第107話 おう。ジーザス

辺境の星系に小さい火の玉が二つ観測された。

星系政府はそれを帝国との戦争による被害だと結論つけた。


その日、戦時中の為に制限しているステーションから数隻の宇宙船が出港した。

彼等がステーションの定住者ではなく、一時滞在者であった事から、特に誰も問題視しなかった。

実際、彼らは無事に帰ってきたし。帰ってこなかった船もあったが、被害届もない事から別星系に避難したのだろうと結論付けた。


数週間後、電子ニュースの一面に、この星系で起きたちょっとした美談の記事が載った。

被害者は最小限の被害で済んだ事を公式に感謝し、共和国軍も被害の補填をするという事で美談は締めくくられ、そのまま多くの情報の中に埋没して忘れられた。


ただ、それだけの話。




「この振動は切っても切れない縁なのか?」

「前の船より、まだマシだろ」


特殊部隊と共にステーションがきれいな花火になったのを確認して、ヘックスはガルベルトに連絡を取り、救援及びデブリ回収にやってきてくれた。

ガルベルトとの軽い交渉の末、共和国軍の弱みに付け込んだ作戦を受け入れてもらう。ガルベルト達も、ステーションこそなくなったが、元々放棄する予定だったし、その分開拓事業への補助が出た方がいいという話だ。

その辺の思い切りの良さはフロンティアスピリッツという奴なのだろう。


で、オレ達はその分の代金を頂くことになった。

中途半端に使えないシャトルではなく、れっきとしたフリゲート級の宇宙船を一隻譲渡してもらう。


まあ、戦闘艇を無理やり改造して貨物を増強した改造船だったが、宇宙を移動する機能に支障はない。無理な改造だったのか、搭乗員におよぼす振動については、もう諦めた方がいいだろう。

船の名前はすぐに決まった『シェイク号Ⅱ』だ。


「金とか物資はいいのか?」


で、一緒に乗っているヘックス。

もうお前も関係ないから親父さんと一緒に開拓に行けよと思ったが「返さなきゃならない借りが二つもあるからな」と、言われてついてくることになった。

そういうわけで、宇宙船の操縦をはヘックスに任せる事にする。


「共和国からの保証が出るまで、ここに隠れるとか無理だろ」


宇宙船をもらったとはいえ、仕事もなければ先立つ物もない。金はあるけどあくまでオレの個人資産(現金)分だけだ。

前にもらった換金用の荷物は船ごと放棄しちゃったからな。


今回はきちんと仕事をしたことだし、可能であるなら、骨の髄までしゃぶりつくしたいところではあるのだが、その支払元となるのは共和国軍だ。

軍隊とオレ達の相性はすこぶる良くない。


お互いの安寧の為には会わないに越した事はないのだ。


そして、ガルベルトにも言わなかったが、金になるネタはあるのである。


「ふっふ~ん」


腰のポケットからデータスティックを取り出して、上機嫌でヘックスに見せびらかす


「なんだ。それは?」

「巡洋艦のブリッジ制圧した時に、重要そうなデータをとりあえず持ち出したんだ。どうせ船はドカンでアシが付くことはない。お宝の匂いがプンプンするだろ」


そのまま操縦はヘックスに任せて、自前のPDAにつなげて中のデータを調べていく。


「面倒事の匂いもするがな」

「はっ」


ヘックスの皮肉を鼻で笑いつつ、PDAを操作する。

訳の分からない内容も多くあるが、見るからに怪しい情報も見つかる。さすが汚れ仕事専門部隊だ。


と、そこで一つのデータを見つけた。


「なあ、マスターキーってなんだ?」

「ん?」

「あの特殊部隊が今回の件で手に入れようとしていたらしい」

「…ああ、なるほど。そういう事か」


オレの言葉を聞いて納得するようにうなずくヘックス。


「フロンティアワンのアーカイブにアクセスできる個人キーだ。ステーションがなくなってもマスターキーがあれば、あのステーションの役割を継承できる」

「ふ~ん。そんなものがあるのか」


なるほど。伊達に宇宙開拓期から続いていない。危険な開拓で、知識と技術を継承し続けるシステムを構築しているという事だ。

まあ、オレには関係ない事だけどな。


「ちなみに今のマスターキーはお前だ」

「…は?」


オレには関係ないはずでした(過去形)。


「なんで?」

「都合が良かったからだ。あのステーションの住人は元より、この一帯の開拓民の一族は奴らにマークされているとみて間違いない」

「勝手に部外者を巻き込むな!」

「お前は、本来帝国に帰る予定だっただろ。顔の割れていないお前が帝国に入ってしまえば、共和国でも手が出せない。後は、向こうの同胞に連絡を取ればいいだけで、安全というわけだ」


なるほど、確かに共和国内にとどまる限り、その影響力を無視する事は出来ない。

だが、敵国である帝国に行けば共和国の人間では後を追う事は難しい。しかも、オレが帰国しようとした方法は辺境からの密入国だ。一個人の足取りを追う事は困難を極めるだろう。

つまり、共和国の手から逃れるには、これ以上ないほど安全という事だ


ただし、帝国にいるならば。


「ここ、共和国だよな」

「そうだな」

「マスターキーの変更は?」

「元のステーションが木っ端微塵だから無理だな」


無法者になろうと決めました。もうやるだけやってやろうと覚悟しました。

でも今は逃げ出したい気持ちでいっぱいです。


「おう。ジーザス」




ーーーーーーーー


というわけで、第一部 完となります。

第二部以降の構想もありますが、ある程度書き溜めてから改めて投稿させていただきます。


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