に思わない方がおかしい。


セキュリティランクの高い星系では、それこそ積み荷の取引について厳しい規則がある。不正を見逃さないからこそセキュリティランクが高くなるのだ。

だからこそ、そう言った規則のずさんなセキュリティランクの低い場所に秘密基地を作る。


とはいえ、それで問題がないわけではない。

そう言った場所で仕事をする輸送業者の、倫理観や情報の機密性というのは得てして低いのだ。




【そんなわけでね。2回目なわけよ】


リッカとベッキーの乗る宇宙船に同調してワープを行う。


同調ワープは、同調元のワープに連結する形で移動するワープ方法だ。宇宙船同士で、集団行動をする際に使用するワープ航行で、船によってワープエンジンの性能に差がある事から、全体のワープエンジンの性能を調整して、全員で一緒にワープする方法だ。


性能の高いワープエンジンで座標調査などを行い、低い性能のエンジンを補助して、より短時間で移動する事ができる。もっとも、高性能なワープエンジンは性能を分散されるので、早く移動するよりも集団で移動するための機能といえる。


なお、向こうの船との性能差については聞いてはいけない。

そもそも、移動するだけで振動する「シェイク」号と比べるのがおこがましいというものだ。

この船以下があるなら、その名前は間違いがいなく「棺桶」だろう。


振動を直すか、船の性能を上げるか、報酬の使い道を迷うところだ。


…それくらいの、良いところ探しをしたっていいじゃないか。

そんな現実逃避をするように、今回の仕事の内容を通信で確認する。


「一回目はどうしたんだ?」

【それがケチョンケチョン。防衛施設を破壊するまでは順調だったんだけどね】

「なにがあった?」

【内部の防衛AIがフルモードで暴れまわったの】

「…それって、戦術AI?」

【当たり~。バトルドローンまで出てきてね。それも軍用の奴】

「よし。帰るか」


戦術AIは軍事用の戦闘指揮AIだ。戦略戦術を編み出す参謀兼指揮官である。


そして、バトルドローンは、名前の通り戦闘用のドローンである。

前に巡洋艦で出会ったのは、汎用ドローンで、修理、輸送、戦闘とこなせる多目的ドローンだ。一定の戦闘能力はあるものの、特化されているわけではない。


そんな、汎用性を投げ捨てて、戦闘をするために開発されたのがバトルドローンである。突撃艇ガンシップに搭載されて、敵艦に突っ込んで破壊しまくる殺人機械である。


当然、汎用ドローンよりも高い戦闘力を持っている。

普通乗用車とスポーツカーで競争したらどうなるか。結果は一目瞭然である。


それを戦術AIがコントロールするとか、どうみても軍事行動である。


【だから。今回ベッキーと準備して来たんじゃん。ベッキーに戦術AIを抜き取ってもらうわけ。そのための準備をしてきたのよ】

「ムサシ」

「あ?」

「諦めろ」


操縦するヘックスの言葉に天を仰ぐ。

少なくとも、安全でないことは十分わかりました。


「おう。ジーザス」

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