第12話 「知らなかったよ」という言葉を飲み込む
「よくやった」
ステーションの奥でオットー組合長に呼ばれてねぎらいの言葉をかけてもらう。
密輸船の荷物強奪にオレ達は成功したのだが、同時多発的に実施した今回の襲撃は、失敗もいくつかあったようだ。
そんな中でも最少人数で成功させたオレ達は「よくできました」という事なのだろう。
「そいつはどうも」
「まず、オヤジからこいつを預かっている」
そう言って差し出されたのは、一本の剣だ。
対艦用機銃の実弾を切り払ったために、壊れてしまった剣を、新しく作ってもらっていた。
やたら気合が入っていて、黒塗りのさやまでついている。
引き抜くと、スクラップからではない金属の刃があった
「古い資料を調べて素材から製造したらしい」
「スクラップの削り出しでいいと言ったのに」
「そう言うな。あんたの活躍を、オヤジも喜んでいるんだ」
まあ、機銃の弾丸を切り払った事は、海賊達の中でも噂になったらしく、それまでは変な武器を持ったオッサン程度の認識だったのだが、今では一目置かれている。
おかげで突っかかってくる奴もいるのだが、そんなわけで、唯一の武器である剣を入手するのは最優先事項だった。
とりあえず、これで一安心という所だ。
「で、報酬の話だ」
「荷物は無事だったんだろ」
海賊の仕事は歩合制。略奪した荷物の被害が少ないほど儲けが出る仕事である。
「ああ、吹っ飛ばなかったからな」
「…吹っ飛ぶんだ」
「武器弾薬だからな」
「へぇ…」
「知らなかったよ」という言葉を飲み込む。
そりゃ、海賊船も荷台への攻撃をためらうはずだ。突入要員がオレ(部外者)一人だったのも、最悪の場合の被害は最小限で済むからだというのなら、納得はしないけれども理解はできる。
そうか。あの機銃の攻撃は荷物を渡さないようにする為の最後の手段だったのかもしれないな。
そうか。だからこうやって、わざわざお褒めの言葉をくれたんだ。
…。
……ふぅ~ん。
出荷する豚を見るような目をしていた飼い主の家に戻ってきた豚のような乾いた笑いを浮かべる。
「お望みの船は用意した。ライセンス取得済みだ。違法改造もない」
そう言って船の資料を渡してくれる。
宇宙船は同じ船でも製造過程でいくつかの形式に分かれる。
一つは、メーカーが製造した正規品。これについはメーカー保証も付いており、問題があれば賠償までできる保障のある船だ。
次が、ライセンス製品。
すべての船をメーカー工場で製造していては、配送のコストや安全面でも問題が出てくる。
そこで、企業は製造データだけを客先に送り、現場で材料を集めて製造させるという販売方法を編み出した。
作業工程はオートメーション化により確定されており、現場の工場で製造データを入力して作らせるだけですむ。後は、素材や製造過程に不備がないか工場の製造ログをメーカーが吟味して、製品基準に問題がなければ、ライセンス登録をする。
この場合、作られた船の保証は、作った工場側と折半になるので、メーカー側の被害も抑えられる。後は、工場で作れば作るだけライセンス料がメーカーに入るという仕組みだ。
もっとも、工場側もしたたかなもので、正規品ではできない改造・改良を請け負い、独自に利益を出したりもする。
とはいえ、これらの船は正規の船であり、普通に航行することができる。船に乗っているだけで捕まるリスクはない。
「で、これはボーナスだ」
「追加の仕事はしないぞ」
「今回うまくいった礼だよ。空荷で移動もおかしいだろ。金になる資源を用意した。船に積み込めば怪しまれないで取引できる」
「そうか」
船で旅をするだけという人もいないではないが、理由もなくフラフラ飛んでいる宇宙船というのも怪しい存在だ。
荷物があれば、取引途中だと言い訳できる。
実際に資源をどこかで売却すれば、まっとうな金が手に入る。それを元手に商売をしてもいい。
「今回の仕事は本当に助かった。ありがとうソードマスター」
そういって右手を差し出すオットー組合長。
たしかに、過程に目をつぶって、結果だけを見れば万事問題なく終わったともいえる。
過去は振り返らないものだ。
「期待に応えられてよかったよ」
これまでの事には目をつぶって、笑顔でその手を取る。
さあ、シャバに帰ってカタギになろう。
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次回予告!
シャバには帰れません。
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