第77話 ジタバタしても始まらない

崩壊したステーションの調査をしようとしたら、共和国と帝国が艦隊戦を始めようとしているでござる。

どう見ても剣を振り回して何とかなる状況じゃねぇ。


「サブ管制に行くぞ」

「この状況で調べるのか?」


オレの言葉にヘックスが聞き返す。


「もう遅い。逃げるにしろ息をひそめるにしろ変わらん。なら、さっさと終わらせたほうがいい」


帝国と共和国の両方の艦隊がそろってしまっている。ステルス機能なんて考慮されていないチャプター号で逃げようとすれば軍用の高性能索敵装置に見つかるだろう。

こうなってしまっては、ジタバタしても始まらない。状況が変わるまで待つしかない。


そして、その程度の時間的余裕はある。

通常、艦隊同士はワープアウトしたら即ドンパチと始めたりはしない。

お互いワープアウトするのは、相手の射程外の距離だ。探知機でワープアウトの地点が予測できる以上、後からやってくる相手のワープアウトの位置をある程度予測できる。

感知した先行艦隊は当然有利な位置取りをしようとするし、後からくる艦隊は、敵に先制攻撃されるような不利な場所にわざわざワープしようとはしない。


つまりは、艦隊がワープアウトしてから実際に戦火を交えるには、多少の時間がかかるという事だ。

ウィルからの報告では、どうも惑星を挟んだ形で対峙しているらしい。この後、お互いどう動くかが艦隊司令の腕の見せ所だろう。


とはいえ、それをワクワクして観戦する余裕はない。

何を隠そう、オレ達が潜伏している廃棄ステーションも同じ惑星の衛星軌道上にあるからだ。

つまり、両軍の行動次第では、戦火に呑まれる可能性がある。


相手は数百隻の砲火の撃ち合いだ。ゴミでしかないデブリと廃棄ステーションの残骸は、文字通り木っ端みじんになりかねない。そうなれば、残っていたデータもパアだ。

ここまで来た以上、戦闘が始まる前にデータ回収してしまおう。


周囲の調査もそこそこに、倉庫エリアを進む。

実際、廃棄ステーションに防衛装置なんて残っていないので、すぐにサブ管制ルームを見つける。


「おう。ジーザス」


中を見て、ひどい状況に口から悪態が漏れる。


予想していたが、データルームは故意に攻撃された形跡がった。部屋に内蔵されるように設置された各機器には弾痕がのこり、さらに、部屋の中で爆発させたような跡まである。

モニター系列は割れており、使い物にならない。


とはいえ、まだ想定の範囲内だ。

ステーションがあの状況でまともなデータが残っているとは思っていない。


持ってきた推進ボードを引き寄せて、収納ボックスから工具を取り出す。

推進ボードは移動もそうだが、宇宙空間での作業補助の役割もある。予備電源から各種工具。さらに作業時間延長用の予備空気なども内蔵されている。


「無事な記憶媒体だけでいいぞ」

「わかっている」


同じように工具を取り出してヘックスは返事をする。

実際問題、ステーションから供給する電源がない以上、これらの電子機器は稼働しない。破壊されているので、電源があってもまともに動かない可能性が高い。


とはいえ、中の個々のパーツに関しては別だ。電子機器の中の記憶装置はあくまでもパーツの一つであり機械としての稼働が壊れているだけで、パーツには問題がない場合がある。

室内の破壊は明らかに無差別で、機器の中に内蔵した記憶装置を狙って攻撃した物ではない。破壊されたのも外側だけで、内部のすべてが破壊されたわけではない。


ヘックスは、推進ボードから電源を引いてメモリーラックの電源を入れている。中から無事なデータを取り出そうとしているのだろう。


オレは、中央のパネルを外して中のケーブルを引っ張り出して、内部構造に光を当てる。

その後は?

内部構造を見越したところで、一歩パネルから離れる。そして、剣を抜いて上段に構える。


「便利だな。それ」

「いいだろぉ」


オレのやる事が分かったヘックスの言葉に笑って返すと、剣をひらめかせる。


キキン


再度いうが、必要なのはパーツだ。部屋に固定され取り外しの邪魔になる外装と他の機器は壊れても問題ないのだ。

あとは、大きく切り取った壁を外して、内部の記憶媒体を外すだけだ。

楽な仕事である。


そう思いながらケーブルを外していたのだが、楽な仕事といえる状況でない事を思い出してため息をつく。


「ど~するかなぁ…」

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