第27話閑話 ガンマンの腕

「(なんだアレは…)」


海賊ナディアの背後に立つ用心棒は、その男達が部屋を出るまで、ホルスターにかけた手を外すことはできなかった。


長年、無法者の世界で生きて来た。何度も修羅場を潜り抜け、文字どおりこの腕で生き延びてきた。


荒くれ物の海賊である。下らない理由で銃を持ち出すような連中だ。

そんな中で腕を磨き、ここらの辺境でも一、二を争う腕を持っていると自負できる。ここの海賊団でオレに勝てる奴はいない。



だから、最初何も感じなかった。


バトルスーツの男が、ホルスターに手をかけた時ですら(それがブラフであるとわかっても)、勝てる自信があった。


自分のほうが早い。相手の銃を撃ち落とす。あるいは、急所に一撃を入れる。体制を崩すだけでもいい。後は周りにいる同僚と一斉に攻撃すれば、どんなバトルスーツを着ていても勝つことができる。負ける要素はなかった。


ボスであるナディアを守る事が出来ると確信していた。だから、銃を抜くことはなかった。抜く必要すらなかった。



だが、そいつの動きは違った。

負ける要素などなかった。警戒する事もなかった。腰に差した原始的な武器に手をかける事すらしていなかった。


何気なく歩くのを見て…

姿が消えた。銀線が閃いた。


その動きを見えたわけではない。勘に従って銃を抜いた。

同僚たちの誰よりも早かった。



だが、剣を突きつける方が早かった。



そして、何度考えても勝つ方法が思いつかない。あの距離で相対した時。決闘のようにすべてを集中して、最高の抜き打ちなら。

そう考えるが、別の自分が反論する。

抜く事すらわからなかったのに勝てるのか。


完全に眼中になかった相手が、対処不能の未知なる脅威だと理解出来てしまった。

数を頼りに攻撃すれば勝てるかもしれない。勝てるはずだ。

だが、確証はない。


なんだアレは…


「ふっふっふっふっふ」


前に座っているボスが机に肘をつき、両手の指先を合わせて、上機嫌な声を上げる。


「さてさて、本物かねぇ…」


そう言うと、椅子から降りると軽い足取りで机の前に移動する。


そして、床に転がる男の顔を、腰を折ってのぞき込むと笑顔を見せる。

愚かな男だ。海賊団の仲間になりながら、その仲間を裏切って殺し、さらには戦利品を奪って逃げた。

草の根を分けてでも探し出して殺されるべき下種だ。


「礼を言うよレガート。アンタみたいなカスのおかげで、とんでもないもんが飛び込んできた」

バシュ!


そういうと笑顔のまま腰から抜いたブラスターで、男の頭を打ち抜く。

海賊にも面子がある。賞金までかけた以上、この男が生き延びる事はありえない。


「一思いに殺してやるよ。アタシからのご褒美だ」


だが、私刑にするわけでもなく、拷問にかけるでもなく、一思いに殺してやる事は、この男にとってまだ幸運な終わり方だったかもしれない。

そして、ボスにとっては、一思いに殺してやる慈悲をかけるに値する事をしたというわけだ。


「ボスはあの男を知っているのですか?」

「いいや。知らないね。でも、会ってみたいとは思っていたんだ」


オレの問いに、ナディアは答える。

外の部下に死体の始末を命令して、自分の席に戻りながら、上機嫌で言葉を続ける。


「噂の男にさ」


そして、笑みを浮かべた。




【ちょっと補足】

歴戦の海賊という事は、二十年前(主人公投獄前)は現役バリバリの全盛期だったという事。当時の海賊の噂話ならリアルタイムで知っているでしょう。

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