第28話 数字はウソをつかない

「オレが悪いって言うのか!」

「じゃあ、誰が悪いんだよ」


不毛な言い争いをしているが、誰が悪いかと言えば、どっちも悪いのだ。

いや、正確に言うならば「どちらも悪くない」だろう。


辺境の古参の海賊団と友好的に付き合おうと、相手の面子に尊重して交渉したヘックスも。そんな歴戦の海賊に、完璧な技を披露して気に入られたオレも。どちらも原因と言える。


1+1は2である。

異世界でも宇宙でも、数字はウソをつかない。


OSSにおいて、後ろ盾の有無はすべてに優先される。後ろ盾があれば、どんな雑魚でも一目置かれるし、後ろ盾なしでは、一生最低ランクの信用しかない。

違法採掘船の護衛で個人的信用は得られても、しょせんは日雇い用心棒だ。毎日の晩酌で終わりだ。



そういう意味では、オレもヘックスも海賊ナディアに命を懸けるつもりもなく、OSSの生活でおこぼれにあずかれればいいなという程度のつもりで、今回の交渉に臨んだのである。


スゴロクとは違い、人生ではサイコロで「6」の目が出たからと言って、良い事ばかりではないという事だ。



「…」

「…」


想定していた報酬額とは一桁違う仕事が回ってきたのである。当然だが、報酬と依頼の難易度は基本的に比例する。


当然、断る事はできない。

わざわざ腕を売り込みに行って、破格の報酬で仕事を回してもらって、やっぱりナシなんてできるわけがない。


古参の海賊から「ウチの面子を潰して、キャッキャとハシャグのは楽しいか小僧」と言われて、明るい未来を想像できる奴は普通いない。


おかしい。オレ達は今日の晩御飯をちょっと豪華にしようとしただけなのに。


「どうするんだよ。ヘックス」

「やるしかないだろ」

「絶対裏があるだろ」


そんな怪しい仕事内容は、とある放棄された秘密基地のメインコンピューターからデータを回収してきてほしいという、どうみても組織と関係のない人間に任せる仕事じゃない。



秘密基地。隠しステーションというのは、広大な宇宙に数多存在する。

それも、合法非合法問わずだ。

非合法に関しては、宇宙海賊ナディアの根城としての秘密基地などが良い例だ。


だが、中には合法的にというか、正規の組織のつくる秘密基地も存在する。


たとえば、現在の法律では犯罪ではないが、研究をすすめる上で法による規制を受けそうな材料となると、現段階でそれを研究する事は、まだ違法ではない。


だが、違法になったので研究が中止となれば、それまでの経費は回収できない。

そして、何事もそうだが、初期投資というのは経費の大きな割合を占める。その経費を回収できるまでは、研究を進める必要があるわけだ。


そこで、研究をしている事を世間には秘密にする。研究している事実がないのだから、法規制されることもない。

それが危険なウイルスや兵器であっても、理論上において規制はされないわけだ。


とはいえ、リスクはどんなものにも存在する。


秘密にしていた研究内容が漏れる。ライバル企業に見つかる。あるいは、非合法組織の襲撃にあった。


そうなった場合、製作者側は様々な対策をとる。まあ、ピンからキリまでいろいろなケースがあるが、一貫して言えるのは、隠しステーションを廃棄するという事だ。

存在がばれてしまえば、秘密にする理由もなくなるのである。


そんな所からデータを回収しろと言われた。

それも、身内の海賊ではなく、わざわざ外部の人間の依頼である。

裏があると思うのは当然だろう。


「見ろムサシ。どうもオレ達の仕事はハッカーの護衛という事らしいぞ」


指示内容をヘックスが指さす。

確かに、そこにはデータを回収するための要員ハッカーが同行すると書かれている。あくまでも、廃棄された秘密基地にデータ回収要員を連れて行って、護衛をして帰ってくるだけの仕事らしい。


「それなら安心…出来ねぇよなぁ」


オレの言葉に、ヘックスも大きくため息をつく。

その程度の仕事なら、これほど報酬が高いわけがない。

絶対に何かあるだろう。


「出来るだけ準備はしておこう」

「おう。ジーザス」


それで解決するのかわからないけどな。

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